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ぼやけた法科大学院「失敗」論調

「苦境 法科大学院」というタイトルで、読売新聞が法科大学院をめぐる危機的状況にスポットを当てた3回にわたる特集記事を掲載しました。ご覧になられた方もいると思いますが、その第2回目(5月9日付け朝刊)で、同紙は予備試験と法曹の質という問題に言及しています。ただ、この記事にはとても違和感を覚えました。それは、いまの状況を大手新聞が、どう伝えるつもりなのか、その点がよく分からない、視点が定まっていないようにとれたからです。

 冒頭から展開されるのは、例外ルートに優秀な学生が流れてしまっている、という「抜け道」論の紹介です。それが「本流」になりつつある状況下で、法科大学院が司法試験対策を重視せざるを得ない、ということは伝えながら、それがどういう実害があるのかには具体的には触れなません。伝わるのは、要するに当初の趣旨、理念とは違う使われ方というだけの不当性です。

 もっともここまでは、これまでの「抜け道」論に立脚した、予備試験の現状に対する批判的な大新聞の捉え方にもみることがありました。ところが、一つ違うのは、ここからです。

 「法科大学院の失敗は法曹の『質』に影響しかねない」

 こう述べて、話は「質」の問題に移り、昨年、辞職した新人女性検事のエピソードを紹介しています。容疑を否認する容疑者に略式起訴をちらつかせて、否認撤回を迫ったととられかねない行動が発覚。取り調べ実習のやり直しを命じられたのに、女性検事が反発し、「一身上の都合」であっさり辞職した、という話です。「とりあえず目の前の事件を処理すればいいとの姿勢がにじみ出ている」というベテラン検事の嘆きのコメントを付けていることからも、同紙がこれを「質」の低下例として着目したのは分かります。

 しかし、記事の流れから、これが前段で大きく扱っている「予備試験」という「抜け道」の弊害なのか、と勘違いする読者がいるかもしれません。この記事には、「例外ルート 学生殺到」「予備試験『お金も時間も節約』」という、「抜け道」論につながるタイトルだけ大きくうたれているから、なおさらです。しかし、この女性検事は法科大学院出身者です。ここで話は変わってということかもしれませんが、予備試験出身者の具体的弊害には触れず、法科大学院出身者の具体的弊害に話は移っていることになります。

 あえて意地悪な見方をすれば、そんな法科大学院の「質」としての「実績」があるというならば、あるいはその点で志望者が「予備試験」に流れたとしても文句は言えないのではないか、という話にだってなりそうです。しかも、現に繰り返し述べているように、このタイトルにあるような「お金も時間も節約」が予備試験へ流れる動機付けであったとしても(これ自体、本当に不当といえるのかは疑問ですが)、要はそれを上回るような、法曹になったあとをにらんだ、教育の「価値」を志望者が見出せない、法科大学院が提示しきれない、というのは、現在の新法曹養成の根本的な問題として位置付けるべきことのはずです。

 「法科大学院の失敗」について、この記事はどこを強調したいのかが、今ひとつ伝わって来ません。この記事は、最後に加藤新太郎・中央大学法科大学院教授の次のような言葉を載せています。

 「法科大学院の乱立で教育の質もばらつき、結果として力の足りない法曹を送り出してしまったのは事実だ」

 この読売新聞の特集の第1回でも、同紙は法科大学院の苦境の最大要因として、当局が必ずと言っていいほどいう、例の74校乱立の「誤算」をそのまま挙げています。いまだに一番の「失敗」は、この乱立にあったという認識なのでしょうか。ただ、「結果として力の足りない法曹」の輩出という重大な結果を招いていながら、引き合いに出される、この誤算論は、いかにも法科大学院の失敗が、制度の本質とは違うところで発生したかのような、印象を伝えるものにもなります。

 予備試験、法科大学院出身女性検事を通した法曹の「質」劣化のエピソード、そして加藤教授がいう「結果」は、この記事のなかでかみ合わっているように読めません。肝心の本当に問われるべきことが一体何なのかが、ぼやけている。そこに予備試験の「抜け道」論につながる大きな見出しだけが踊っているようにみえます。

 ただ、これは単にこの記事の扱いだけの問題ではないのかもしれません。最近、話題になっている「適性試験」の事実上の廃止方向が、志願者数回復のはかない期待感のうえに繰り出されていることも含め(「法科大学院『適性試験』任意化方針が伝える手詰まり感」)、制度を死守するために問題の本質が直視されないのは、まさに追い詰められたこの「改革」論議の現実だからです。「失敗」の本質がぼやけているように感じるこの記事は、その現実そのもののようにみえるのです。

 前記新任女性検事のエピソードについて、こんな指摘をする弁護士ブログがありました。

 「真相は闇の中ですが、私が注目してみたいのは、この記事が紹介しているエピソードは、厳密に考えれば別に『法曹の質』に関するものでも何でもない、というところです。辞職に至る経緯・理由の話であって、法曹としてどうの、というより、社会人の振る舞いとしてどうなのか、という次元の話なわけですよ」
 「もしかしたら、『法曹の質』をめぐる議論というのは、ここまで落ちているのだろうか?、と驚愕せざるを得ません。今までの『法曹の質』とは、曲がりなりにも専門家としての知識や資質に関する議論であったと思うのですが、ここでは、それ以前の『社会人としてどうか』というレベルが表に出てきてしまっている。このことは、ものすごく深刻なことだと思わざるをえません」(Schulze BLOG) 
 
 これもまた、この読売の特集記事が単に必ずしも適切でない例を引用しているということなのか、それともブログ氏が懸念するような事態が本当に進行しているとみるべきなのか――。そのこともまた、本道を守るというベクトルのかかった「改革」論調のなかでは、ぼやかされている、というべきかもしれません。

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