- 2016年04月14日 08:30
シャープは騙された?「鴻海」を叩くメディアの「経済IQ」 - 小宮一慶
「1000億円値切る」のは当然
シャープの鴻海精密工業による買収が正式に合意しました。
基本合意時の金額より約1000億円低い3888億円の株式を鴻海が買い取ることで66%の株式を取得するというものです。基本合意した後、1000億円「値切った」ということで、鴻海がだましてシャープと基本合意したように受け取られました。
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シャープ公式サイトより。同社は4月2日、鴻海科技集団と共同会見を大阪府堺市で開催し、鴻海科技集団を第三者割当先とする株式引受契約の締結について発表。
しかし、これは買収交渉ではよくあることです。
買収交渉では、まず、基本合意をするのが通常です。ある時点での財務諸表などの状況をベースに、どれだけの株式をいくらで買い取るかを決めるわけです。そして、その後、被買収企業(今回ならシャープ)の事業内容を精査します。
シャープのケースでは、基本合意時に明らかになっていなかった「偶発債務」が3500億円程度あることと、業績見通しが違っていたことなどが判明しました。
偶発債務とは、将来裁判で敗訴しお金を払わなければならないなど、不確定だが将来損失を被る可能性のある出来事を指します。これがシャープの場合、3500億円ほどあることが判明したのです。
また、当初は2016年3月期決算で100億円の営業利益を予想していましたが、最終的には1700億円の赤字ということになりました。これらは基本合意時には判明していなかったことですから、最終合意に向けて買収価格を下げたのは、このような買収交渉を何度となく見てきた私には、それほど驚きに当たらないことでした。
買収交渉ではよくある話なのです。鴻海を「ハゲタカ」扱いする大マスコミ
むしろ私が驚いたのは、この件ではテレビなどから数件の取材を受けましたが、マスコミはじめ多くの日本人が、鴻海が基本合意後に買収価格を値切ったことを、「ハゲタカ」のように敵対的に受け止めていたことです。
確かに、鴻海は2012年にシャープと買収交渉を行った際にも、最終的に合意に達しなかったという「前科」がありますが、鴻海から見れば、シャープ、とくにその液晶事業は、鴻海の将来をも左右しかねない、喉から手が出るほど欲しい事業です。
そして、鴻海は、単なるファンドなどとは違い、自分の事業の中でシャープの事業を活用したい事業投資家なのです。「金食い虫」である液晶事業に将来にわたっても投資を行うでしょう。
もちろん、交渉においては、適正価格で買収するということが、鴻海の株主の立場からも、シャープの株主の立場からも必要で、そのために先にも述べたように基本合意時点で合意された価格に、その後判明した事実に基づく調整を行うという形で決着したのです。
いずれにしても、シャープに限らず、今後もこのような買収が起こる可能性は少なくないでしょう。そうした場合に、「外資だからえげつない」といった短絡的な考えをもっていると大きな間違いを犯す可能性があります。
鴻海に買収されたシャープの今後を考えても、鴻海が本当に欲しかったのは液晶事業を中心とした事業だけだと考えられますから、それ以外の事業はスピンオフ(切り離して売却)する可能性も考えられます。
逆に、それらの事業に将来性を見出せばロールアップ(同業者の買収など)を行う可能性もあります。そして、繰り返しになりますが、今後このようなM&Aはどこの会社でも起こりうることです。
「日本国内のM&Aは確実に増える」
とはいえ、買収した会社がやりたい放題にするというのは当然間違っています。シャープの従業員の雇用も気になるところですが、当初は全員の雇用を守ると鴻海側は表明していたものの、基本合意後は「40歳以下の雇用は守る」とトーンダウンし、現在では「なるべく全員の雇用を守りたい」という表現をするにとどまっています。
雇用が守られることはもちろんとても大事なことです。
ただ、現実的には事業のスピンオフが行われれば、事業ごと雇用も他社の判断に委ねられるということはシビアなビジネスの世界では決して珍しいことではありません。
いずれにしても、国際的なM&Aは今後も国内でたくさん起こるでしょう。シャープのことなど自分に関係ないと思っている人もいるかもしれませんが、「日本国内で」国際化が確実に進んでいるという認識が必要です。- PRESIDENT Online
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