- 2016年04月29日 10:11
100日間で起きた80万人の虐殺-ルワンダ虐殺から「学んだ」、国際社会3つの歩み - 原貫太
2/2人間の安全保障
1994年に国連開発計画(UNDP)から出された『人間開発報告書』の中で、初めて「人間の安全保障」という概念が国際社会において公に取り上げられた。
外務省のホームページでは、人間の安全保障とは
人間一人ひとりに着目し,生存・生活・尊厳に対する広範かつ深刻な脅威から人々を守り,それぞれの持つ豊かな可能性を実現するために,保護と能力強化を通じて持続可能な個人の自立と社会づくりを促す考え方(引用元:外務省ホームページ)
とある。
冷戦崩壊後に登場した新しいタイプの武力紛争に対応するためには、従来の「国家の安全保障」という考え方だけでは不十分だと考えられた。これは、本来国民を保護するべき役割を担うのが政府であるにも関わらず、ルワンダ虐殺ではフツ族系政府(とそれに同調するフツ族系過激派組織)の主導により80万人もの人々が犠牲になったこと、また現在進行形のシリア紛争において、一般市民の多くがアサド政権の手により犠牲になっていることを考えてみれば、人間一人一人に着目した安全保障の必要性が感じられるだろう。「国家の安全保障」という考え方だけでは、国家を存続させることが最重要と考えれば、国家に逆らいその転覆を狙う民衆を虐殺することが正当視されかねない。
2000年に開催された国連ミレニアム総会において、コフィ・アナン国連事務総長(当時)は「恐怖からの自由、欠乏からの自由」というキーワードを使い、グローバル化がますます進展し相互依存を深める今日の世界で、貧困、環境破壊、自然災害、感染症、テロなど、人々を襲う地球規模の課題に対していかに取り組むべきかを論じた。また、日本政府・外務省はこの人間の安全保障の概念普及に大きく貢献しており、元国連難民高等弁務官である緒方貞子氏とノーベル賞・経済学者であるアマルティア・セン氏が共同議長を務めた「人間の安全保障委員会」、また「人間の安全保障基金」の創設などに携わった。
その一方で、元国境なき医師団理事長であり、またNPO法人宇宙船地球号の理事長である山本敏晴氏は、自身のブログ(Twitter)で、人間の安全保障に対してこう苦言を呈している。
リンク先を見る「人間の安全保障」が根本的に間違っているのは、「人間」しか考えていないこと。世界の持続可能性を考えた場合、人間の都合だけを考えていると、人口は果てしなく増え続け、やがて世界中の資源を食い潰し、社会は壊滅する。「生命の安全保障」に概念を進化させる必要があると考えるのは、私だけか?(引用元:山本敏晴のブログ)
国際連合本部(ニューヨーク)
保護する責任
「保護する責任(Responsibility to Protect)」とは、「国民の保護という基本的な国家の義務を果たす能力の無い、もしくはその意思の無い国家に対し、国際社会は本来当該国家の保護を受けるはずの人々の『保護する責任』を負う」という新しい概念である。2000年9月にカナダ政府によって設置された「干渉と国家主権に関する国際委員会」(ICISS)が作成した報告書に基づいて定義され、2001年に国連に提出。その基本原則について、2005年9月の国連首脳会合成果文書において認められ、2006年4月の国連安保理決議1674号において再確認された。
この保護する責任は、それまでの国際政治で絶対視されていた「国家主権」と「内政不干渉の原則」に風穴を開けるものであり、この概念の誕生により、人道危機の文脈における国際社会の役割は進歩を見せると期待された。
しかしながら、今年で6年目へ突入するシリア内戦では既に25万人以上が亡くなっており、多くの一般市民が人道危機に瀕している。そしてその多くが、本来国民を保護するべき役割を担うはずのアサド政権によるものだ。そのような事実があるにも関わらず、安全保障理事会は、拒否権という国連を成立させるための米ソ妥協の産物によりその正義を果たせていない。シリア内戦に関して、ロシアはこれまで拒否権を4回行使しており(2015年9月23日現在)、これはロシアと長らく同盟関係にあるアサド政権を擁護するためとされている。
結果として、シリア内戦に見る国際政治の動向は国家主体のままであり、国連(国際社会)はその解決に向けて本来期待される役割を果たせていないのが現実である。
リンク先を見る国連安全保障理事会議場
ルワンダ虐殺当時12歳だった人は、私に一言こう語った。
「世界は何も学んでいない。」
ルワンダ虐殺から22年の月日が経つ。私たちは80万人の死から、一体何を学んだだろうか。
ISなどのテロ組織が「虐殺」を行っている今、改めてなぜ虐殺が起こり、止められなかったのか、真摯に学び、国連、安保理の変革など、更なる「歩み」が求められている。



