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対北朝鮮政策 “希望的観測”の失敗 - 岡崎研究所

 米国のシンクタンクAEIのエバースタット研究員が、3月7日付 National Reviewにおいて、エンゲージメントの幻想は止め、北の戦力を弱体化しながら北に対する防衛力を強化していく脅威削減構想を進めるべきである、と主張しています。要旨は次の通りです。

失敗に終わった米国の対北朝鮮政策

 米国の北朝鮮の核への対応は失敗している。北朝鮮という国とその意図を理解していない。北にとって核は益々残された唯一の手段となっている。平和協定交渉をすれば北は必ず在韓米軍の撤退や米韓同盟の終了を求めてくるだろう。北は米との限定核戦争に備え準備を怠っていない。

 北は核の小型化、大陸間弾道弾の開発などを着々と進めている。だが決して自殺的行為はしない。対話で北が自発的に核を放棄すると思ってはならない。

 対話が全く無意味だという訳ではない。対話のためにカネをとられ、枠組み合意のために重油の供給をすることになったことはあるが、6カ国協議のような会議はできる。しかし、対話で非核化はできない。希望的観測を排除し、外交は限られた成果しかもたらさないことを認識すべきだ。北とのグランドバーゲン論(包括解決論)は夢でしかない。

次なるパラダイムは“脅威削減”論

 今や、エンゲージメントの幻想は止め、「脅威削減」論とでも呼ぶべきパラダイムを考えるべきだ。長期戦略を持ち、同盟国等と協力して、しかし米国の一方的な行動により、米国は北の核を阻止し、その危険を下げ、ゆくゆくは除去していくことができる。この考えは、北の通常戦力・戦略攻撃戦力を弱体化しながら北の軍事力に対する防衛力を加速度的に強化していくことを意味する。

 近年削減された米国の戦力の回復が不可欠である。特に高高度ミサイル防衛システム(THAAD)を韓国、日本へ配備すべきだ。韓国は軍の近代化や市民防衛を進めるべきだ。過去60年に亘って取ってきた非武装地帯での抑制的対応を終了する旨を北に告げ、今後北の挑発には報復が伴うようにすべきだ。アジアでの米国の同盟関係を強化し、日韓の「つまらないケンカ」を修復すべきだ。

制裁に弱い北朝鮮経済

 北の軍事経済の弱体化を図るために、現行のPSIやMTCRなどの不拡散努力を強化すべきだ。韓国は補助金で支援する対北貿易を止めるべきだ。米国は北をテロ支援国家リストに戻し(もともと削除すべきではなかった)、効果的な制裁措置をとるべきだ。北の経済は機能不全で、制裁に弱い。北朝鮮に対する制裁措置は対イラン制裁よりは弱い。ブッシュ政権時代の「非合法活動イニシアチブ」(海外にある北朝鮮口座の追及と凍結)を再導入すべきだ。

 中国の北支援について中国に対価を支払わせるべきだ。国連などで対中外交工作をすべきである。NGOは中国が北の犯罪行為の共犯者になっていることを暴き、人権団体は脱北者支援を通じて中国に恥をかかせることができる。

 北は孤立化を体制維持に利用している。北は外国メディアや国際的情報、文化交流などを恐れている。これらの活動を拡大すべきだ。北朝鮮人の技術訓練等も考えるべきだ。

 そして、半島統一に備えるべきだ。北朝鮮が消滅するまで脅威は終わらない。それがいつ、どのように起きるかわからない。しかし、半島の統一を容易にするため国際的な計画と準備の開始が時期尚早ということはない。

出典:Nicholas Eberstadt,‘Wishful Thinking Has Prevented Effective Threat Reduction in North Korea’(National Review, March 7, 2016)
http://www.nationalreview.com/article/432378/north-korea-nuclear-threat-reduction-strategies-need-updating

*   *   *

 北の核開発が過去20年間止められなかった間に、北の核やミサイル能力は着実に進歩しています。その意味でこれまでの対北政策は失敗でした。北への対処で「希望的観測」を排除すべき、との筆者の指摘はその通りです。特にこのことは、ここ3年の韓国の対北政策について言えます。しかし、今回の核実験、ミサイル発射を契機に韓国は急速に冷めた認識に変わっています。

 筆者はこれまでの政策を強く批判していますが、打ち出している「脅威削減論」の具体案は、それほど目新しいものとは思えません。筆者は、エンゲージメントは幻想でありグランドバーゲンは夢である、と言い切りますが、問題の解決を図ろうとする限り最後はグランドバーゲン方式しかないように思います。

代替案見つからぬ対北朝鮮政策

 今、多くの人が不満に思うのは決定的な代替案がないことです。その最大の理由は中国にあります。若干の変化はあるにしても、中国は経済、外交的に一貫して北朝鮮を守っています。しかし手を打っていかねばなりません。時間が経てば経つほど北の核能力は前進します。中国の北支援について中国に対価を支払わせるべきだとの筆者の指摘は注目されます。対話と圧力という二つの命題の間で手段を駆使していかざるを得ないでしょう。

 筆者は、長期的戦略と同盟国との協力の重要性を強調した上で、「米国の一方的行動により」対処すべきだと言います。94年の枠組み合意以降米国は一方的行動を避けてきました。しかし調整した上での一方的行動であれば、あながち悪いことではありません。昨年末に米国は北朝鮮に核問題を含めることを条件に平和協定交渉に応じる考えを伝えましたが、北がこれを拒否したと報道されています。平和協定交渉開始も一つの選択肢ではないでしょうか。 目下は制裁強化が重要です。米中交渉を踏まえ、安保理は新たな制裁措置を決定しました(決議2270)。日米、韓国は独自の制裁、追加措置を発表しています。しかし、日米韓だけでは動かせません。やはり中国の安保理決議順守が鍵となります。

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