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憲法記念日の日経社説の詭弁について

憲法記念日の日本経済新聞は、「憲法と現実のずれ埋める『改正』を」と題する社説を掲げた。

最高裁判所が出した過去10件の違憲判決の半分が、21世紀になってされた、つまり憲法施行後69年中、過去16年間になされたのは、「現憲法と現実のずれが年々大きくなってきていることのあらわれといえまいか」としている。

この論理は正しいだろうか。

まず、過去10件の違憲判決と判決年は、次のとおりである。合わせて、憲法違反とされた法律と、該当する憲法条文を掲げる。

尊属殺人重罰規定違憲判決 1973年 刑法 憲法14条1項
薬事法距離制限規定違憲判決 1975年 薬事法 憲法22条1項
衆議院定数配分規定違憲判決 1976年 公職選挙法 憲法14条
衆議院定数配分規定違憲判決 1985年 公職選挙法 憲法14条1項
森林法共有林分割制限規定違憲判決 1987年 森林法 憲法29条
郵便法免責規定違憲判決 2002年 郵便法 憲法17条
在外邦人の選挙権制限規定違憲判決 2005年 公職選挙法 憲法15条1項、3項、43条1項、44条
非嫡出子の国籍取得制限違憲判決 2008年 国籍法 憲法14条1項
非嫡出子の法定相続分規定違憲判決 2013年 民法 憲法14条1項
女性の再婚禁止期間制限違憲判決 2015年 民法 憲法14条、24条

確かに、過去5件の違憲判決は、2000年以降に出されている。

しかし、10年刻みで見ると、1947年から69年までは0件、1970年代が3件、80年代が2件、90年代が0件、2000年代が3件、2010年代(6年)に2件だ。折れ線グラフにすると右肩上がりではなくM字型となるから、「現憲法と現実のずれが年々大きくなってきている」とはいえない。

また、これらの判決が「現憲法と現実のずれ」を示すものか、についても検証が必要だ。社説の論旨によれば、後の違憲判決になるほど、「現憲法と現実のずれ」を象徴しているものになるはずであるが、はたしてそうだろうか。

女性の再婚禁止期間制限違憲判決(2015年)は、女性についてのみ再婚禁止期間があること自体は合理的としつつ、「医療や科学技術が発達した今日においては」100日を超える部分が長すぎるとしたものだ。非嫡出子の法定相続分規定違憲判決(2013年)は、非嫡出子の法定相続分が嫡出子の半分とされているのは、平等原則に反するとしたものだ。非嫡出子の国籍取得制限違憲判決(2008年)は、国籍取得制度が国によって違うため、無国籍になってしまう場合があることを非合理としたものだ。在外邦人の選挙権制限規定違憲判決(2005年)は、在外邦人の選挙権を制限する公職選挙法の規定を、憲法の民主主義原理に反するとしたものだ。郵便法免責規定違憲判決は、郵便物の事故につき、国の損害賠償責任を大幅に免除・制限した郵便法の規定が、国家賠償責任を定めた憲法17条に違反するものとしたものだ。

結論から言うと、21世紀に入ってからなされた5件の違憲判決は、「現実と憲法のずれ」を示すものでは全くない。5件のうち、非嫡出子の国籍取得制限違憲判決、郵便法免責規定違憲判決の2件は、法理論に照らせば、現行憲法施行後、いつ問われても憲法違反を免れなかった事案である。他の3件のうち、非嫡出子の法定相続分違憲判決は、昭和の時代、あるいは20世紀であれば違憲判決は出なかったかもしれない。これは夫婦や家族の在り方に対する社会認識の変化が、違憲判決を促した例ともいえる。在外邦人選挙権制限規定違憲判決と、女性の再婚禁止期間違憲判決は、郵便事情や妊娠検査技術が成熟していなかった時代には一定の合理性があった規定も、技術の成熟により合理性が維持できなくなった事例である。後3者をまとめると、「法律が現実とずれ」たのに、法改正をしなかったため、憲法違反とされたものだ。「現実が憲法とずれ」たからではない。念のために付け加えると、20世紀になされた5件の違憲判決も、「現実が憲法とずれ」たから出たものではない。

日経社説の論破としては、これで十分だろう。一見もっともらしいが、その実誤った理屈を述べることを「詭弁」という。「現憲法と現実のずれが年々大きくなってきている」との日経社説の主張は、典型的な詭弁と言うほかない。それから本稿は、憲法を改正すべきとの結論に対しては、全く言及していないから念のため。

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