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漁業と林業の「共通」大問題

このところ、日本の漁業に関する書籍によく目を通す。

森林や林業ばかり手がけていても冴えないから、海の世界に鞍替えしよう……(^o^)、というわけではない。 ただ水産業にウイングを伸ばすことは、なかなか有意義だと思う。 今回読んだのは、これ。「日本人が知らない漁業の大問題」。

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著者の佐野雅昭氏は、鹿児島大学水産学部教授。 タイトル通り、日本の漁業の今を描き、その奥深き闇と抱える巨大すぎる問題を指摘する。
ただ、ここでこの本を評しようと思っているわけではない。
まず本書の内容は、目次を見てほしい。

1 漁業は誰のためのものか
2 「海外に活路を」は正論か
3 漁協は抵抗勢力なのか
4 養殖は救世主たりうるか
5 複雑すぎる流通には理由がある
6 サーモンばかり食べるな
7 ブランド化という幻想
8 あまりに愚かな「ファストフィッシュ」
9 認証制度の罠
10 食育に未来はあるのか
雑魚にこそ可能性はある――あとがきに代えて

本書では、日本の漁業を説明する際に、農業が幾度となく持ち出されている。日本の農業も多くの問題を抱えるが、それと比較してみせるわけだ。
逆に林業はまったく登場しない。おそらく著者が林業についてよく知らなかったからだろう。あるいは林業そのものがマイナーで、比較しても読者に通じないと判断したのかもしれない。だが、農業よりも林業と比べた方が共通点が多いと思う。
なぜなら日本の漁業(水産業)の問題点は、林業にそのまま通じると感じるからだ。それどころか相似形ではないか。

たとえば漁業者と市民の対立は、海だけでなく森林空間を巡っても起きている。
養殖が儲かるわけではないという指摘には目が冴える。高級魚を養殖すれば、価格は下がってしまい利益が出なくなるのだ。
それは人工林に投下する資金や労力が報われない林業に似ていないか。ただ時間のスパンが違うので気づかないだけだ。
魚も木材も、複雑すぎる流通が問題とされるが、実は複雑だからよい面がいっぱいあった。
流通の中抜きは、結果的に画一商品を大量生産・大量販売に陥る。 

それにしても「普通は大量に仕入れたら格安で買えるのが当たり前です。でも、卸売市場で鮮魚を大量に買おうとすると、価格は逆に高くなる」現象が漁業でもあるのか。木材で、まったく同じことを言っているので笑ってしまった。

そして「ファストフィシュ」問題。ファストフィッシュとは、気軽に食べられる魚食という意味で、具体的には骨抜きして、味付け(洋風が多い)もした魚の切り身などを指す。ほとんど焼くだけですぐ食べられるというわけだ。

しかし、それは冷凍で輸入された安価な魚を骨抜きの過程でズタズタにし、粘着剤で形を整え、チーズやガーリック、バジルのようなスパイス系の味付けでごまかした食材……のことらしい。洋風なのは、その方が元の味がわからなくなるから。大量生産して学校給食などに卸してしまう。国内の漁業者には何の利益ももたらさない。

それって、チップにしてバイオマス燃料として燃やしてしまう木材利用とそっくり同じ! 燃料チップという使いやすい形に変えてしまうのだ。それでも政府は自給率が上がると推進する……。林家に利益はもたらさないのに。これからバイオマス燃料のことをファストウッドと呼ぼう。

そして審査を受けないと疑いの目で見られがちになる認証制度の問題点や、政策の間違いに眼を向けずに消費者に責任をなすり付ける食育の限界。
一方で「ウナギやマグロばかり食ってるんじゃねえよ!」と言いたくなる消費者の嗜好の偏り。。。実にさまざまな問題を指摘する。

実は、解決策もいくつか提案されているのだが、それもまた林業にもピタリと当てはまる。たとえば、あとがきのタイトルもその一つだろう。(少なくても、私の考える林業問題の解決策の一つとまったく一緒だ。)

漁業の本を読むというのは、仕事のウイングのみならず、思考のウイングを広げることに役立つのだよ。

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