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実は曲り角ではない? これから始まる本当のアベノミクス効果 - 塚崎公義 (久留米大学商学部教授)

年初来の世界的な株価下落は一段落しましたが、日本株だけはその後も冴えない動きをしています。これを見て、「海外の投資家がアベノミクスに失望したからだ」という人もいますが、アベノミクスは本当に曲り角を迎えてしまったのでしょうか?

アベノミクスの恩恵は意外に大きい?

 アベノミクスによる景気の回復は、もともと緩やかなものでした。円安になったのに輸出数量が増えず、企業が儲かっているのに設備投資が増えず、給料も上がらないので消費も増えず、アベノミクスの恩恵は株を持っている富裕層にだけ及んでいて庶民には及んでいない、と感じている人も多いようです。

 しかし、失業率は確実に下がっていて、就業者数も増え続けています。労働力不足を背景として、アルバイト等、非正規労働者の時給も少しずつですが上がっています。つまり、「働きたくても働けなかった人が仕事にありつけるようになった」「ワーキング・プアと呼ばれる人々の生活が少しだけマシになった」わけです。

 この間、庶民の生活はそれほど改善していませんが、悪化したわけではありません。「給料が上がらないのに消費税が上がって生活が苦しくなった」と思っている人も多いでしょうが、消費税はアベノミクスとは無関係なので、庶民の生活がアベノミクスによって苦しくなったわけではありません。

 こうして考えると、経済的に恵まれない失業者やワーキング・プアに恩恵が及んでいる一方、庶民の暮らしも悪化したわけではない、という事になります。これは大変好ましい事だと言えるでしょう。

 今後についても、労働力不足が深刻化してゆくと、ワーキング・プアの待遇は改善を続けるでしょうし、ブラック企業も淘汰されていくはずです。ブラック企業が存在できているのは、「辞めたら失業してしまう」と考えた社員が我慢して働き続けているからです。彼等が「辞めても、どこか雇ってくれるだろう」と考えて退職するようになれば、ブラック企業は社員がいなくなって淘汰されていくのです。これも素晴らしいことでしょう。

インフレ率の目標も遠からず実現する?

 黒田日銀総裁は、就任に際して2年でインフレ率を2%にすると宣言しましたが、就任して3年経ってもインフレ率は概ねゼロのままです。総裁の見通しが外れた理由は二つです。

 第一は、リフレ派である総裁が「金融を緩和すれば世の中に資金が出回るからインフレになる」と予想した事が誤りだった事です。日銀が札束を銀行に送りつけても、銀行がそれを貸出に廻さず、日銀に送り返して来たので、世の中に資金が出回らなかったのです。銀行員には容易に予測できた事ですが、理論偏重で現実を見つめない経済学者等には別の世界が見えていた、という事でしょう。

 第二は、原油価格をはじめとする資源価格が暴落して輸入物価が下がったことです。これは日銀のせいではありませんから、黒田総裁を批判する際にはここを割り引く必要があります。エネルギーを除く消費者物価指数は前年比1%程度のプラスとなっていますから、総裁の目標は、すでに半分程度は達成されていると考えるべきでしょう。

 リフレ派の想定がはずれ、世の中に資金が出回らなかったとしても、景気が回復すれば物価は上がります。ただ、それには長い時間がかかります。

 不況期には、正社員が社内でヒマにしていますので、景気回復初期には正社員が忙しく働くようになるだけで、何も変わりません。景気が回復を続けると、企業は非正規社員を募集しはじめますが、世の中には失業者などが大勢いるため、安い賃金で好きなだけ働き手を集めることができます。

 さらに景気が回復すると、ようやく労働力需給が引き締まり、非正規職員の時給が上昇しはじめます。しかし、この段階では、正社員の給料は上がりません。非正規職員は時給を上げないと人数が確保できませんが、正社員は「釣った魚」なので賃上げの必要が無いからです。この頃は企業収益が絶好調なので、非正規職員の時給上昇など企業は気にしません。社員が全員忙しく働いていて一人当たりの生産量は多く、しかも非正規職員の比率が結構高いので、一人当たりの人件費はそれほど高くないからです。

 さらに景気が回復を続けると、非正規職員の時給が大きく上昇するのみならず正社員の給料も上がってきます。そうなって始めて本格的な賃金インフレになるわけです。アベノミクスが始まって3年経ちましたが、ようやくこの段階に近づきつつある、という事でしょう。

景気は急に止まらない

 そもそも景気という物は、ひとたび回復を始めると、そのまま回復していく性質があります。雇用が増えれば所得が増えて消費が増える、企業収益が改善すれば設備投資が増える、銀行も企業が黒字化すれば融資を積極化する、等々のメカニズムが働くからです。

 今回は特に、労働力不足が激しくなりつつあるので、省力化の設備投資が増えると期待しています。バブル崩壊後の日本経済は、恒常的に労働力が余っていたので、日本企業は安い金額で好きなだけ労働力を雇うことができていました。その結果、省力化投資を行なうインセンティブが無く、非効率な工程が数多く放置されて来ました。つまり、今の日本には「チョッと省力化投資をすれば大幅に労働力を削減できる余地」が山のようにあるのです。こうした中で労働力不足が深刻化してくれば、省力化投資が活発化するのは当然でしょう。

 こうして、景気は自律的な回復を続けて行くはずです。そうでないとすれば、海外の景気が悪化して日本の輸出が落ち込む場合でしょう。そうなるか否かはわかりませんが、仮にそうなったとしても、それは「アベノミクスが曲り角に来た」という事にはならないでしょう。

 今ひとつ、消費税率の10%への引き上げが景気を腰折れさせるリスクが指摘されています。この点については、政府が適宜適切に判断すると期待していますが、仮に消費税率が引き上げられて、その結果として景気が腰折れしたとしても、それは政府が景気の先行きを読み誤ったという事であって、アベノミクス自体の問題ではないでしょう。

 こうして見ると、(アベノミクス以外の要因で景気が腰折れする可能性は否定できませんが)、アベノミクス自体が曲り角に来ている、といった事は無いと言ってよいでしょう。

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