- 2016年05月18日 09:39
トランプのレガシー潰しとオバマの思い - 海野素央
1/2今回のテーマは、「オバマ大統領の広島訪問と2016年米大統領選挙」です。現職米大統領として初めてオバマ大統領が広島を訪問します。米大統領は任期終了が近づくと、歴史上自分がどのように語られるのかを考えるようになると言われています。10年後ないし20年後に、国民及び世界がオバマ大統領を振り返った時、同大統領は彼らが何を思い浮かべるのかを自分に問いかけ、歴史に残る理想的な人物像を描くのです。それを実現するために、「レガシー(政治的功績)作り」は最重な意味を持つのです。
画像を見るオバマ大統領とミシェル夫人と面会(2012年5月5日@南部バージニア州リッチモンド)
広島訪問を決断したオバマ大統領ですが、今年11月に投票が行われる大統領選挙との絡みが懸念材料になっています。事実上の共和党候補となった不動産王ドナルド・トランプ候補が、同大統領の広島訪問を原爆投下に対する否定及び謝罪であると退役軍人に訴え、「レガシー潰し」に走る可能性があるのです。ホワイトハウスは、その対策として退役軍人にオバマ広島訪問の意義を説明しています。
さらなる懸念も存在します。今回の広島訪問がクリントン候補にマイナスに機能し、仮に共和党が政権を奪還した場合、オバマ大統領のレガシーである医療保険制度改革は無効となり、同大統領の移民政策を継承した大統領令は新大統領の下では発令されないことになります。つまり、広島訪問は同大統領のレガシーが消えていくリスクを伴っているのです。
オバマ広島訪問は、大統領選挙とは切り離せません。そこで、本稿では異文化的視点を交えながら、オバマ広島訪問を米大統領選挙の文脈で分析していきます。
日本人の「お辞儀」
2009年11月、オバマ大統領は天皇、皇后両陛下を訪問した際に、握手をしながら90度のお辞儀をしました。私事で恐縮ですが、その頃、筆者はアメリカン大学(ワシントン)異文化マネジメント研究所で客員研究員として米大統領選挙を研究していました。同研究所のゲリー・ウィーバー所長とオバマ大統領のお辞儀について意見を交わしたことがあります。
ウィーバー所長は、日本文化に敬意を示したオバマ大統領を文化的感受性が高いと評価していました。ただ、同所長は、オバマ大統領は握手とお辞儀を同時にすべきではなく、どちらかを先に行うべきであったと指摘していたのです。
1980年代、日本の百貨店における新入社員教育では30度、60度並びに90度のお辞儀の練習を行いました。お辞儀は非言語コミュニケーションの一つであり、日本人はその角度によって相手に対する敬意の度合いをメッセージとして発信します。言語化せずに、お辞儀を通じて相手と気持ちを通わせることが可能になるのです。しかし、異文化環境では自文化の動作が他文化出身の相手に異なって解釈され、意思疎通ができない場合があります。
一部の米国人は、オバマ大統領が天皇陛下に深々とお辞儀をした動作を、「敬意」ではなく「謝罪」及び「弱さ」と捉えたのです。コミュニケーションの視点から説明しますと、送信者である同大統領の意図したメッセージ(敬意)と受信者である米国人の解釈(謝罪・弱さ)が一致しなかったのです。言うまでもなく、効果的なコミュニケーションは、送信者の意図したメッセージを受信者が正確に解釈した場合に成立します。今回の広島訪問が原爆投下に対する謝罪目的でないならば、オバマ大統領はリスクの高い深々としたお辞儀は回避するべきでしょう。
クリントンとトランプの狭間で
中西部インディアナ州インディアナポリスでトランプ支持者の白人女性にオバマ広島訪問について意見を求めると、「日本人の問題です。日本人がオバマの広島訪問を歓迎するならば賛成です。逆に、日本人が訪問を歓迎しないのなら(オバマの広島訪問に)反対します」と語っていました。トランプ候補及び共和党幹部は、オバマ広島訪問を原爆投下に対する否定及び謝罪と結びつけて、このような支持者の認識を変えていくことができます。
2012年米大統領選挙において共和党候補であったミット・ロムニー氏は、異文化に敬意を示して橋を架ける対話重視のオバマ外交を「謝罪外交」だとレッテルを貼り、米国が諸外国に対して謝罪する必要はないと主張しました。今回の米大統領選挙では野党共和党は、クリントン政権が内政と外交においてオバマ政権の3期目になると非難してくるのは間違いありません。
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