- 2016年05月06日 16:40
三菱自動車の「第三者委員会」が担う役割と今後の課題
2/2今回の不正の規模や期間等からすれば、3か月という調査期間を要するのはやむを得ないものと思われる。しかし、今回の不祥事が、三菱自動車のユーザー、軽自動車のOEM供給先の日産など、多くのステークホルダーに影響を与えていること、国交省の燃費試験の実施方法やデータの取扱いにも影響することなどからすると、今回の不正に関する様々な疑問に対して、「特別調査委員会の調査結果を待つ」ということで3ヶ月間、何の情報開示も説明もしない、ということでは済まされないであろう。
さりとて、会社側が、特別調査委員会の調査が行われている間に、調査対象となっている事項について独自にコメントすることは、その内容が、委員会の最終的な調査結果と齟齬していた場合には会社側への一層の不信と混乱を生じさせる恐れがあり、一致していた場合には、委員会の調査が、会社側の意向に影響されたのではないかとの疑念を生じさせることになりかねない。委員会の側においても、調査の途中の時点で、中間報告書を取りまとめて公表することが必要になることも考えられるほか、会社側が早期に情報開示を行わざるを得ない事項がある場合には、委員会側が何らかの形で関与することを検討する必要がある。
また、山口弁護士も、前記ブログ記事で、日弁連第三者委員会ガイドラインで「第三者委員会は、調査の過程において必要と考えられる場合には、捜査機関、監督官庁、 自主規制機関などの公的機関と、適切なコミュニケーションを行うことができる」とされていることに言及している。国土交通省も立入検査を行うなどして調査を進めており、正規の燃費試験を行わず、データも不正に抽出した三菱自動車に対して、国交省側が厳しい対応を行うことは必至と考えられる中で、特別調査委員会としても、国交省側とのコミュニケーションを行い、可能な範囲での情報交換や調整を図っていくことも重要な課題となる。
そういう意味では、今回の三菱自動車の不祥事に関する「第三者委員会」にとっては、粛々と不正調査を行うだけではなく、委員会独自の様々な対応を行っていくことは避けられないように思われる。
不正事実に関する調査という面でも、その不正は、単発的な個人的不正とは異なり、大企業の組織内で長期間にわたって継続されてきたものであって、試験方法の問題・データの抽出の問題などレベルの違う様々な問題が複雑に交錯しており、それらが、過去の「リコール隠し」等の不祥事を受けて構築・強化されてきたコンプライアンス体制をかいくぐって行われてきたものであることなどからすると、不正をめぐる事実関係は、複雑かつ膨大である。しかも、組織を背景に、組織の論理で行われた不正行為の事実解明が求められるのであり、少なくとも、検察の主戦場の刑事司法の場における「個人の行為中心の証拠収集・事実認定」とは性格が異なる面がある。このような事案の全体像を明らかにして問題の本質に迫ることは決して容易なことではない。
今回設置された特別調査委員会が、不正調査のコアとしての役割を果たすためには、十分な調査体制を整えることがまず必要となるが、それに加えて、「第三者委員会」として、前記のような様々な役割を果たし得るよう、様々な知見を活用するなどして、委員会をさらに充実させていくことも考えていくべきであろう。
私個人にとっても、2004年に桐蔭横浜大学コンプライアンス研究センターを設立し、組織のコンプライアンスに関する活動を始めた頃、ちょうど「リコール隠し」の再発と重大事故の発生で、三菱自動車が社会から厳しい批判・非難を受けていた。センター設置の契機の一つとなったのが三菱自動車の不祥事だった。
私は、「社会の要請に応える」という独自のコンプライアンス論の観点から、教条的な「法令遵守」に偏り過ぎていた三菱自動車のコンプライアンスの誤りを指摘し、コンプライアンスの再構築に関して様々な角度から検討した。三菱自動車問題は、2004年秋に公刊したコンプライアンス研究センターの機関誌「季刊コーポレートコンプライアンス」創刊号で取り上げ、私のコンプライアンスに関する最初の著書【コンプライアンス革命】(2005年 文芸社)でも詳しく取り上げており、検事時代の大先輩であった松田昇氏が委員長に就任した同社の企業倫理委員会でも、私の「三菱自動車のコンプライアンスに関する指摘」は、参考にされたはずだ。
私にとっては、三菱自動車の問題は、自らのコンプライアンス論の原点とも言えるものであり、今また重大な不祥事が再発し、同社が存亡の危機とも言える状況に追い込まれていることは大変残念である。
今回の不祥事は、過去の「リコール隠し」のような「安全」に関する問題ではなく、自動車ユーザーからの「低燃費」自動車の需要に応えるという、事業の主軸に関わる問題である。「自動車メーカーのコンプライアンス」の基本的な視点から、改めて問題を整理してみる必要がありそうだ。
今後も、特別調査委員会の活動や調査結果に注目しつつ、引き続き、当ブログで、三菱自動車の問題を取り上げていきたい。



