- 2016年05月10日 09:00
イラクが米国との関係改善を望むワケ- 岡崎研究所
ハリルザード元駐イラク米国大使が、3月24日付のウォールストリート・ジャーナル紙で、IS やイランの台頭によって、米国はイラクとの関係再構築に乗り出す良い機会を得たと論じています。ハリルザード大使の論旨は、次の通りです。
ワシントンでは、米国ができることは、イラクのIS(イスラム国)を破壊し、イラク内のクルドと特別な関係を作ることしかないとよく言われる。
米国はそうすべきであるが、イラクの他の部分も放棄すべきではない。最近、バグダッドでアバディ首相などイラク指導者と会談した結果、私は、イラクは失われていないと信じている。
イランのイラクでの影響力は相当なものである。2011年の米軍の完全撤退は、力の真空を作り出し、イランがそれを埋めようとした。その上、イラク軍の崩壊とISとの戦いにおけるシーア派民兵の台頭が、イランの影響力を強めた。しかし、イラクのシーア派指導者は、イランに幻滅し、米国との関係強化を欲している。それには、幾つかの理由がある。
イラクが米国との関係強化を望む3つの理由
第1は、ISの攻撃を止めるためにイランの支援は有益であったが、領土の回復のためには不十分であったからである。ティクリートやバイジの奪還は、米国の空爆によって達成された。ディアラ地区については、シーア派民兵がISに勝利したとされるが、ISの攻撃は今も続いている。
第2の理由は、シーア派民兵が、将来、シーア派内の内戦の道具になる危険があるからである。ムクタダ・サドルのような過激な人は、統治の失敗への人々の不満を利用しようとしている。サドルとイラク政府の直接対決がありうる中、シーア派内の緊張が高まっている。
第3は、イラン側の強圧的態度への憤慨があるからである。
このように、サドルなどを別にすると、シーア派の多数は、イランおよび米国との良好な関係を欲している。シスタニ師やアバディ首相がそうである。
米国は何をすべきか?
この状況で米国がすべきことは次の通りである。
・イラクの治安部隊に有利な軍事バランス再建を支援すること。
・モスル奪還計画を注意深く評価すること。オバマ大統領は任期中に解放したいであろうが、解放後の統治などへの計画が要る。
・民兵の非武装化と統合を推進すること。
・新しい政治協約への進展を助けること。シーア派指導者との話し合いで、彼らはスンニ派、クルドと話し合う用意があると感じた。米国は、スンニ派多数地域が連邦地域になることを含め合意を支援すべきである。イラク指導者の多くは、イランより米国の仲介を望んでいる。
・経済改革を支援すること。戦争と石油価格下落の経済危機を乗り越えられるように支援すべきである。
イラクは失われていない。米国にとって、イラクでの影響力を再構築する良い機会である。スンニ派、シーア派、クルドの中に、米国との新しい関係への支持がある。米国がこれに答えないのは誤りであろう。
出 典:Zalmay Khalilzad ‘Iraq Isn’t Lost to Iran’ (Wall Street Journal, March 24, 2016):
URL:http://www.wsj.com/articles/iraq-isnt-lost-to-iran-1458858395
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ハリルザード大使は、イラク、アフガン情勢に詳しい外交官であり、彼の情勢判断は傾聴に値します。ここでのイラク情勢及び対イラク政策についての判断も傾聴されるべきです。
イラクが中東で果たせる役割とは
イラク人がイランの圧倒的な影響下におかれることよりも、米国との協力関係を望むことは理解できることです。イラクのシーア派はアラブ人であり、ペルシャ人とは民族が異なります。宗派が同一であることと民族が違うことが関係にどういう影響を与えるかは状況によりますが、民族的差異はイラク人とイラン人の関係を微妙なものにしています。イランの強圧的態度もあり、米国がその影響力を再構築する機会がここにはあります。
ただ、オバマ大統領は、中東での米国の関与を縮小したことを誇りにしており、イラクでの米国の影響力の再構築の機会を利用する気があるかは疑問です。
中東でのイランの影響力が強くなりすぎることには、サウジを含むアラブ諸国とイランの間の力のバランスを崩し、多くの問題につながる危険があります。地域におけるバランス・オブ・パワーのためには、イラクはイランの勢力に対するバランサーとして一つの役割を果たしうるのであり、米国がイラクを支援し、影響力を再構築することは重要です。
ただそういう政策はオバマによってではなく、新大統領によって試みられる可能性が大きいです。ただハリルザードが言う「機会」がそれまで存在し続けるかは何とも言えません。
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