小児がんなどの難病を抱えて暮らす子どもは約20万人
日本には、小児がんなどの難病を抱えて暮らす子どもが約20万人いる。そのうち、生命をおびやかされる状態(LTC=life-threatening condition)にある子どもの数は約2万人。医療の進歩で多くの命が救われる一方、完治の難しい病気を抱えたまま生活する子どもの数は年々増加傾向にある。そのため、これらの子どもたちが入院治療を終えて退院した後の自宅看護における家族の負担の増大は、解決すべき社会的課題となっている。

建物の周りの「原っぱエリア」は誰でも自由に遊ぶことができる
従来ある国内の成人向けホスピスは、末期がん患者などの緩和ケアを主眼とした終末期医療のため施設だった。それに対し、TCHは難病を抱える子ども自身の成長を持続的に支援する機能と、家族の看護負担を軽減してリフレッシュしてもらう「レスパイト(小休止)ケア」の機能をあわせ持つのが特徴だ。
利用を想定しているのは、小児がん・心疾患、神経筋疾患、代謝性疾患・先天性異常、重度脳性麻痺などの難病を抱える18歳までの子どもとその家族。民間からの寄付とボランティアで運営する「コミュニティ型の子ども向けホスピス」は日本で初めての取り組みだ。
「みんなとバーベキューをしたい」という子どもの希望にも寄り添う
同施設は鶴見緑地駅南東エリアの「あそび創造広場」の中に立地する。全体で4300㎡の敷地のうち、2300㎡の「原っぱエリア」は一般の利用者も自由に利用できる。残りの2000㎡の建物エリアに建てられた延べ床面積979.11㎡の2階建て施設には、音楽室や学習室、おもちゃの部屋、家族で入れる大きなお風呂、リビングやキッチンを備えた宿泊部屋などが整備された。初年度は運営予算の都合上、日帰り利用のみで宿泊利用は行わないが、体制が整えば宿泊も可能になるという。

「生命を脅かされる病気とともに暮らす子どもの成長を、友人のような立ち位置から寄り添うことを目的とした民間の慈善活動です。兄弟やご家族も同様に、日々の看護生活をリフレッシュしていただくことも大切な取り組みとして位置づけています。

「こどものホスピスプロジェクト」理事の一人で、大阪市立総合医療センターで緩和ケアに携わる多田羅竜平氏が言う。
「医療機関として子どもに関わるのか、慈善団体として関わるのかでホスピスのコンセプトは大きく変わってきます。たとえば医療制度の中では、診療報酬の対象となるのは、がんおよびエイズに限られてしまいます。そうした医療制度では応えられないニーズを補完していくのがこの施設です。
医療機関であれば治療を優先しなければなりませんが、この施設では『友人のようにそばに寄り添う』ことを優先できます。それが可能なのは、運営が慈善団体の寄付によって行われるためです。社会、地域によって維持されていくのも世界的な子どもホスピスの特徴です」

「たとえば『みんなとバーベキューをしたい』というときに、病院ではできません。子どもの『こういうことがしたい』という希望、家族の『こういうことを叶えてあげたい』という希望も、自由度の高いこの場所なら可能になるのです。『たくさんの人を集めてお誕生日会をしたい』という場合にも『じゃあ、しようよ』と言える。これは医療機関や教育機関ではなかなか実現できません。税金から独立したフリースタンディングな立場、民間だからこそできることが広がるんです」(高場理事長)