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茂木さんの『日本映画・改造提案』について

脳科学者の茂木健一郎さんの発言は今やかなり広範囲に渡っている。ある種、脳科学という世界を越境して世の中の色んな事象に触れている。もっともNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」の初代司会者を務めていたのであるから、元々専門外の事にもコメント出来る能力を持っていたと考えると当たり前のことかも知れない。

最近でも「大学の文系は必要か?」「皇室典範」「オバマ広島訪問」というテーマからテレビで関する話題「ベッキー復帰について」「『ろくでなしこ」について」「カップヌードルCM中止問題」「ショーンK問題について」まで広い範囲の分野で発言を行っている。コメント力は凄いと思うが、正直当たっている場合もあり、当たっていない場合もあるとは思う場合もある。そして、先日こんな記事を見つけたのである。

『茂木氏“日本映画の不幸は批評サイトの不在”』
「『ロットマン・トマト』は日本で可能か?」
http://blogos.com/article/175783/

「ロットマン・トマト」は米国で始まった「映画評論サイト」である。英国・オーストラリア等の英語圏でかなり広範囲に普及している。サイトのデザインも独自で映画評論家協会に属するプロの評論家が投稿を行い点数制が用いられている。賛否両論あるが影響力は絶大で当然、賛同している映画関係者もいるが、また煙たがっている映画関係者もいる。
しかし、茂木氏の投稿によると「ポジティブな批判・的を得た評論は業界の活性化につながる」と同氏は考えているらしい。茂木氏はある種、映画業界の門外漢である。だから、日本映画関係者は一読して気分を害するかもしれない。ただ、私は茂木氏の発言は多少映画業界事情が分かっていなかったり、責任は伴わないものであっても、日本映画の振興に役に立つならある意味、耳を傾けなければならない提案であるかも知れないと思った。

筆者・吉川の主戦場はテレビとネットであるが、個人的には映画フリークであり、「ヒット番組に必要なことはすべて映画に学んだ」(文藝春秋刊)という本も上梓している。だから「日本映画には出来るだけ元気でいてもらいたい」と願うのばかりだが、その事を考えているとある2つの本の事を思い出すのである。

一つは柳下毅一郎著の「皆殺し映画通信」である。柳下氏はもともと映画評論家の町山智浩と「ファビュラス・パーカー・ボーイズ」と名乗り、かなりユニークな映画評論活動を行ってきた。柳下氏自身は多少クセはあるものの映画創世記からのあらゆる国の映画に精通する真っ当な評論家であり翻訳者でもある。「皆殺し映画通信」では有名無名の日本映画をかなりの数紹介する。ページはほとんどその映画のストーリーと映像の描写に使われるのだが、名作もちょっとだけ入るがトンデモナイ珍映画が大半だ。「こんな映画がいつの間にか日本で製作されていたのか?」と驚く作品がほとんどである。かなりの“高級・古典・名作映画”を見て来た柳下氏はまるで苦行僧の様に無名で話題にもならなかったトンデモ珍映画を見続ける。この本では高級ワイン・ロマネ・コンティしか飲んでいなかった人物が超低価格ワインを飲むようなもケースがほとんどなのである。読者はこの日本映画界が生み出した百花繚乱の有名無名の作品郡の概要を読みながら、「日本映画って大丈夫なの?」と心配になって来る。柳下氏のコメントは短いが寸鉄人を刺すが如くである。つまり、かなり高度な日本映画業界批判本になっているのである。「こんなの作っていていいの?」と問うて来るのである。

もう一つは、「フランス映画どこへ行く―ヌーヴェル・ヴァーグから遠く離れて」(林瑞絵著・花伝社)である。

パリ在住の林瑞絵氏が書いたフランス映画現状報告はなかなかの力作であった。かつての世界に冠たる映画大国の現在の惨憺たる状況を丹念に取材し描いてゆく。映画監督、プロデューサー、批評家、映画教育機関、業界関係者。・・・ハリウッド化する作風、国家に保護を受けているのにな難解すぎて客を呼べない映画、ヒットしてるのはテレビで人気のコメディアンのお馬鹿コメディ、予算の貧困に悩む独立系映画関係者・・・。日本人だから話してくれたのか、フランス映画界のかなりの大物から現場関係者まで本音を述べている。ある種、フランス映画の病巣の深刻さに困惑してくる。

かつて、アジア一の興隆を誇った日本映画もテレビの登場によって苦悩の道を歩んで来て現在に至る。私も、それを憂える一人である。そして「日本映画の黄金期よもう一度」と言う見果てぬ夢をもつ映画ファンである。

という訳で、ある日、信頼できる日本映画評論関係者にある提案をしたことがある。

日本映画関係者に取材して「日本映画どこへゆく」は出来ないか?本でも良い。ドキュメンタリーでも良い。

・・・提案した翌日、丁寧なお返事が来た。曰く「吉川さん。それは絶対に不可能です。俳優・監督・製作者・業界関係者・批評家等が口を開いて、現状を指摘し対応策を正直に述べたとしても、その証言者はその本が出版された瞬間に業界から追放されます。ですから絶対に不可能です。」

予測はしていたが「追放」までとは。・・・私は自分の見識の無さと現状認識の甘さを嘆くと共にある種の強烈な無力感を感じた。 だから偶然、茂木さんの「ロットマン・トマト」(映画批評サイト)導入の提案を読んで、「日本に導入出来たとしても参加した批評家は全て追放されることになりますよ」と思わず想起してしまったのである。一方、英米はその批評を受け入れ、その多様な意見により映画産業をより強靭なものにしてゆこうと言う余裕と意志と戦略があるのである。

茂木さんが日本映画のことを憂慮し提案をした気持ちはわかるが、日本においてこの業界の『闇』はかくも深いのだと思わざるを得なかったのである。

ふと日本映画に詳しい外国人映画ジャーナリストでも呼んで来て各日本映画関係者に匿名でインタビューを取ってまずは欧米で出版してから日本語で翻訳本を出せないか?等という幻想すら湧いてきてしまったのである。

『耳に痛い事やまっとうな指摘・批判・批評と環境変化に対する対応』を拒絶した業界が永続してビジネスを続けていくのはかなり困難だと思うからである。(了)

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