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トランプ人気で危機に曝される米国の価値観 - 岡崎研究所

 3月24日付のニューヨーク・タイムズ紙が、社説を掲げ、ブリュッセルでのテロを受けての米大統領選挙の候補者のテロ対抗措置に関する発言を紹介しています。ヒラリーについては、スタンフォード大学での演説を称賛し、トランプ、クルーズについては批判しています。社説の要旨は、次の通りです。

“米国の価値を放棄すべきでない”と説くヒラリー

 ブリュッセルでのテロを受け、トランプはテロ容疑者への水責めを主張し、クルーズはイスラム教徒居住地を警察がパトロールすることを提唱している。こういう恐怖を煽る言動は、特定宗教の信者を差別し、憲法に反するのみならず、同盟国やイスラム教徒との関係を緊張させ、国家安全保障を損なう。

 ヒラリー・クリントンは、スタンフォード大学で、これらの共和党候補に、賢明に次のように反論した。

 「我々はテロリストに脅されて、我々の価値を放棄すべきではなく、米国はいかなる状況でも拷問をするべきではない。米国は恐怖ですくむことはないし、壁の後ろに隠れもしない」

 クリントンはヨーロッパでは、入国の際に戦闘員と疑われる人を発見した国はそれを隣国に自動的に通報する仕組みがないが、改善すべきである、米政府はテクノロジー会社と緊密に協力し、テロリストの宣伝を阻止し、法執行機関が暴力的企ての情報を傍受できるようにすべしと述べた。彼女はプライバシーへの明確なコミットメントは言明せず、政府とアップル社のiPhoneのロック解除論争については中立の立場を保った。

 クリントンはまたIS(イスラム国)への軍事行動には新しい法的枠組がいると言ったが、詳細は述べなかった。

 共和党はオバマ政権が反テロ行動で弱いとしばしば批判してきた。しかしオバマは、ブッシュ大統領がはじめた破局的戦争の規模を縮小しつつも、眼に見えない、小さな足跡の作戦で過激派を断固として追い詰めてきた。

 クリントンは「もう一度費用の掛かる中東での地上戦によろめきながら踏み込んでいくことは深刻な間違いである。イラク、アフガンで何かを学んだとすれば、それは人々や民族は自分自身の共同体を確保すべきであるということである」と述べた。

出 典:New York Times ‘Hillary Clinton and Other Candidates on Counterterrorism’
(March 24, 2016)
http://www.nytimes.com/2016/03/24/opinion/hillary-clinton-and-other-candidates-on-counterterrorism.html?_r=0

*   *   *

 この社説は、トランプやクルーズがテロ対策として拷問とされる水責めの復活、イスラム教徒地区の警察によるパトロールを提案していることを、スタンフォード大学でのヒラリー・クリントンの反テロ対策についての演説を引用する形で批判したものです。

大統領選巡り分裂する米国

 テロに対する強硬姿勢は、選挙民にアピールするので、トランプとクルーズはそれを利用しているように思われますが、拷問やイスラム教徒地区パトロールの提案は、前者は人権擁護の見地より、後者はイスラムを敵視するとの見地より、まったく好ましくありません。イスラム教徒の疎外感を減らし、穏健なイスラムを取り込んでいかないと、イスラム過激派との戦いはうまくいかないでしょう。その観点から、この社説は適切な主張をしています。

 ただ、オバマのテロ対策が良いものであったとの評価には同意しがたいものがあります。オバマは、IS(イスラム国)が勢力を強めることを許し、今なお米国の「存立を脅かす」脅威ではないとして、脅威の度合いを過小評価しています。ブッシュのようなやり方がいいとは言えないにしても、もっとテロを抑える対応があり得るはずです。要するに羹に懲りて膾を吹くようなことをしているうちに、テロの脅威は増大し、今や国家を名乗るまでになっています。これについて反省が必要と思われますが、先のアトランティック誌でのオバマ発言を見ると、米国の関与を減らしたことを誇りにしていて、反省がないようです。

 米大統領選挙については、共和党は分裂しています。トランプが候補になっても多くの共和党員は支持せず、仮に共和党大会で主流派が強引にトランプを引きずり降ろせば、トランプ支持者は離反するので、共和党が大統領職を奪還する可能性は低いと考えられます。したがって、クリントン大統領の可能性が高いですが、クリントンにはよく考えてほしいと思います。地上戦によろめき入っていくのは間違い、人々は自分の共同体を確保すべしと言いますが、シリアもリビアも破綻国家になってしまい、自分で自分の共同体を確保できないからこそ、問題が出てきているのです。この現実を良くかみしめるべきでしょう。米国の役割を忌避してみても、現実が課題を突き付けてくることになるのではないかと思われます。

 クリントンのスタンフォード演説は、一応バランスの取れた演説ですが、現段階で手を縛るような発言はしない方が良いでしょう。

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