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本当は恐くない国民病「認知症」の正体

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最初は面倒でも結果的に効率よく

ユマニチュードのユニークな点はこれだけではない。ケアの技術だけでなく、ケアのアプローチとフォローアップについても具体的な心得がある。これは大きく5つのステップに分けられている。

まずは「出会いの準備」。部屋に入る前に3回ノックをして3秒待つ。反応がなければ、再び3回ノックをしてまた3秒待つ。それでも返事がない場合には1回ノックをして、そこではじめて入室する。入室してからもベッドボードや壁をノックして返事をうながす。こちらの都合でケアを始めるのではなく、相手の同意を得たうえでケアに入る。

次の「ケアの準備」ではケアについての同意を得る。所要時間は20秒~3分。3分以内に同意が得られなければ諦める。同意のない「強制ケア」は絶対に避ける。その際、いきなりケアの話はしない。「オムツを替えましょう」と作業を伝えるのではなく、「お話に来ました」とかかわりを求めていることを強調する。

了解が得られれば、ケアに入るが、そこで心がけるのは「知覚の連結」。

笑顔、穏やかな声、やさしい触れ方。この3つを同時に用いて、ケアを受ける人が心地よく感じられる状態をつくる。特に「触れる」では、無意識のうちに効率を重視した動きになりがち。やさしく触れる技術を体に覚え込ませるのは時間がかかる。

「ノックをするのも、やさしく触れるのも、最初は面倒だと思われるかもしれません。介護現場では『そんな余裕はない』という反応もあります。でも嫌がる相手に無理矢理ケアを行うのも大変です。ユマニチュードをしばらく続ければ、患者さんと信頼関係が構築でき、それからのケアはグッと楽になります」(伊東さん)

ケアの後は「感情の固定」を行う。すこし大げさに「楽しかったですね」と伝え、いい時間を共に過ごしたことを振り返る。認知症が進んでも感情記憶は保たれている。「名前はわからないけど、いい感情を残してくれる人」という形で覚えてもらえる。

そばを離れる前には「再会の約束」をする。記憶ができない人だとしても、「この人はまた来てくれるんだ」という感覚を感情記憶にとどめてもらえる。その場で具体的な日時をカレンダーに書き込むといい。

いま介護現場では高い離職率が問題になっている。背景には待遇の悪さや人手不足だけでなく、効率を重視した強制的なケアへの後ろめたさもあるのではないか。日本ではまだ始まったばかりだが、フランスではユマニチュードの導入が進んだ結果、介護職員の離職率も低下したという。伊東さんは「患者だけでなく、介護者のためにもなる」と話す。

「これまで介護現場では『相手の立場に立つことが重要だ』と言われてきましたが、具体的な方法がわからなかった。一方、ユマニチュードは誰にでも習得できる技術。患者さんからの拒絶に悩んでいる介護者にとって、助けになるはずです」

▼「ユマニチュード」4つの柱

(1) 見つめる――同じ目の高さで、正面から。認知症の人は視野が狭いため、様子を見ながら20センチまで近付く。0.4秒以上の長さが重要。

(2)話しかける――やさしく、穏やかな声を使う。前向きな言葉で、会話を楽しんでいることを伝える。相手が黙っていても声をかけ続ける。

(3)触れる――広い面積で。ゆっくりと、やさしく、一定の重さをかけて、手の平全体で触る。上からつかんだり、つまんだりはしない。

(4)立つことをサポート――体は持ち上げず、腕もつかまない。自分の力で立つことを助ける。40秒立てれば、清拭など立位でのケアができる。

▼心をつかむ5つのステップ

(1)出会いの準備――まず3回ノック。3秒待ち、再び3回ノック。3秒待ち、1回ノックしてから部屋に入る。返事があれば次のノックは不要。

(2)ケアの準備――目が合ったら2秒以内に話しかける。同意が得られるまでケアの話はしない。3分以内に同意がとれなければ一旦諦める。

(3)知覚の連結――「見る」(笑顔)、「話す」(穏やかな声)、「触れる」(やさしい触れ方)のうちの2つを同時に行う。効率より相手の心地よさ。

(4)感情の固定――「たくさんお話できて楽しかったです」と、すこし大げさによい時間を共に過ごしたことを振り返る。前向きな感情記憶を残す。

(5)再会の約束――「また来ますね」と握手をして別れる。具体的な日時をカレンダーに書き込む。「約束してくれた」という感覚が重要。

画像を見る鳥取大学 教授 浦上克哉
1988年鳥取大学大学院博士課程修了。2001年より現職。日本認知症予防学会理事長、日本老年精神医学会理事。

画像を見る 東京都健康長寿医療センター研究員 伊東美緒
2008年東京医科歯科大学大学院博士後期課程修了。1999年より現職。

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