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- 2016年05月12日 11:00
「吠える」金正恩第1書記の真相 -金正恩は、なぜ実力以上に大きく見せたがるのか- 西村金一
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オ.何故、米国への核搭載弾道ミサイル攻撃の映像を映すのか
極めつけは、「dprktoday.com」(2016年3月25日)に投稿されたプロパガンダ動画である。北朝鮮から弾道ミサイルが発射され、米国に命中し核爆発が起こり、ワシントンのリンカーン記念堂が燃える映像が映し出されている。挑発そのものである。
私は、北朝鮮の弾道ミサイルは実際には米国本土まで飛んでいかないので、恫喝の映像と考える。
実際にテポドン2改良型も射程は約7000~9000kmであり、それも弾頭部にせいぜい500kgの爆弾しか積めない。北朝鮮の弾道ミサイルは、韓国国防部が発言しているように小型化に成功していない。小型化していなければ、5~6トンの重さになるので、現在のところ弾頭ミサイルには搭載できない。
もし、北朝鮮が弾道ミサイルを米国近くまで飛ばすことができるのであれば、映像など見せずに、実際に、ハワイと米国西海岸の中間地点か米国西海岸近くまで飛ばす実験を行うはずだ。冷戦期の旧ソ連の発射実験では、SS-18大陸間弾道弾を旧ソ連のウラル山脈西側のプレセック基地から発射して、ハワイ近く(ハワイの近海に飛行制限海域を設定)に落下させたことがあった。
(2)通常兵器による恫喝映像の稚拙さ
前述の映像では、朝鮮戦争、プエブロ号事件、EC-121撃墜事件、ポプラ事件、ヘリの不時着で、米朝交渉で調印している場面があった。米朝交渉を行いたい現れなのか。
また、映像の終わりには、各種通常兵器が続々と出てくる。中国製の旧式の対艦ミサイル、旧ソ連製のT-55・T-62型で中国では軍事博物館に飾ってある古い戦車、多連装ロケット、中国やロシアでは廃艦になっているロメオ級潜水艦、約50~100トンの小型ミサイル艇などだ。こんな博物館に飾ってもよいような年代物(ポンコツ兵器)を見せてどうするのか。金正恩を騙すことはできても、各国の軍事専門家を騙すことはできない。
それでも、通常兵器の中で、300ミリ・240ミリ多連装ロケット、170ミリ自走砲および地対空ミサイルについては、重大な脅威となり得る。
以下、韓国の脅威となる兵器について解説する。
ア.口径300ミリ・240ミリ多連装ロケットの射撃
北朝鮮労働新聞(2016年3月22日)に、300ミリ多連装ロケット射撃の実験映像が掲載された。そのロケットは、射程が150~200kmあるので、ソウルを超えて、韓国領土の半分(その地にある軍事基地にも)に届く。北朝鮮軍は、地上戦では米韓軍に勝てないので、ロケットや火砲などの飛び道具を使って韓国を攻撃する戦術であると見てよい。
写真4 300ミリ多連装ロケット射撃
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出典:「北朝鮮労働新聞」2016年3月22日付
これらのロケットが都市や軍事基地を狙って発射されれば、米韓はどのように対応するのか。その方法には、2種類ある。一つは、その発射位置を1分以内で特定して、数分以内に空爆や砲撃で反撃すること。もう一つは、弾道ミサイル防衛と同様にロケット防衛システムである。
一つ目の方法。多連装ロケットの射撃では、発射時に大きな火炎が出ることと、発射された弾道からその射撃位置を瞬時に特定することができる。
北朝鮮が数発発射しただけで、韓国地上軍は瞬時に対砲迫レーダーでその位置を特定できる。つまり瞬時にロケット砲陣地が発見できるのだ。そして、その情報を地対地ミサイルATACMS部隊に通知して反撃するのだ。韓国が保有しているものは米国陸軍と同じもので、命中精度が高い。また、戦闘機や爆撃機の空対地ミサイルでも反撃できる。北朝鮮軍が多連装ロケットを韓国に向けて発射したら、米韓軍は平壌に向けてミサイル攻撃や空爆を行い、平壌の都市も破壊されることになろう。
