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G7伊勢志摩サミットに集う欧州首脳の胸中-協調的財政出動が困難なそれぞれの事情-伊藤 さゆり

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経済研究部 上席研究員 伊藤 さゆり

■要旨
  1. G7伊勢志摩サミットでは機動的財政出動での合意が見込まれるが、財政ルールへの適合状況、政治サイクル、景気認識の差が制約要因となるため、欧州諸国の新たな協調的行動にはあまりを期待できない。
  2. イタリアは政府債務残高の水準が高いため、EUのルールで財政出動の余地が制限されている。レンツィ首相の構造改革の取り組みが評価され、中期財政目標からの一時的逸脱は認められたが、17年には健全化措置の上積みを要する。
  3. フランスは歳出削減を中心とする過剰な財政赤字の削減プロセスにある。オランド大統領は、17年4月の大統領選挙を控え、高失業解消の切り札として労働改革関連法案の制定を進める。支持母体の労働組合の反発は強く、全土でデモが繰り広げられている。
  4. 英国のキャメロン首相はおよそ1カ月後にEU残留か離脱かを問う国民投票を控えて国際的な政策協調を検討する余裕に乏しい。経常赤字が高水準であり、国民投票が離脱多数となった場合には、資本が流出、経済が下振れ、財政にも悪影響が及ぶおそれがある。
  5. ドイツは、財政面では余裕があるが、経済は底固く、財政政策の活用に対する慎重なスタンスは当面変わらないだろう。難民関連支出の増加もあり、財政は十分に拡張的という認識だ。17年秋に総選挙を控え、難民危機対策では深い悩みを抱える。

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■目次

・伊勢志摩サミットには欧州4カ国首脳とEU大統領、欧州委員会委員長が出席
・機動的財政政策の大枠では賛成
・財政出動での協調行動を制約する財政ルールへの適合状況、政治サイクル、景気の状況
・財政出動のニーズが高いイタリア
・レンツィ首相は構造改革の推進で財政余地を引き出す
・フランスのオランド大統領は大統領選を前に労働法改正で構造的失業解消に挑む
・英国のキャメロン首相は1カ月後の国民投票での残留支持獲得が最優先課題
・ドイツは十分に拡張的な財政運営を行なっていると認識。政治的最優先課題は難民対策

伊勢志摩サミットには欧州4カ国首脳とEU大統領、欧州委員会委員長が出席

20~21日の仙台での財務相・中央銀行総裁会議に続き、26~27日には賢島で首脳会議(以下、伊勢志摩サミット)が開催される。

伊勢志摩サミットには、欧州からは、英国、ドイツ、フランス、イタリアの4カ国の首脳とドナルド・トゥスクEU大統領(欧州理事会常任議長)、ジャン=クロード・ユンカー欧州委員会委員長が出席する。

安倍首相は、3月末に米国のオバマ大統領、カナダのトルドー首相と会談、今月初めには欧州機関の本拠地があるベルギーを含む欧州5カ国を訪問、G7として世界経済について強いメッセージを発するため、欧州の首脳らと調整を行った。

機動的財政政策の大枠では賛成

首相の欧州歴訪に関する一連の公表資料や報道によれば、欧州4カ国の首脳では、イタリア、フランスが機動的財政出動に賛意を示し、歳出削減に積極的に取り組んできた英国、健全財政にこだわりが強いドイツは消極的だったと伝えられている。

それでも、G7の合意文書に「それぞれの国が事情に応じて」「構造改革の加速と合わせて」という但し書き付きであれば、「機動的に財政を出動する」といった表現を盛り込むことを妨げることはないだろう。ドイツのメルケル首相も「金融政策と財政政策、構造改革を同時に進めていくことが重要」と述べており、財政出動という選択肢を否定した訳ではない。英国のキャメロン首相も、「それぞれの国の事情を反映しつつ」という前提で「金融政策、機動的な財政出動、構造改革をバランスよく協力して進めていくことが重要」という点では賛意を示している。

財政出動での協調行動を制約する財政ルールへの適合状況、政治サイクル、景気の状況

財政出動での協調行動を制約する財政ルールへの適合状況、政治サイクル、景気の状況

日本は、伊勢志摩サミットで「ニッポン一億総活躍プラン」を示し、機動的財政政策の具体的行動として、17年4月に予定されている消費増税の再延期を決めるとの観測が流れている。

