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人事異動は人事の腕の見せ所 - 寺川尚人

寺川尚人

4月1日に定期異動のある会社は多いが、有能な人材ほど各部門が手放したがらず、本人の成長のチャンスを潰しているケースを多く見る。その根本的な原因は、各部門の上司が、人材を自らの所有物のように捉えてしまっていることだ。

 こういう上司には、人事から「有能な人材は会社の財産で、それをどのように生かすかは会社の戦略。彼らにどのような投資をし、何を経験してもらうかも、大事な人事戦略の1つ」と説得する必要がある。会社の成長エンジンになってくれるような人材を育てるには、10年、20年とかかる。

 筆者はソニーの人事担当者だった1994年頃、同社の急速なグローバル展開に対応するために、縦割りの各カンパニーを越えた人事ローテーションを行うことにした。当時のソニーは、人事異動に各カンパニーの意思が強く反映されており、人事主導で全社横断的に人事ローテーションを行ったことはほとんど無かった。

 しかし、海外拠点の立ち上げの際に欠かせない日本人社員の絶対数が足りておらず、各カンパニーの経理や財務、事業企画を担当する人材が、半導体、テレビなど複数の事業領域をカバーできるようになる必要があった。

 そこで各カンパニーの経営方針を具現化しているようなエース級の課長たちのローテーションを行おうとした。案の定、各事業責任者は大反対だった。エース本人たちは異動を希望していたが、引き抜かれるとビジネスが止まるような危機感が各カンパニーにはあり、「もし失敗したら責任を取れるのか」と散々罵られた。

しかし、将来の会社の競争力を確保するために、人材のレベルアップを図るタイミングは今をおいて無い、とカンパニーの事業責任者を繰り返し説得した。とはいえ、そんな高尚なことだけを人事が“のたまって”も常に経営陣からプレッシャーをかけられている事業責任者たちにしてみれば納得できない。出ていくエース級と同格の人材を、人事が責任を持って送り込むことも、繰り返し話した。

 最終的に事業責任者たちの不安を解消してくれたのは、異動する彼ら自身だった。彼らは最初、本当に異動できるのか疑問に思っていた。異動が現実的になってくると、彼らは人事の意気に応えるように、自らが取り組んできた仕事の引き継ぎを始めた。それは結果的に、多くのノウハウを“可視的”に組織に残すことにつながった。

 その後、異動した人材の活躍は目覚ましく、日頃放置されていた仕事が動き出すなど、彼らの違う発想と経験がビジネスに生きた。

 人は場(ポジション)で育つ。私自身、上司に何回も崖から突き落とされてきたが、人材育成を行う上でローテーションは非常に効果的だ。

 得てして人事は不協和音を起こさないことを良しとしがちだが、そんなことは無い。人事には今よりも将来のために組織能力を高める役割があり、人事異動は腕の見せ所だ。勇気を持って、競争力をつけるためのチャレンジをしてほしい。

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