二つ目の方法。ハマスやヒズボラの過激派組織が、イスラエルに向けてロケット砲を打ち込むことがあり、イスラエル市民に多くの被害が出ている。イスラエル軍はこれを防ぐために、防空ミサイルシステム「アイアンドーム:Iron Dome」を装備して、実際に効果を挙げている。このシステムは、向けられたロケット弾に迎撃ミサイルを発射し、そのロケットに接近して破裂させる近接信管を作動させ、空中で撃ち落すシステム(※下図参照)である。韓国軍は、まだこの兵器を保有していない。
図 アイアンドームの射撃システムとミサイル発射状況
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出典:http://www.bbc.com/news/world-middle-east-20385306およびイスラエル軍
イ.口径170ミリ自走砲の射撃
240ミリ多連装ロケット射撃の映像と同様に、海辺から射撃している火砲は170ミリ火砲である。射撃の映像をよく見ると、実弾ではなく空砲射撃である。その根拠は、砲口(砲の先端)から燃えるように大きな火炎が出ているからだ。実弾射撃の時は、火炎は出ないで煙が出る。もしくは、火炎が出たとしてもガスが噴射するような様相になる。自衛隊の富士総合火力演習の行われる203ミリ榴弾砲や155ミリ榴弾砲の実弾射撃では火炎が出ていない。
発射した弾が目標地域の島に落ちて爆発している映像があるが、これは、事前に島に設置した砲弾や火薬をリモートで爆発させているだけだ。240ミリロケットや170ミリ砲では、点に命中することは、絶対にあり得ない。弧を描く曲射弾道では、どんなに訓練しても命中することはない。実際、北朝鮮軍砲兵部隊は2010年11月に、多連装ロケット砲で延坪島へ砲撃を行ったが、1回目の射撃では、150発発射したが60発が島内に90発が海に落下した。
北朝鮮軍は何故、空砲射撃を行うのか。170ミリ砲は、各国が保有する火砲の砲身(筒)よりも異常なくらいに長い。これで実弾射撃を重ねると、砲身が壊れるのではないかと誰もが思う。当然北朝鮮軍砲兵もそう思っているのではないか。また、保有する弾薬が少ないので、無駄に使いたくないとの判断もあろう。
韓国軍はこの砲の射撃もロケット射撃と同様に、射撃位置を直ちに特定できる。よってその対応は同じになる。
写真5 長距離砲集中攻撃演習の写真
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出典:北朝鮮労働新聞2016年2月25日掲載
ウ.ロケット砲と火砲の二つの射撃の考察
現代戦では、対砲迫レーダーの発達により、火砲やロケットの射撃をすると、数分以内に敵から撃ち返しがくる。だから直ちに射撃位置を変換しなければならない。海岸に並べて長時間撃ち続けることは、素人に見せるには効果があるかもしれないが、軍事専門家の目でみると幼稚だ。米韓軍に反撃されて、これらの砲やロケットは破壊されてしまう。私だったら、数分間射撃したならば、直ちに陣地変換するところまで見せる。そうしなければ、近代の砲兵戦では、勝利はあり得ない。砲の運用を知らない金正恩は、これらの映像を喜ぶのだろう。
エ.地対空ミサイル
北朝鮮労働新聞(4月2日付)は、北朝鮮防空部隊が新型防空迎撃誘導兵器システムの射撃を行ったことを写真付きで公開した。ロシア製のS-300防空ミサイルと同じ形状だ(トラックは中国製のようである)。ミサイルシステムはロシアから昨年導入したものに違いない。昨年10月党創建70周年のパレードに初めて出現した。北朝鮮はこれまで、SA-2・3・5型の防空ミサイルを保有していた。1973年第4次中東戦争で使用された旧式のミサイルであり、米韓戦闘機には命中させることがほぼ不可能であると見られていた。ところが、ロシア製のS-300防空ミサイル(日本のパトリオットPAC-2タイプに類似)を導入したことで、米韓軍の戦闘機には重大な脅威となろう。恐らく、平壌の都市防空に使用されるものと考えられる。
