- 2016年04月19日 10:09
グレーLINE 関東財務局との攻防 - 河本秀介
関東財務局が、ソーシャル・ネットワーク・サービス大手のLINE株式会社に立ち入り検査を行っているという報道がありました。
報道によると、関東財務局から同社に対して、同社がサービスを提供するゲーム「LINEPop」内で使用するアイテムである「宝箱の鍵」が資金決済法上(「資金決済に関する法律」)の「前払式支払手段」にあたり、供託金を支払う必要があるという指摘がなされているようです。
これに対して、LINE社は、自社のウェブサイト上で、立入り検査は定期的なものであり、関東財務局と協議中だとしつつも、「『宝箱の鍵』は『前払式支払手段』にあたらない」とする見解を示しています。
昨今、各社がスマートフォン向けに提供しているオンラインゲームが大きく成長しており、同時にその課金システムのあり方に注目がされています。今回の関東財務局とLINE社との間の「前払式支払手段」にあたるかどうかの攻防も、そういった課金システムのあり方についての問題の一端にあたるといえそうです。
今回はこの話題について解説したいと思います。
1. プリペイドカードや支払用のポイント類が 「前払式支払手段」にあたる
まず、「前払式支払手段」とはいったい何でしょうか。「前払式支払手段」の具体的な定義は後で述べますが、簡単に説明すると、店舗やオンラインショップの利用者が、代金の支払いに使うことのできる商品券やギフトカード、プリペイド方式のカード類、あるいは、オンラインショッピングで支払いをするためのポイント類を購入することがあります。
差しあたって、「前払式支払手段」とは、そういったプリペイドカード類や支払用のポイント類を思い浮かべて頂ければよいと思います。プリペイドカード類や支払用のポイント類は、実際に商品を購入したりサービスの提供を受けたりするよりも前に、そのような代金の支払のために、お金を払って購入するものですので、「前払式」の「支払手段」と呼ばれています。
2. 前払式支払手段の発行には保証金の保全が必要
プリペイドカード類や支払用のポイント類は世の中で広く利用されていますが、利便性の一方で、カードやポイントの利用者を保護する仕組みが必要です。
先ほども述べたとおり、プリペイドカード類や支払用のポイント類を買うということは、実際に商品やサービスを購入するより前に代金を支払っていることを意味します。そうすると、もし、実際に商品やサービスを購入しようとしたときに、カードやポイントが使えなくなってしまっているのでは、利用者としてはたまったものではありません。
そこで、資金決済法は、「前払式支払手段」の発行者に対して、利用者保護と利便性の促進のための一定のルールを設けています。そういったルールの一つに、サービスを辞めた場合などに利用者に払い戻す金額を確保するために、前払式支払手段(カードやポイント)の未使用残高が一定基準を超える場合に、一定額を発行保証金として供託するなどして、保全しなければならないとするものがあります。
利用者としては、いざという時の払戻金が保全されていることにより、安心して前払式支払手段を利用できるというわけです。
3. 関東財務局の指摘とは?
さて、今回の件では、何が争点となっているのでしょうか。今回、関東財務局が指摘したのは、「LINE社が発行している前払式支払手段の一部について、供託金の支払等がされていない。」ということのようです。
スマートフォンなどのゲームの中には、ゲームプレイ自体を無料としつつ、ゲーム内で利用できるアイテムなどをユーザーに対して有料で販売して収益を得ているものが数多くみられます。
そして、ゲーム内でアイテムを販売する場合に、ユーザーがその都度代金を支払うのではなく、まずはユーザーに一定数量のゲーム内通貨(コインや宝石などの形を取ることが多いです)を購入してもらい、ゲーム内通貨とアイテムを交換するという方式を取ることがあります。このような「ユーザーが購入可能なアイテムと引き換え可能なゲーム内通貨」は、「前払式支払手段」にあたる場合が多く、よって発行保証金の供託等が必要となります。
今回話題となったLINEのゲームにも、ユーザーが購入可能で、ゲーム内通貨として利用できる「ルビー」が存在していますが、「ルビー」が「前払式支払手段」にあたることについては意見の対立はないようです。
今回のケースでは、「ルビー」とは別に、「宝箱の鍵」というアイテムが存在し、このアイテムが「前払式支払手段」にあたるのではないか、という指摘がされているようです。
「宝箱の鍵」は、それ自体はゲームに有利な効果はありませんが、ゲーム上で入手できる「宝箱」を開けることができるアイテムです。ユーザーは「宝箱」を開けることで、特別なアイテムをランダムに入手することができます。
「宝箱の鍵」は、同時に何個もストックすることが可能ですが、1度使用するとなくなってしまいます。「アイテムと交換可能な消費アイテム」という点では、ゲーム内通貨の「ルビー」と似たような働きをします。
しかし、「宝箱の鍵」は「ルビー」とは違い、ユーザーが購入しようとした場合に金銭では購入することができません。金銭の代わりに、ゲーム内通貨である「ルビー」を支払って購入することになります。
「宝箱の鍵」は、「前払式支払手段」にあたるのでしょうか。
4. 「宝箱の鍵」は「前払式支払手段」にあたるのか?
この点に関して、資金決済法3条1項は、おおよそ次の条件を全て満たすものを「前払式支払手段」としています。
① 金額やポイントなどの数量が、カードなどの媒体(「証票等」)に記載されているか、データとして記録されていること
② 金額やポイント数などに応じた対価が購入者・利用者により支払われていること
③ 証票等や番号、記号その他の符号が購入者・利用者に対して発されていること
④ 利用者が商品の購入やサービスの提供を受けるときに、証票等や番号、記号その他の符号が発行者に対して掲示、交付、通知その他の方法で使用されるものであること
「宝箱の鍵」は、ユーザーが保有する数がサーバ内で記録されており(①)、ユーザーのアカウントに対して、数量に応じた番号等が発行されていると考えられます(③)。また、ユーザーは、アイテムと交換する際に、アプリ内のボタンをタップし、サーバにデータを送信することで「宝箱の鍵」を使用することができます(④の後半)。
一方で、「宝箱の鍵」は、直接金銭で購入できず、ゲーム内通貨である「ルビー」と交換することでしか購入できません。そうすると「数量に応じた対価が支払われている」といえるかどうか、やや微妙だということになります(②)。
また、「宝箱の鍵」は、ユーザーがゲーム内で手に入れる「宝箱」を開けるためのアイテムです。「宝箱」を開けるとアイテムが手に入りますが、かといって「宝箱の鍵」で、ショップに並んだアイテムを自由に選んで購入できるというわけでもありません。果たして、ユーザーが「商品の購入」や「サービスの提供」を受けるためのものなのかという点でも疑問が残ります(④の前半)。
5. 曖昧さを残すルール
おそらく、LINE社としては、関東財務局の指摘に対して、「宝箱の鍵」は、金銭を支払って買ってもらうものでもなく、商品の購入などに使われるものでもないので、「前払式支払手段ではない」と反論しているのではないかと推測されます。
これに対して関東財務局がどのような判断を示すのかは分かりません。しかし、ひとつ言えることには、資金決済法による「前払式支払手段」の定義が、必ずしも現状のインターネットビジネスの実態に即したものではなく、法解釈に曖昧な部分を残すものであったことは否めないように思われます。
資金決済法は、今後も、インターネット上のビジネスにおいて、利用者の保護と利便性の促進の両面で不可欠の役割を果たすと思われますので、明確なルール作りがより一層重要になるはずです。根本的な解決には、法律を改正し、規制の枠組みをいま一度明確化することが望まれるように思います。
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