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石油価格の行方握る 思惑で売買される先物市場取引 - 石 雄太郎

最初に結論を言いましょう(と、編集部から助言をされたのである)。

国際原油市場には現物市場と先物市場という、2種類の、互いに異なった市場が、同時に存立している。2つの市場は、役割が違う。

 先物市場は、刻々と国際原油価格の”絶対値”つまり「38ドル」を発見して、世界に、同時に公示する。

 他方で現物市場は、先物価格を参照しながら、売り手と買い手の相対取引で値付けをしている。現物市場では、原油生産/供給者と原油を引き取る精製事業者、それぞれの需給過不足を調整する。そして原油は1、2カ月後、実際に受け渡されるのだ。

 2つの市場は、値付けが違う。

 現物の値付けは、先物の“絶対値”に対して、1ドルのプレミアム上乗せ、とかして決めてゆく。割高に買う動機は、「どうしても原油が欲しい、見込み違いで足りなくなりそうだ……」。

華麗なる先物市場の世界

 他方、先物市場は石油会社同士の過不足なんか、どうでもよい。この市場のトレーダーたちは、日々、相場を張る材料を探し、思惑で売り買いをする。材料は何でもよいが、トレーダー仲間みんなが意見を持てるエキサイティングな材料でなければならない。

 3月31日現在、NYMEX原油先物市場は38ドル。1月の30ドル割れから上昇に転じている。なぜ、買われているのか。

米連銀の利上げペースが予想より遅れてドル安、その局面でマネーがドルを売って原油先物に入ったのだ。アメリカの株式市場が上向くと原油先物も上向くのが常道である。中国の財政出動がありそうじゃないか。原油だけでなく国際商品先物のいくつかが強気局面、年明け以降、金や白金や天然ゴムの国際相場が上がっている。サウジとロシアが需給調整を目指して、近々、話し合う。相場見通しに定評があるヘッジファンド筋が、「これからは“multi-year bull run”だ、60ドル、70ドルと上がってゆくだろう」、と言ったそうだ……。わぁ、百花繚乱ではないか!

 そう、何でもありなのです。

 様々に飛び交う材料と思惑の坩堝から、今日の価格38ドル、が取り出されるのだ。

石油先物市場の誕生:再説

 前回の投稿で、1982年頃に現われたロンドン・ブレントクラブ先渡し市場を紹介して、以下のように書いた。

 「価格が将来下がる見通しが大いにありそうならば、今現在の価格レベルで、1年後の原油を売れないものか。誰か買い手を見つけてきて、今日の原油価格、例えば35ドルで価格を成約し、実際の原油の受け渡しを1年後、と決めておけばよい! これが先渡し取引市場(Forward)である」

 この市場の誕生を胴元目線に近い立場で経験した。胴元は北海原油の生産者である。将来の価格崩落を心配して、将来に生産する原油を”絶対値”で先売りし、井戸元の収益を確定させようとしたのだ。これは、まったく凄いビジネスモデル・イノベーションだった。石油メジャーが何を狙ってこの市場を設計し、他の石油トレーダーたちをクラブメンバーに勧誘するのか。その真意を、卒然、理解できた時の胸震える興奮は忘れがたい。

 実は、このイノベーションの背景にシェルグループ世界戦略部門の深い洞察と長期戦略があった。トレーディング部門単独でこんな大仕掛けのリスクをとれるはずもない。筆者がこれを知ったのは、さらに10数年後、90年代中頃のことだ。

テクニカル:真実は細部に宿る

 ところで、私淑する先輩から、80年代前半当時のブレント先渡し市場の実際についてのコメントをいただいた。いわく、「ブレント先渡し取引ですが、当時小生も参画していました。1年先物などは取引されていませんでした。取引約定に従って、原油をタンカーで引き取る3日間の船積み期間が指定されます。この3日間の最初の日より15日前までに、売主は買主に対してこの指定された船積み期間を通知しなければならない、というルールでした。ゆえに、翌月もの、翌々月ものが中心で、せいぜい3カ月先までしか取引されていませんでした。従って、1年先の価格下落へのヘッジとして……というのはありえません」。

 大先輩は今やビジネスを卒業して、文献を猟渉する歴史家になっておられるゆえ正確な記述を求めておられる。

 弁明をします。筆者が「1年後の原油を売れないものか」と書いたのは、レトリックです。「将来の原油を売れないものか」と同義であります。

 でも、この機会に、現在、NYMEXなど公設取引所を介在した先物取引で見られる基本の手口を、解りやすく書いてみよう。テクニカルな話です。掲載図は碁盤のつもり。

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 先物取引は十分な流動性のある期近が中心で、期先に行くほど取引が少ない。期先マーケットは生産/供給者の売りヘッジが中心で、頻繁な売り/買いが行われない。

 図上では、期近が大混雑で成約多数。少し期先、3カ月先の8月供給原油を、Aの人が、37.60で買いたい、と黒石で公示し、Bは、38.00なら売る、と、白石を「ツケ」ています。Cの売り手は、7月物を39.00で売る、と約し、高値突っ張りをしているが、買い手がだれもツケて来ないので、近日中にロール・オーバーという作業をします。つまり、7月の39.00の売りポジションを、自分で、39.00で買って決済する。と同時に、8月に新たに39.00で売りポジションを建てる(図では、CからDへの移行)。これがロール・オーバー取引。Cは近い将来の39.00相場を確信しているのだ。

 市場に売り手Eが見える。1年先に45ドルで売ります、と、誰に対しても約束している。が、買い手がツケて来ない。Eとしてはそれで構わない。1年先の価格見通しを公示したいがため、将来への布石として大きく「ヒラいた」のだった。

 30年前のロンドン・ブレント先渡し市場は、市場機能のこのような発展を夢見ていたのでしょう。

 ここで、またもや紙数が尽きた。

 が、ここまで読んでいただいた皆様には、先物取引のテクニックは、原油だけでなく、天然ゴムや金などの商品先物、のみならず金利や債権や通貨の先物取引にも共通することに気づかれた、と思う。

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