写真6 北朝鮮新型防空ミサイルKN-06
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出典:北朝鮮労働新聞2016年4月2日
極めつけは、「dprktoday.com」(2016年3月25日)に投稿されたプロパガンダ動画である。北朝鮮から弾道ミサイルが発射され、米国に命中し核爆発が起こり、ワシントンのリンカーン記念堂が燃える映像が映し出されている。挑発そのものである。
私は、北朝鮮の弾道ミサイルは実際には米国本土まで飛んでいかないので、恫喝の映像と考える。
実際にテポドン2改良型も射程は約7000~9000kmであり、それも弾頭部にせいぜい500kgの爆弾しか積めない。北朝鮮の弾道ミサイルは、韓国国防部が発言しているように小型化に成功していない。小型化していなければ、5~6トンの重さになるので、現在のところ弾頭ミサイルには搭載できない。
もし、北朝鮮が弾道ミサイルを米国近くまで飛ばすことができるのであれば、映像など見せずに、実際に、ハワイと米国西海岸の中間地点か米国西海岸近くまで飛ばす実験を行うはずだ。冷戦期の旧ソ連の発射実験では、SS-18大陸間弾道弾を旧ソ連のウラル山脈西側のプレセック基地から発射して、ハワイ近く(ハワイの近海に飛行制限海域を設定)に落下させたことがあった。
(2)通常兵器による恫喝映像の稚拙さ
前述の映像では、朝鮮戦争、プエブロ号事件、EC-121撃墜事件、ポプラ事件、ヘリの不時着で、米朝交渉で調印している場面があった。米朝交渉を行いたい現れなのか。
また、映像の終わりには、各種通常兵器が続々と出てくる。中国製の旧式の対艦ミサイル、旧ソ連製のT-55・T-62型で中国では軍事博物館に飾ってある古い戦車、多連装ロケット、中国やロシアでは廃艦になっているロメオ級潜水艦、約50~100トンの小型ミサイル艇などだ。こんな博物館に飾ってもよいような年代物(ポンコツ兵器)を見せてどうするのか。金正恩を騙すことはできても、各国の軍事専門家を騙すことはできない。
それでも、通常兵器の中で、300ミリ・240ミリ多連装ロケット、170ミリ自走砲および地対空ミサイルについては、重大な脅威となり得る。
以下、韓国の脅威となる兵器について解説する。
ア.口径300ミリ・240ミリ多連装ロケットの射撃
北朝鮮労働新聞(2016年3月22日)に、300ミリ多連装ロケット射撃の実験映像が掲載された。そのロケットは、射程が150~200kmあるので、ソウルを超えて、韓国領土の半分(その地にある軍事基地にも)に届く。北朝鮮軍は、地上戦では米韓軍に勝てないので、ロケットや火砲などの飛び道具を使って韓国を攻撃する戦術であると見てよい。
写真4 300ミリ多連装ロケット射撃
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出典:「北朝鮮労働新聞」2016年3月22日付
これらのロケットが都市や軍事基地を狙って発射されれば、米韓はどのように対応するのか。その方法には、2種類ある。一つは、その発射位置を1分以内で特定して、数分以内に空爆や砲撃で反撃すること。もう一つは、弾道ミサイル防衛と同様にロケット防衛システムである。
一つ目の方法。多連装ロケットの射撃では、発射時に大きな火炎が出ることと、発射された弾道からその射撃位置を瞬時に特定することができる。
北朝鮮が数発発射しただけで、韓国地上軍は瞬時に対砲迫レーダーでその位置を特定できる。つまり瞬時にロケット砲陣地が発見できるのだ。そして、その情報を地対地ミサイルATACMS部隊に通知して反撃するのだ。韓国が保有しているものは米国陸軍と同じもので、命中精度が高い。また、戦闘機や爆撃機の空対地ミサイルでも反撃できる。北朝鮮軍が多連装ロケットを韓国に向けて発射したら、米韓軍は平壌に向けてミサイル攻撃や空爆を行い、平壌の都市も破壊されることになろう。