これに呼応した欧州4カ国からの新たな協調的財政出動については、あまり期待できない。一層の財政拡張には、(1)財政ルールへの適合状況、(2)政治サイクル、(3)景気認識の差が制約要因となるからだ。

財政出動のニーズが高いイタリア

財政出動のニーズが高いイタリア

機動的財政政策について前向きな姿勢を示したとされるフランスとイタリアは、景気という面では財政出動のニーズがある。

特にイタリアの不況は深刻だ。世界金融危機による落ち込みから回復しないまま、ユーロ圏内で債務危機が広がったため、イタリアの景気後退は長期化、15年に入って、ようやくプラス成長を維持できるようになったばかりだ。実質GDPの水準は世界金融危機前の水準をおよそ8%下回っており(図表1)、失業率は16年3月の時点で11.4%とG7で最も高く、潜在成長率はマイナスに沈んでいる(図表3)。

フランスは、実質GDPでは世界金融危機前の水準を回復しているが、失業率は10%で、イタリアと同じく、世界金融危機前の水準を大きく上回っている(図表2)。税・社会保障費の負担や、雇用関連の規制も含めたコストの高さが、雇用の創出を妨げている。

両国の財政出動には、財政ルールへの適合状況が制約要因となっている。フランスは、財政赤字の対名目GDP比が15年も3.5%とEUの過剰な財政赤字の基準値である同3%を超えており(表紙図表参照)、17年を期限に財政赤字を基準値以内に引き下げるプロセスにある。主に歳出の削減を通じた目標の達成を求められている。イタリアは、財政赤字は同2.6%で基準値以内だが、政府債務残高は同132.7%と基準値の60%から大きく乖離している。ユーロ危機を教訓として強化された新たな財政健全化ルールでは、一定のペースで過剰な債務の圧縮に取り組むことが義務付けられている。ユーロ参加国は、毎年春に欧州委員会に提出する構造改革計画と中期財政計画を提出、計画と中期財政目標(MTO)との整合性のチェックを受ける。

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レンツィ首相は構造改革の推進で財政余地を引き出す

イタリアのレンツィ首相は、長期に亘る景気後退に歯止めを掛けるため、2014年2月の就任以来、構造改革を推進する一方で、財政ルールに整合的な形での積極財政を追求してきた。

2015年には解雇規制の緩和などの包括的労働市場改革が実施され、銀行システムの問題にも協同組合銀行の株式会社化による再編促進や、長期不況で膨らんだ不良債権処理加速のため証券化の枠組み作りや破綻法制の改革などに着手した。政治の不安定さを招き、規制改革加速の妨げとなった議会制度の改革にも着手、今年7月には新たな下院選挙法が施行、秋には上院の権限縮小のための憲法改正のための国民投票が行なわれる見通しとなっている。

財政面では、EUの欧州委員会に、将来の成長につながる公共投資や構造改革に関連する支出についてはMTOからの一時的な逸脱を認める「例外規定」の適用を求めてきた。「例外規定」は、財政ルールが厳しすぎて、成長のために必要な公共投資や、構造改革の効果を高めるために必要な政府支出を妨げ、潜在成長率の回復、ひいては政府債務残高の安定化を疎外する悪循環を回避するためのものだが、濫用すれば、大国の財政ルール違反を許容し続けた結果、周辺国の財政危機を招いた教訓を生かせず、危機の再発を許すおそれがある。

こうしたジレンマを抱えながら、5月18日、EUの欧州委員会は、イタリアの中期財政計画のMTOへの適合性の審査結果を公表した。イタリアの計画は、MTOが求めるGDP比0.5%相当の財政健全化の目標に達していないが、公共投資や構造改革のための支出によるものとして、レンツィ首相の主張を受け入れた。

しかし、欧州委員会は、2017年には少なくとも同0.6%相当の健全化措置を求めてもいる。ルールを厳格に適用すれば発動されることになった罰金などの制裁が回避されたに過ぎない面もある。レンツィ政権は、今後も政策の重点を、構造改革に置かざるを得ない。

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