- 2016年04月14日 08:48
不公平、不公平、トランプの怒りの矛先 支持者を負の方向へ動機づける - 海野素央 (明治大学教授、心理学博士)
今回のテーマは、「トランプ候補の不公平」です。ルドルフ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長の支持表明を得た不動産王ドナルド・トランプ候補は、4月19日(以下、現地時間)に地元ニューヨーク州で行われる共和党予備選挙でテッド・クルーズ上院議員(共和党・テキサス州)に圧勝して、クルーズ陣営の勢いを削ぎたいところです。
同月26日にも、ペンシルべニア州及びコネチカット州など北東部5州で共和党予備選挙が開催されます。トランプ候補が急きょカリフォルニア州での記者会見をキャンセルした背景には、南部テキサス州を地盤とする同上院議員が苦戦すると予想される北東部で、一気に突き放そうという意図が見えてきます。
本稿では、ニューヨーク決戦を前に共和党予備選挙・党員集会におけるトランプ候補の言動に基づいて、どのような考え方やものの見方をする傾向があるのか、同候補の思考様式について述べていきます。
トランプの不公平
トランプ候補の思考様式で看過できないのが「不公平」です(図表)。
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トランプ候補は、『トランプ自伝』(ドナルド・トランプ&トニー・シュワォーツ, 相原真理子訳, ちくま文庫)の中で「良くしてくれた人には、こちらも良くする。けれども不公平な扱いや不法な処遇を受けたり、不当に利用されそうになった時には徹底的に戦うのが私の信条だ」と述べており、不公平に対してかなり敏感に反応する傾向があることが窺えます。その傾向は、ビジネスのみならず2016年米大統領選挙においても顕著に現れています。
画像を見る『トランプ自伝』
たとえば、昨年8月6日に開催された第1回共和党テレビ討論会で、フォックス・ニュースの女性キャスターで同討論会の司会を務めたメーガン・ケリー氏が同候補を公平に扱っていなかったと抗議をしています。トランプ候補は自分に対する質問が、他候補のそれと比較して厳しく不公平であったと議論したのです。それ以後、同候補はテレビ討論会が開催される度に、討論会の内容を公平・不公平で評価するようになりました。
これに加えて、指名獲得のルールに関してもトランプ候補は、独自の「不公平理論」を唱えています。クルーズ上院議員との代議員獲得争いが激化し、夏の共和党全国大会での決戦投票の可能性が報道されるようになると、トランプ候補は自分が最も予備選挙・党員集会で得票数が多い点を強調し始めたのです。その背景には、決戦投票に持ち込まれると、同候補よりも得票数が少なかった候補が指名獲得をする可能性が出てくるからです。同候補は、そのような事態を予想し、得票数が最も多い候補が指名を獲得できないのは不公平だと議論するのです。
決選投票、TPP、日米安全保障まで不公平
さらに、獲得代議員数において過半数の1237人に最も近い数字を残した候補が指名を獲得できずに、決戦投票で突然現れた第3の候補に指名を奪われるのも不公平であると論じるのです。トランプ候補には、そもそも共和党全国大会で新しいルールで指名獲得を行うこと自体が不公平であるという意識が強いのです。同候補は、新しいルールをエスタブリッシュメント(既存の支配層)とワシントンにいるインサイダーによって作られたものだと主張して、反エスタブリッシュメント並びに反インサイダーに訴えるのは間違いありません。
トランプ候補の不公平に関する議論は続きます。通商問題と安全保障政策においても、トランプ候補は不公平理論を展開します。北米自由貿易協定(NAFTA)及び環太平洋経済連携協定(TPP)は相手国に有利な協定であり、米国には不利で不公平であると捉えています。
トランプ候補は、米ニューヨーク・タイムズ紙とのインタビューで日米安全保障条約について、「米国が攻撃されても日本は何もする必要がない。日本が攻撃されれば、米国は全力で出かけていかなければならない」と述べて、条約が片務的で非常に不公平であると主張したのです。ここでも、独自の不公平理論に基づいて論じているのです。
ニューヨーク州での決戦を前に、トランプ候補は同州ロチェスターで集会を開き、現行の共和党予備選挙・党員集会の制度を「不公平なシステム」と批判したうえで、民主党予備選挙・党員集会についても触れたのです。同候補は、バーニー・サンダース上院議員(無所属・バーモント州)が各州で勝利を収めても、ヒラリー・クリントン候補に勝てないのは、民主党の選挙制度が崩壊しているからだと指摘したのです。
余談ですが、トランプ候補と同様、今回の大統領選挙において民主党候補指名争いで旋風を起こしているサンダース上院議員も、不公平理論を使用しています。ウォール街に公的資金を投入して金融機関を救済したのだから、今度は学生ローンに苦しんでいる若者をウォール街の金融機関が彼らを救うのは当然だと言うのです。
本論に戻りましょう。では、どうしてトランプ候補は今回の米大統領選挙において不公平に関して繰り返し言及するのでしょうか。それに関して、以下で説明しましょう。
不公平に怒るトランプ支持者
昨年夏に中西部アイオワ州デモインで戸別訪問を実施していると、白人男性が筆者に声をかけてきたのです。
「不法移民は、税金を支払っていないのに教育を受けているのは不公平だ」
この白人男性は、不公平に怒っていたのです。同じくアイオワ州デモインでクリントン陣営が標的としている無党派層を訪問した時、この家の白人男性は退役軍人が不法移民よりも待遇が悪い点に不公平感を持っており、怒っていたのです。
上の2人の白人男性には、共通点がありました。第1にトランプ支持者であり、第2にトランプ候補の不公平の議論に共感し、第3に同候補に対して強いアイデンティティーを持っていました。トランプ支持者の中でも、特に核となっている熱狂的な支持者を理解するキーワードは不公平です。
学問的に言いますと、モチベーション理論の1つである公平理論を用いてトランプ候補の動機づけの手法を分析できます。公平理論では、人は自分の貢献(インプット)と結果(アウトカム)と、相手の貢献と結果を比較します。貢献には、金、教育、経験、能力、努力、スキル、時間、エネルギーなど、結果には給料、昇進昇格、有給休暇などのベネフィットや作業条件などが含まれます。比較する相手に対して不公平感が大きければ大きいほど、緊張感が生じ人はそれを解消しようと動機づけられるというのです。不公平から発生する緊張や怒りの解消には、正と負の動機づけがあります。
正に動機づけられた人は、一層努力し結果を高めようとします。ところが、今回の大統領選挙でトランプ候補は、不公平感を持つ支持者を負の方向へ動機づけているのです。彼らの貢献と結果は変えずに、相手(不法移民・イスラム教徒)の貢献と結果を変えようとしているのです。一般に、不法移民は高い技能を必要とする仕事には就いてはいませんが米国経済の底辺を支えており、一方、イスラム教徒は連邦下院議員をはじめ、多くの分野に進出し米国社会に貢献しています。
非常に極端な解消法
同候補が主張するアメリカとメキシコの国境の壁やイスラム教徒入国全面禁止は、確かに上で紹介した白人男性や退役軍人にとって緊張や怒りを解消する動機づけになりますが、不法移民とイスラム教徒の貢献を否定する点において、非常に極端な解消法と言えます。そのような解消法は、到底受け入れる訳にはいきません。
トランプ候補にとって、公平・不公平は極めて重要な概念です。仮にトランプ候補が本選に進んだ場合、今後も支持者の不公平に対する怒りを使い、彼らを負の方向へ動機づける手法をとってくると筆者はみています。
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