二つ目の方法。ハマスやヒズボラの過激派組織が、イスラエルに向けてロケット砲を打ち込むことがあり、イスラエル市民に多くの被害が出ている。イスラエル軍はこれを防ぐために、防空ミサイルシステム「アイアンドーム:Iron Dome」を装備して、実際に効果を挙げている。このシステムは、向けられたロケット弾に迎撃ミサイルを発射し、そのロケットに接近して破裂させる近接信管を作動させ、空中で撃ち落すシステム(※下図参照)である。韓国軍は、まだこの兵器を保有していない。
図 アイアンドームの射撃システムとミサイル発射状況
画像を見る
出典:http://www.bbc.com/news/world-middle-east-20385306およびイスラエル軍
イ.口径170ミリ自走砲の射撃
240ミリ多連装ロケット射撃の映像と同様に、海辺から射撃している火砲は170ミリ火砲である。射撃の映像をよく見ると、実弾ではなく空砲射撃である。その根拠は、砲口(砲の先端)から燃えるように大きな火炎が出ているからだ。実弾射撃の時は、火炎は出ないで煙が出る。もしくは、火炎が出たとしてもガスが噴射するような様相になる。自衛隊の富士総合火力演習の行われる203ミリ榴弾砲や155ミリ榴弾砲の実弾射撃では火炎が出ていない。
発射した弾が目標地域の島に落ちて爆発している映像があるが、これは、事前に島に設置した砲弾や火薬をリモートで爆発させているだけだ。240ミリロケットや170ミリ砲では、点に命中することは、絶対にあり得ない。弧を描く曲射弾道では、どんなに訓練しても命中することはない。実際、北朝鮮軍砲兵部隊は2010年11月に、多連装ロケット砲で延坪島へ砲撃を行ったが、1回目の射撃では、150発発射したが60発が島内に90発が海に落下した。
北朝鮮軍は何故、空砲射撃を行うのか。170ミリ砲は、各国が保有する火砲の砲身(筒)よりも異常なくらいに長い。これで実弾射撃を重ねると、砲身が壊れるのではないかと誰もが思う。当然北朝鮮軍砲兵もそう思っているのではないか。また、保有する弾薬が少ないので、無駄に使いたくないとの判断もあろう。
韓国軍はこの砲の射撃もロケット射撃と同様に、射撃位置を直ちに特定できる。よってその対応は同じになる。
写真5 長距離砲集中攻撃演習の写真
画像を見る
出典:北朝鮮労働新聞2016年2月25日掲載
ウ.ロケット砲と火砲の二つの射撃の考察
現代戦では、対砲迫レーダーの発達により、火砲やロケットの射撃をすると、数分以内に敵から撃ち返しがくる。だから直ちに射撃位置を変換しなければならない。海岸に並べて長時間撃ち続けることは、素人に見せるには効果があるかもしれないが、軍事専門家の目でみると幼稚だ。米韓軍に反撃されて、これらの砲やロケットは破壊されてしまう。私だったら、数分間射撃したならば、直ちに陣地変換するところまで見せる。そうしなければ、近代の砲兵戦では、勝利はあり得ない。砲の運用を知らない金正恩は、これらの映像を喜ぶのだろう。
エ.地対空ミサイル
北朝鮮労働新聞(4月2日付)は、北朝鮮防空部隊が新型防空迎撃誘導兵器システムの射撃を行ったことを写真付きで公開した。ロシア製のS-300防空ミサイルと同じ形状だ(トラックは中国製のようである)。ミサイルシステムはロシアから昨年導入したものに違いない。昨年10月党創建70周年のパレードに初めて出現した。北朝鮮はこれまで、SA-2・3・5型の防空ミサイルを保有していた。1973年第4次中東戦争で使用された旧式のミサイルであり、米韓戦闘機には命中させることがほぼ不可能であると見られていた。ところが、ロシア製のS-300防空ミサイル(日本のパトリオットPAC-2タイプに類似)を導入したことで、米韓軍の戦闘機には重大な脅威となろう。恐らく、平壌の都市防空に使用されるものと考えられる。
写真6 北朝鮮新型防空ミサイルKN-06
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出典:北朝鮮労働新聞2016年4月2日
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