- 2016年04月12日 23:42
第357回(2016年4月12日)
2/4近年、大企業を中心に悪質なBEPSが時々問題になります。例えばスターバックス。英国進出以来14年間で約3900億円の売上を計上する一方、納めた法人税は約11億円。しかも、2008年以降は納付ゼロ。
オランダやスイスに設立したペーパーカンパニーを活用して取引を行い、法人税が高い英国での利益を圧縮しているようです。
OECDはBEPSによる減収額を「少なくとも年間2400億ドル、世界全体の法人税収の約1割」と推計。昨年8月には、OECDとG20加盟国約40カ国がタックス・ヘイブン濫用を防止する税制導入を決定。先行する日米英を参考に各国が追随するようです。
タックス・ヘイブンに明確な定義はありません。米国全体がタックス・ヘイブンであるとか、米国デラウェア州が世界のタックス・ヘイブンのモデルという指摘も聞きます。
2.デラウェア州
米国で2番目に小さい「デラウェア州」が米国オンショア(国内)のタックス・ヘイブンと言われる理由は、多くの大企業がデラウェア州に登記しているからです。
中小企業を含む全米企業総数は約2000万社。うち、上場企業の半数以上、最近の新規上場企業の大半、Fortune 500企業の約6割、多くの新興ベンチャー企業等、上場企業を中心に約100万社がデラウェア州に登記しています
デラウェア州北部の都市ウィルミントンのノース・オレンジ・ストリート1209番地のビルは世界で最も人気の高い登記地。登記代理人の所有ビルであり、アップル、グーグル、GE、コカ・コーラ等の著名企業を含む世界約29万社の本社になっています。
企業に人気の高いデラウェア州。その背景には歴史があります。
19世紀末、最も人気が高い登記地はニュージャージー州。この時期、米国では企業の公共性が強く意識されていた一方、ニュージャージー州の会社法は企業が利益追求に専心し易い法制を整備していたからです。
1899年、デラウェア州は地元企業オーナーであるデュポン一族の圧力を受け、ニュージャージー州の法制を模倣し、企業経営の自由に重きを置いた会社法を制定。
1910年代前半、ニュージャージー州のウッドロー・ウィルソン知事が第28代大統領に就任。ウィルソンは蔓延する企業不正対策を公約に掲げ、出身州であるニュージャージー州は合併規制強化を図る会社法改正や反トラスト法制定を連邦に先行して断行。これを機に、多くの企業が川を挟んで隣接するデラウェア州に登記地を変更しました。
1920年代後半、デラウェア州の企業登記数が全米トップとなり、州歳入の約半分は企業由来の税や手数料。以来、企業登記数全米トップの座を堅持。1980年代のM&Aブームの際には、同州は他州に先行して新株予約権等の各種企業防衛策(ポイズン・ピル)を整備。
デラウェア州の登記企業は過去10年で推定約100億ドルの節税に成功する一方、同州の企業由来歳入も潤沢。タックス・ヘイブンと揶揄される所以です。
たしかにデラウェア州は、商標・著作権・リース・版権等、つまり無形資産由来の受動的収益のみの企業(デラウェア州持株会社)の法人税を免除しています。
しかし、全米50州全てにおいて何らかの優遇税制が設けられているほか、デラウェア州より有利な優遇税制を整備している州もあります。
それでは、デラウェア州がタックス・ヘイブンと言われるほど企業登記数が多くなった原因は何か。そのひとつに、企業情報の秘匿性が高いという指摘を聞きます。
しかし、デラウェア州も他州と同様の情報開示義務を課しています。加えて、同州企業は州法人税報告書に取締役の氏名及び住所の記載を義務づけられ、同報告書を含め、州政府に提出される全届出が一般の縦覧に付されており、必ずしも秘匿性が高いとは言えません。
むしろ、透明性向上のために2002年に他州に先がけて無記名式株式を販売禁止。2006年には法人登録代理人に対する規制を実施。2012年には新たな上場審査基準を導入し、「ペーパーカンパニー」「ダミー会社」「匿名性・秘密性」を謳う会社設立支援業者に対する規制を強化。いずれも米国初です。
以上のように、デラウェア州が情報秘匿性の面で他州に比べて企業に有利というわけではありません。むしろ、透明性、公開性が高いという印象です。



