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<現代美術で異例の31万人動員>「村上隆の五百羅漢図展」から考える日本の現代美術

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今回の横浜美術館と森美術館のように双方でタイアップして宣伝を展開したが、来場者数・話題性・グッズ販売とも奈良展が圧倒的に多く、東京都現代美術館の担当者は多いに嘆いたという。とはいうものの、その時、この両者を特集していたTIMEでは村上隆の方に軍配をあげたと聞く。

そして、村上隆は六本木ヒルズのキャラクター制作やルイ・ヴィトンとのコラボなど、現代美術作家の枠組みを超える画期的な展開を仕掛け、次々と話題を提供しながら今に至っている。

村上隆、奈良美智ともに、はじめに海外で著名になり国内に凱旋した逆輸入作家だが、双方ともサブカルチャー、アニメのエッセンスを作品に取り入れることで欧米で評価されることとなった。両社の違いを象徴していたこの時の展覧会は、奈良美智の作品は多くの人に好かれている VS 村上隆の作品自体を好きだという人はきわめて数が少ない、という事実を浮き彫りにしていた。

村上の作品はオタクカルチャーやアニメを取り入れて作品を制作する、としながらも、そのツボをはずしているため、表層だけみればオタクやアニメファンから「下手」といわれるなど評判が悪い。

彼の持つ技術力からすれば、いくらでもそれらしい画がかけるのだろうが、コンセプトを強調するため「だけ」の作品に徹するせいか、日本では大衆的な人気がほとんどなく、露悪的な作風から一部の人からは嫌悪されることもある。

人気さえあればもっと早く評価されたかというとそうとも言えないが、誰もが作品について感想をいいたがる、論じたがる作品であれば村上隆の日本でのあり方はもっと違っていたことも確かである。

加えて作家が戦闘的で論理的なため、うかつなことは書きにくい。いきおい、作家が提出する戦略やコンセプトばかりに言及する「紹介記事」になりがちで、冷静にきちんと作品を論じる評論がほとんどない、という状況となる。

こういった状況は、作品が圧倒的な人気を博しながらも長年評論家からきちんとした評価をされず、日本の文壇では徹底して攻撃され続けてきて、それゆえ外国に拠点を移して作家活動をつづけ、世界的な人気作家となった村上春樹に近いところがある。もっとも村上春樹は、圧倒的な人気を博した初期のベストセラー「ノルウェイの森」以降、文学ファンではないけれど村上春樹の新刊だけは読む、という膨大なファン層にささえられてはいたのだが。

その村上春樹の自著『職業としての小説家』(2015年 スイッチパブリッシング刊)では、日本の文芸評論家から翻訳調と揶揄されてきた自身の文体について言及している。いわく、長年日本の純文学で使われてきた文体とは異なる、身軽なヴィークルのような文体を手に入れるために、不自由な外国語(英語)でシンプルに書き、それを日本語に翻訳しなおしたのだと。

翻訳調、というのは表層的な見方でしかなく、その本質は、まわりくどくない率直でシンプルな言葉使いで深遠なことまでを表現する今までにないオリジナルな文体にあるのだ、と。このきわめて説得力のある文書を読んで、筆者は長年の疑問がすとんと腹に落ちる感覚を覚えた。

欧米およびアジアでも人気作家となった村上春樹氏もまた、日本で自分以上に的確に自身の文体について解説・評価する人がいなかった、ということでもあるのだが。

この本にはオリジナルな表現のための条件が3つ記載されている。かいつまんで記載してみると

  1. 他の表現者とは明らかに異なる独自のスタイルがあること。
  2. 時間の経過とともに、そのスタイルを自らがヴァージョンアップできること。自発的・内在的な自己革新力をもっていること。
  3. その独自の表現は時間とともに人々の間でスタンダードと化していき、価値判断基準の一部として取りこまれてゆくこと。あるいは後世の表現者の豊かな引用源となること。

きわめて判りやすく、説得力のある言い方ではないだろうか。現代と鋭く対峙し、いままでにはなかった独自の表現を作り上げたとしても、その表現があっという間に消え失せてしまっては、それは後世にまで残る表現とは言えない。村上春樹は、この章を彼の好きな音楽を例に取って説明しているが、文学でも美術でも音楽でも、時に耐え、かつ独自の表現であることがそれほど簡単でないことは歴史の示す通りだろう。

今回のダブル村上隆展が明示する課題についてあらためて考えてみることは日本の現代美術界を考えることにもつながる。おおげさではなく、そんなことを考えさせられた展覧会だった。

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