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鎮痛剤依存治療の難題、プリンスさん急死で焦点-カギは救命後

By JON KAMP and ARIAN CAMPO-FLORES

 先月急死した米人気歌手プリンスさんの死因としてオピオイド系鎮痛剤の過剰摂取が浮上したことで、拮抗薬のナロキソンを使った救命の課題が浮き彫りになった。救命した患者をいかにして薬物中毒の治療につなげるかだ。

 司法当局者によると、プリンスさんは死亡する6日前、飛行中の機内で鎮痛剤パーコセットを過剰摂取した。飛行機はイリノイ州モリーンに緊急着陸し、搬送先の病院のスタッフが解毒剤ナロキソン(商品名ナルカン)を投与してプリンスさんを蘇生させた。

 毒物検査の結果が出ておらず死因はまだはっきりしない。しかし当局者によると、プリンスさんはミネソタ州ミネアポリス郊外にある自宅で死亡した際、処方鎮痛剤とみられる薬物を所持していたという。プリンスさんは薬物中毒専門家の治療を受ける予定だったが、間に合わなかった。

 米国ではオピオイド系鎮痛剤の過剰摂取が社会問題化するなか、各地の公衆衛生当局は主にナロキソンを使って救命処置を行っている。規制医療品に関する政策について情報を提供する「プレスクリプション・ドラッグ・アビューズ・ポリシー・システム(PDAPS)」によると、イリノイ州を含む39の州には中毒患者の友人や家族といった第3者へのナロキソンの処方を認める法律がある。この中にミネソタ州は含まれていない。

 解毒薬は使いやすくなったものの、救急隊員や医療関係者はナロキソンによって蘇生した患者がすぐにまた鎮痛剤を過剰摂取して死亡するケースがあると指摘し、危機感を募らせている。

 薬物中毒患者を支援する団体「ハーム・リダクション・コアリション」(ニューヨーク)の医療ディレクター、シャロン・スタンクリフ氏は救命措置後のフォローアップをどう改善するかが課題だと話す。「一度過剰摂取した人は二度目を経験するリスクが非常に高い」そうだ。

 バイコディン、パーコセット、オキシコンチンといったオピオイド系の処方鎮痛剤は脳や神経系に作用し、数時間にわたって痛みを和らげる効果があり、依存性が非常に高い。過剰摂取すると呼吸が抑制されることがあり、呼吸が停止することもある。

 ナロキソンを注射や鼻腔噴霧で1回以上投与すると、脳内のオピオイド受容体の働きが阻害され、一般的には数分以内に呼吸が回復し、脳の損傷が未然に防止されて救命が可能になる。ナロキソンの効果は約30分で消え始め、90分後にはほぼ消失する。

 しかし、オピオイド系鎮痛剤の中毒患者にとって難しいのが救命後だ。ナロキソンは投与直後に発汗や嘔吐(おうと)など激しい離脱症状を引き起こすことがあり、投与によって攻撃的になる人もいて、気持ちを落ち着かせたり、離脱症状から逃れたりするために再び鎮痛剤を摂取することもある。

 ボストン医療センター・外傷予防センターのトレイシー・グリーン副所長は、救急部門ではオピオイド系鎮痛剤の過剰摂取後に取るべき手順が決まっていないと話す。「心臓発作で病院に来た人が帰宅するときには、今後どうすべきかがはっきりしている」(グリーン氏)のとは対照的だ。

 オピオイド系鎮痛剤の過剰摂取問題が深刻な一部のコミュニティーでは、救命処置を受けた中毒患者になるべく早く治療を受けてもらうための新たなプログラムが始まっている。

 例えばニュージャージー州カムデン郡は今年、2つの問題の是正に取り組んでいる。救命処置を受けた鎮痛剤中毒患者が治療の紹介を受けずに帰宅するという問題と、治療を望む中毒患者が入院施設をなかなか見つけられないという問題だ。

 同郡のプログラムでは、ナロキソンを使って救命処置を受けた患者は、まだ病院にいる間に中毒からの回復を支援するサービスの紹介を受ける。郡はこのプログラムに15万ドル(約1600万円)の予算を投じた。

 患者が同意すれば、郡は入院施設での受け入れが決まるまで、カウンセリングや代替薬を使った外来治療を郡の費用負担で受けられるようにする。

 同郡のプログラムに参加しているケネディ大学病院では今年、23歳の男性が治療を受けることに同意した。臨床薬剤師のウィリアム・リンチ氏によると、男性はナロキソンを使った3度目の救命措置のあとに治療を受けることを決め、入院施設のベッドが空くまで3週間、外来治療を続けた。

 リンチ氏は「誰でもどこが『底』かは分からない。重要なのはそのたびに情報が提供されることだ」と語った。

 マサチューセッツ州ローウェルのセス・デサンティスさん(37)は2001年にバイクで事故に遭い、痛みの緩和のために医師からオキシコンチンの処方を受けた。その後、違法なヘロインを使い始め、中毒になった。3月初旬以降、4回も薬物を過剰摂取し、そのたびにナロキソンに命を救われた。

 最後の過剰摂取のときには数日間、昏睡状態に陥った。現在は中毒の治療を受けており、人生をやり直すつもりだ。デサンティスさんは「(過剰摂取で)死にたくない」と語った。

 マサチューセッツ州では各市がまとめ買いによって1回分約67ドルのナロキソンを20ドルで購入できる。同州では薬物の使用者や友人、家族がナロキソンを受け取ったり、使い方の訓練を受けたりすることもできる。

 救急サービス会社トリニティEMSによると、人口約11万人のローウェルでは、今年1-3月に鎮痛剤の過剰摂取で救命処置を受けたケースが前年同期比34%増の91件となった。同市では、オピオイド系鎮痛剤が関係しているとみられる死亡者は昨年は46人だったが、今年は既に27人に上っている。

 ローウェル市は今年2月、911番への緊急通報を通じて収集したデータの活用を開始。ナロキソンで救命処置を受けた患者に連絡を取り、中毒の治療を受けるよう勧めている。この取り組みには警察、消防、医療当局、地元の治療センター「ローウェル・ハウス」が参加している。

 現地警察の責任者ウィリアム・テイラー氏は「彼らがこちらに来るのを待つのではなく、こちらから探すつもりだ」と語った。

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