- 2016年05月03日 12:02
“震災レシピ”に学ぶ非常時に使える食材って?
最大震度7を観測した「熊本地震」の発生から6日を経た22日。多くの家々が全半壊したまま取り残される益城町より車を15分ほど走らせると、熊本市内中心部に達する。熊本駅構内では既に土産物店や飲食店が営業を再開。熊本市のシンボルである路面電車も、煌々と明かりを灯しながら行き交っていた。
インフラの復旧も徐々に進み、熊本市内では少しずつ日常が戻りつつある。
そんな非常時下の“日常”生活を支える手段として話題となっているのが、月間利用者数6000万人を誇り20~40代の女性に親しまれる料理レシピの投稿・検索サイト、「クックパッド」が提供する『震災レシピ』である。
マスコミが注目しない被災者
『震災レシピ』を届けたい対象として見据えるのは、マスコミが注目しない被災者である。
テレビや新聞といったマスコミが映し出す“被災者像”といえば、自宅が全半壊した被災者ばかりだが、実際は被災地でもそのような境遇にある人ばかりではない。自宅こそ大きな被害は免れたものの、道路が寸断され生活必需品が届かず、不安な日々を過ごす人々もまた被災者である。『震災レシピ』の対象はまさにそのような人々だ。
様々な食材を用いたレシピの数々を提供するクックパッド本来の役割は、「どちらかというと、気持ちの余裕のあるときに使われる」(検索・編成部の五十嵐啓人部長)もの。しかし、マスコミに報道されるような被災者が求めるのは、震災や天気といった生命に直結する情報である。その中であえて「非常事態下で普通に暮らす人」に焦点を当て、「美味しいものを食べて“平常時”を取り戻してもらう」(クックパッド編集室の草深由有子編集長)のが狙いという。
それではどのようなレシピが紹介されているのだろうか。
編集室のイチオシは『HMと水だけ!3分蒸しパン☆』と『HM&バナナだけ!簡単スコーン風蒸しパン』だ。
画像を見るHMと水だけ!3分蒸しパン☆(by pumママ)
“HM”とは、クックパッドのサイト内で使用されているホットケーキミックスの略語のこと。ホットケーキミックスは初心者にも扱いやすく、味も付いている上に安価なため、近年常備食材としての人気が高まってきているという。
加えて今回の震災においては、計画停電が実施され、電力使用を控える傾向が顕著となった東日本大震災の際と比較すると、電力面での不自由さは格段に少ない。震災から約1週間後の22日時点においても、熊本市内では既に夜中でも煌々と明かりが灯っていた。一方で震度7という巨大地震により、多くの家々が損傷を受けた中、ガスが復旧していない家庭も多かったことや、余震が続く中ガスを使う不安が高かったことから「電子レンジだけで料理できるものが求められているのが検索ログからも見てとれた」(草深編集長)。
大活躍するバナナ
画像を見るHM&バナナだけ!簡単スコーン風蒸しパン(by Nozomi0922)
バナナについても一般家庭で常備されている食品の一つであると草深編集長は指摘。カンパンなどの非常食に頼りがちになる震災発生後において、「大切なのは“日常生活感”を味わうこと。ホットケーキミックスを用いた料理の出来たての温かさ、ふわふわした食感は安心感にもつながる」(同)。
いずれのレシピも、ポイントは“HM”と水、もしくはバナナという、シンプルかつ一般家庭での常備率が高いもののみを材料とするという点だ。
日常生活を営む中で、非常時に備えストックしておくべきものの存在は忘れ去られがちだが、災害はある日突然訪れる。その日が訪れたときに、非常時の生活を支えてくれるのは、普段は意識しないようなちょっとした食材や小道具である。
「ラップが1枚あれば、水を使わなくても食器を清潔に使える」(草深編集長)、といった常備すべきものと、その使い方の周知をどう図っていくか。
“日常生活”を送る被災者を支えるだけでなく、被災地以外の地で暮らす人々に「普段の暮らしの中で、災害に備え無理せずできることは何か」(五十嵐部長)知らしめるのが次なる『震災レシピ』の役割である。
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