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アンタッチャブル教育が齎した「体罰・暴言事件」

■感情的な怒りは「体罰」とは言えない

 大阪市の市立小学校で起こった37歳の男性教諭による体罰及び暴言事件が波紋を呼んでいる。
 放課後、居残り学習(補修授業)中に席に着かずウロウロと立ち歩いていた児童(小学5年生)に対し、男性教諭が「座りなさい」と注意したものの、指示に従わなかったので、児童のアゴを掴み壁に頭を押し付けたというものらしい。

 「児童のアゴを掴み壁に頭を押し付けた」という行為のみを見れば、確かに「体罰」に該当するのかもしれないが、どうも違和感があり釈然としない。この事件の場合、「体罰」とは少しニュアンスが違うのではないかと思う。
 この教師は、予め「体罰」だと称して生徒に掴みかかったわけではなく、「座りなさい」と注意しても座らなかったので、「早く座れ!」とキレてしまっただけではないかと思う。一時的に怒りの感情が爆発してしまったことによる暴力行為と暴言を「体罰」とは言わないだろう。
 この生徒が教師の言うことを聞かなかったのは今回が初めてだったのか、それとも、これまでにも何度も教師の言うことを無視し続けてきたのか、そういった違いによっても判断は変わってくると思われるので、ただ単に結果だけを見て「体罰」と決めつけてしまうのは無理があると思う。

 キレてしまった教師にも問題があるとはいえ、注意しても言うことを聞かなかった生徒側には全く落ち度が無かったのだろうか? 何もしていない生徒に手を出すのは問題だが、口頭で注意しても言うことを聞かない生徒に対して教師はどうすればよかったのだろうか?

 「いかなる理由があろうと生徒に暴力を振るってはいけない」と言う人はいるだろうけれど、そういう人達に「生徒は教師の言うことを聞かなくてもいいのですか?」と問えば、どう返答するのだろうか?

 なにやら、最近読んだベストセラー本の『幸せになる勇気』に書かれていた「教師と生徒の関係」とダブってしまうような話だが、この生徒の場合もアドラー心理学に照らせば「注目喚起」に該当するのだろうか?

■「先生がクビになったら」という言葉の意味するところ

 伝えられているところでは、この教師は生徒に対して「これで先生がクビになったら、一生許さへんからな」と暴言を吐いたことになっているが、当人の事後釈明では「一生をかけても男児を指導するという意味だった」とも弁解している。
 この苦しい言い訳では批判されても仕方がないと思われるが、怒りの感情から発した「これで先生がクビになったら、一生許さへんからな」という間引かれた言葉を、そのまま字義通りに受け止めるのもどうかと思う。おそらく、この言葉の中には以下のような意味が込められていたのではないかと想像する。

 「生徒に手を出せば、体罰として問題になることは承知しているが、お前が素直に言うことを聞かないので、先生は仕方なしに手を出した。お前が先生の言うことを聞かなかったことを悪いと思うのなら、黙って従って欲しい。これで先生がクビになったら、お前も俺も一生後悔することになる。

 実際の暴言の中にも「先生がクビになったら」という言葉を使用しているということは、本当にクビになるかもしれないという危険性は充分認識していたということだから、単なる感情的な脅し文句だったと受け取るのは短絡的過ぎるような気がする。少なくとも「体罰」を意識している人間の口から出る言葉ではないと言える。

 ネット上では案の定、「教師が悪い」vs「生徒が悪い」という具合に賛否が分かれているようだ。
 今回の事件を起こした教師の人柄は全く分からないので、ここでは、あくまでも「暴力を行使するに至った教師」という括りで一般論を述べるに止めたいと思うが、生徒に触れてはいけないという現在の教育環境では、今後も、言うことを聞かない生徒に対してキレる教師が出てくることは避けられないと思う。

■生徒が“アンタッチャブル”化したことによる悲劇

 事件の後、この小学校の校長が生徒宅に出向いて謝罪したそうだが、教師の言うことを無視した生徒の行動は全くお咎め無しでスルーなのだろうか? 結果的には暴力を振るった教師が悪いということは理解できるが、その原因を作ったのは他ならぬ生徒の方なのだから、生徒の方にも少なからず謝る必要があるのではないのだろうか?

 この事件を傍から観ていると、暴力を伴わない精神的ないじめに遭っている生徒が、我慢の限界を超えて、いじめっ子に暴力を振るえば、そのいじめられっ子が加害者として非難されるというような理不尽な光景が浮かんでしまう。ある意味で、生徒による教師いじめが許される教育環境が出来上がってしまっているようにすら感じられる。冒頭で述べた「釈然としない違和感」の正体は、まさにその部分だと思う。
 ここでもう1度、お断りしておくと、私はこの教諭を擁護しているのではなく、あくまでも「暴力を行使するに至った教師」(キレる教師すべてが対象)という仮定の括りで一般論を述べている。そこは誤解のないように。

 結果的に、当の教師は戒告処分【別の学校へ異動】で済んだということだから、幸いクビにはならなかったようだが、もしこれで、マスコミが必要以上に騒ぎ、本当に懲戒免職【教師をクビ】にでもなっていれば、この教師だけでなく、生徒の方も後悔する日が訪れることになっていただろうと思う。「自分が教師の言うことを聞かなかったという下らない理由で、1人の教師の人生を狂わせてしまった…」と。
 まさか、「俺は教師を無視したことで体罰教師をクビに追い込んだヒーローだ」などとは思わないだろう。

 現代の日本の教育現場では「体罰」がいけないという理由から、教師と生徒間のスキンシップまで全廃されることになり、生徒が神聖な“アンタッチャブル”と化してしまった。
 この事件は、そんな行き過ぎた過保護な教育環境が齎した悲劇だったと言えるのかもしれない。あるいは、これまで生徒間のいじめ行為を見て見ぬふりをする事勿れ環境にどっぷりと漬かってきた教師達が、皮肉にも、自らも理不尽な環境に追いやられることになってしまったという意味での悲劇なのかもしれないが…。
 いずれにしても、なにか「嫌なものを観てしまった」かのような違和感が拭えない。

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