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GDP2期ぶりプラスも相変わらず低成長それでも失業率が低いのはなぜ? - 塚崎公義

2015年度の経済成長率が発表され、結果は前年度に比べて0.8%の成長ということでした。「経済成長率が低いから不況だ」と考える人は多いのですが、その割に失業率は低く、労働力不足が続いています。

 今回は、経済成長率と失業率について考えてみましょう。

経済成長率とは、実質GDPの増加率

 GDP、成長率といった言葉は誰でも聞いたことがあると思いますが、それは何? と聞かれると困る人も多いのではないでしょうか。

 GDPという統計は、日本語では国内総生産で、国内で作られたモノ(財やサービス。以下同様)の金額を合計したものです。モノが作られるのは、売れる見込みがあるからなので、基本的には作られたモノは使われるもの、と考えてよいでしょう。

 実質GDPの増加率というのは、GDPの増加率から物価上昇率を引いたものと考えてよいでしょう。物価上昇率を引くと、「国内で作られたモノの量がどれくらい増えたか」という統計になります。

 実質GDPの増加率が大きい(つまり経済成長率が高い)という事は、モノがよく売れるので日本企業が活発にモノを生産しており、そのために多くの人を雇っている、ということを意味しています。つまり、経済成長率が高いということは景気が良いということだと考えてよいわけです。

「ゼロ成長だから不景気」と言われる理由は技術進歩

 では、成長率がゼロだったら景気は良くも悪くもない、という事なのでしょうか? そうではなく、「ゼロ成長だから不景気だ」と言われるのです。

 ゼロ成長ということは、前年度と同じ数量のモノが作られて売られて使われた、ということです。それならば、何も問題は無いようにも思えるのですが、何が問題なのでしょうか。それは、技術の進歩で失業が増えるからなのです。

 技術の進歩というのは、新しい発明発見の事ではなく、日本で使われている技術の水準のことです。企業が設備機械を最新のものに買い替えると、1人当たりの生産量が増えますから、今までと同じ量のモノを作るために必要な人数が減ります。昨年と同じ量のモノしか生産されなかったとすると、必要な労働力が減りますから、その分だけ失業が増えてしまいます。だからゼロ成長は不況と言われるのです。

 もっとも、日本では、いずれの企業もそこそこ立派な設備機械を持っているので、これを最新設備に入れ替えたとしても、それほど急激に必要人数が減るわけではありません。そこで、0.5%程度の経済成長率があれば、失業は増えないと言われています。逆に言えば、労働力が不足している時には0.5%程度の経済成長しかできない(それ以上の成長をするとインフレになってしまう)ということになります。こうした成長率を潜在成長率と呼びます。

 中国では、未だに旧式の機械を使っている工場も多いため、最新式の機械を導入すると一人当たりの生産量が激増します。そこで、7%くらい成長しないと失業者が増えてしまうと言われています。日本でも、高度成長期には今の中国と同様に潜在成長率が高く、「5%しか成長しなかったから不況だった」などと言われていたものです。

2015年度は低成長だが失業率は低下

 2015年度の経済成長率は0.8%と低いものに止まりました。これは、実質的にゼロ成長であったと言えるでしょう。第一に、2015年度が閏年であったため、自動的に成長率が高めになることを差し引いて考える必要があるからです。加えて、2014年度は消費税率引き上げ後だったため、「駆け込み需要の反動減」があり、GDPの水準が実力以下だったのですが、それと比べても低い成長率だったからです。

 上記によれば、成長率が低いと、景気が悪いと考えて良いはずです。したがって、成長率の数字だけを見ると、昨年度は景気が悪かったということになります。

 それなのに就業者数が増加し、失業率が低下して労働力が不足しているのは何故なのでしょうか。考えられる要因は二つあります。

 第一は、日本経済が人手を必要とする体質に変化しつつあることです。第二は、GDP統計が間違えていて、実はもっと成長率が高い、という可能性です。

人手を必要とする産業が伸びている

 産業別に労働者数を見ると、増えている筆頭は医療・福祉です。高齢化により、医療や福祉のニーズが高まっていることは自然なことです。問題は、医療や福祉が機械化しにくい分野だということです。つまり、「製造業は機械化が進んでいるので、一人当たりGDPが医療等の数倍ある。したがって、製造業の就業が1人減ると、医療や福祉の就業者が数人増えてようやくGDPが前年並みを保てる」、といった事が起きているわけです。製造業の技術が多少進歩したとしても、せいぜい「製造業が2人減って医療等が数人増えてGDPは昨年並み」といったところでしょう。

 そうなると、GDPは昨年と同じ水準だし、製造業の技術は進歩しているけれど、それでも人手が足りない、という事が起き得るのです。

 そうだとすると、今後の日本経済にとって最も必要なことは、労働生産性の向上(労働者1人当たりの生産量の増加)だという事になります。バブル崩壊後、長期にわたって失業問題が最大の課題であった日本経済ですが、今後は労働力不足が最大の課題となる、というわけです。

 そうなると、省力化投資が活発化してくるでしょう。これまで企業は省力化投資に不熱心でした。安い時給でいくらでも非正規職員が雇えたからです。したがって、今の日本経済には「少しの省力化投資で生産性が大きく向上する工程」が山のようにあるわけです。

 そうなると、今後は省力化投資が活発化し、景気はよくなり、生産性もあがるでしょう。日本経済にとって明るい材料だと言えますね。

GDPの統計が間違っているのかも

 本当にゼロ成長ならば、景気が悪いのですから、失業が増え、企業の利益も減るはずです。失業に関しては、上記のように医療や介護が伸びていることである程度説明ができるのでしょうが、他の職業の従事者も増えていますから、それだけで説明するのは難しいかもしれません。

 今ひとつ、企業収益が比較的好調なことも気になります。不況ならば企業収益は悪化するはずだからです。

 もしかすると、本当はGDPはもっと増えていたのかも知れません。GDPが増えているのに、統計作成官庁がそれに気付かなかったという事かも知れません。専門的になりますので細かい事は書きませんが、たとえば民泊などの新しい動きを統計作成官庁がどのように把握しているのか、気になります。

 統計作成は大変な作業で、担当官庁には本当に頭が下がります。決して批判しようとは思っていませんが、統計を使う側が、統計を作ることの難しさを理解した上で、発表された統計を「幅を持って理解する」ことが重要なのかも知れませんね。

 なお、本稿に御興味をお持ちいただいた方は、GDP等についての詳しい説明がブログの拙稿(http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12159998185.htmlおよびhttp://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12160000759.html)にありますので、そちらも併せて御覧いただければ幸いです。

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