- 2016年05月06日 16:40
三菱自動車の「第三者委員会」が担う役割と今後の課題
1/24月26日、三菱自動車は、燃費試験に関する不正について国土交通省に報告し、その内容について、相川社長らが、記者会見で説明を行った。そして、同日、不正事実について調査するため、元東京高検検事長の渡辺恵一弁護士を委員長とし、いずれも検事経験者の弁護士3名で構成される「特別調査委員会」の設置も公表した。
同社の国土交通省への報告内容には、以下の事実が含まれている。
(1)14型『eKワゴン』『デイズ』(2013年2月申請)に設定されている4つの類別(燃費訴求車、標準車、ターボ付車、4WD車)のうち、燃費訴求車の開発において、2011年2月時点の目標燃費は26.4km/lあったが、その後の社内会議で繰り返し上方修正し、最終的(2013月2月)には29.2km/lまで引き上げていたこと
(2)同燃費訴求車につき、燃費を良く見せるため、走行抵抗を実測したデータの中から小さい値を選別し、走行抵抗を設定していたこと
(3)走行抵抗の実測に当たって、法規で定められた惰行法と異なる方法「高速惰行法」を用いていたこと
(4)14型および15型『eKスペース』『デイズルークス』などの車種の燃費について、上記14型『eKワゴン』『デイズ』のデータを基に、実測ではなく、目標燃費に合わせて机上算出し、申請していたこと
4月21日の最初の会見の公表事実には含まれていなかった「データを実測ではなく机上で算出していた事実」が新たに問題行為に加わった。そして、上記問題行為のうち、(3)は、1990年代前半から継続して行われていたものであることも、記者会見で明らかにされた。不祥事の重大性、深刻さのレベルは、当初の公表の段階よりさらに高まったと言える。
前回の【三菱自動車の生死を分ける“第三者委員会”】では、今回の不祥事再発で、社会の信頼を完全に失った三菱自動車が、自動車メーカーとして存続することは極めて困難であり、唯一、自動車メーカーとして存続する余地があるとすれば、鍵となるのは、様々な専門分野の知見を集めた「第三者委員会」による中立かつ独立の立場からの調査によって、今回の問題をめぐる事実経過の真相と問題の本質を明かにし、本当の意味で組織を抜本的に変革する具体的な方針を打ち出せるかどうかだと述べた。
そこでは、「事実調査を行う体制が十分に整うことに加えて、委員会の構成が、専門性と、社会的視点、とりわけユーザーの立場等にも配慮したバランスのとれたものでなければならない」と述べたが、今回設置された「特別調査委員会」が、そのような「第三者委員会」とは異なるものであることは明らかだ。検事長経験者を含む検察OB弁護士3名でメンバーを固めたもので、「委員会」というより、むしろ、渡辺弁護士中心の「調査チーム」というのが実態に近いように思える。
しかし、今回の三菱自動車の不祥事をめぐる状況を踏まえて考えると、現時点で上記のような委員構成の「特別調査委員会」が設置されたことには、相応の理由があるように思える。
何と言っても、不正の内容はあまりに重大であり、現時点の社会の最大の関心事である「不正の客観的事実と、経営幹部も含む不正への関与者の範囲」について事実解明を行わなければ、三菱自動車という企業を、日本の社会において、引き続き自動車メーカーとして存続させることができるのかどうかの判断がつかない。組織のコンプライアンスを根本から問い直し、組織の抜本改革を行うことが現実的に可能なのかどうかは、不正の客観的事実が明らかにならなければ判断できないと言える。
そのような理由から、まずは、不正事実の解明を主眼としていく必要がある。そして、今回の不正は長期間にわたって、様々な形態で行われていたもので、冒頭の国交省への報告事項の(1)から組織ぐるみの不正が強く疑われることからすれば、その調査は、相当にタフなメンバーで行われる必要がある。
そういった意味で、単なる検察No2経験者というだけではなく、検察官としての実務能力が高く評価されている渡辺恵一弁護士と、相応の検察官の実務経験を持つ中堅クラスの弁護士2名の組合せという調査体制は、今回の不正調査に関しては合理的なものと言える。
しかし、【前のブログ】でも述べたように、今回の不祥事再発で三菱自動車という企業に対する社会の信頼が著しく損なわれている状況において、「第三者委員会」に求められることは、不正調査の徹底による真相解明だけではない。
委員会の調査が、会社から独立して客観的な立場から行われることへの信頼を確保し、調査の範囲・調査事項等が明らかにされ、それが自動車の専門家や、ユーザーの立場からも納得が得られるものであることが必要であり、それらについて、委員会側から、情報開示や説明を行っていくことも必要となる。
しかし、今回設置が公表された「特別調査委員会」に関しては、不正調査の体制の整備が優先されたという事情があったにせよ、委員会に関する情報開示と説明という重要な要素が、現時点では、十分に意識されているようには思えない。
特に、委員会設置について、書面によるプレスリリースをしただけで、委員会側の記者会見どころか、社長等の記者会見でも、具体的な言及を行わなかったことは、不祥事に対する危機対応として問題があると言わざるを得ない。
特別調査委員会の設置に関しては、コンプライアンスの専門弁護士で、第三者委員会の在り方にも詳しい山口利昭弁護士が、【三菱自動車特別調査委員会に期待する「真の原因究明」】と題する最新のブログで、三菱自動車の「特別調査委員会」のメンバーの選定プロセスに関する疑問を指摘し、「第三者委員会の選定経過を開示すべき」との意見を述べている。
山口弁護士は、
関係者によると、三菱自動車は、当初、約3カ月間の調査委員会による調査が終わるまで発表を先送りすることを検討したが、日産などの反対を受けて発表に踏み切った
という毎日新聞の記事(4月27日)が、燃費偽装問題の公表前から(社内調査を目的とした)特別調査委員会が設置されていたようにも読めるということを根拠に、
今回選任された委員の方々は、不祥事公表前の三菱自動車さんの危機対応を支援していたことも憶測される。
と述べているものだが、上記毎日新聞の記事は、文面からすると、今回「特別調査委員会」を設置したことについて、設置の段階で公表するか、3か月後に調査結果がまとまった段階で公表するかということに関する意見の相違を取り上げたものに過ぎず、それ自体が、今回選任された委員が不祥事公表前の危機対応を支援していたことを疑う根拠になるのかは、疑問である。
とは言え、仮に誤解によるものだったとしても、新聞記事に基づいて、委員会の独立性・公正性に関して疑念を持たれるというのは、三菱自動車側からの「特別調査委員会」の設置に関する情報開示・説明が不十分だからに他ならない。仮に、設置の段階で、委員会側の記者会見を行って設置の経緯について説明を行っていれば、そのような誤解が生じることはあり得なかったはずだ。
また、特別調査委員会の調査期間は3か月とされているが、その間、調査の対象事項に関して、会社側も委員会側も一切コメントしないという対応で済ますことができるのかも今後の問題となるであろう。



