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日本企業はなぜ海外M&Aに失敗するのか - 杉山仁 (JPリサーチ&コンサルティング顧問)

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 ここで強調しておきたいのは、筆者は日本固有の社会と文化を海外と比べて是非や優劣を論じるつもりはまったくなく、客観的事実として彼我の違いを認識し、これを日本企業によるM&Aに役立てようとする姿勢である。

 筆者の論点は、最近はやりのグローバリズムに基づく日本ダメ論、日本変われ論ではなく、それぞれの民族が地政学上の環境において過去数千年に亘って培ってきた文明と、それに基づく行動の違いを認識することにより、日本企業の海外M&Aの成功率を高めようとするアプローチである。

 日本企業の場合、M&Aや資本提携の対外交渉にあたり、相互信頼、共存共栄、長期関係の三原則を基本とすると考えられるが、外国企業は必ずしもそうではない。

 筆者の経験では、外国企業はM&Aや資本提携の交渉時に、いかにしたら自社の利益を極大化できるか、相手の弱みは何か、相手企業に対してどのようにしたら優位に立てるか、という姿勢で交渉に臨む。支配・被支配関係を前提とした相互不信と警戒感が先立つのである。

 こういう相手と交渉をする場合、日本人特有の相互信頼の精神だけでは思わぬ落とし穴に落ちかねない。M&Aの最初のプロセスであるトップ会談で、売り手の外国人社長に惚れ込んでしまう日本人社長がいるが、自分が惚れ込んでも、相手が自分のことを信頼して好きになってくれるとは限らない。当たり前のことだが、自分の会社を高く売りたいため、あるいは有利な提携条件を結びたいため、愛想よくしているケースがほとんどであろう。

 日本では昔から「至誠天に通ず」という言葉があり、こちらが誠意を見せれば相手も必ず誠意をもって応じるという相互信頼の精神があるが、これはおそらく外国人と接したことのなかった日本人の言葉であろう。

 何千年、何万年ものあいだ、土地を求めて異民族同士の殺戮を繰り返してきた一神教のユーラシア大陸の民族(およびその派生であるアメリカ)にとって、相互信頼の精神は育たないのである。

 メソポタミアの粘土板の歴史書にも、ある日砂漠の彼方から砂煙を上げて異民族の大軍が押し寄せ、メソポタミアの都市国家を破壊し尽くし、住民を皆殺しにした史実が記録されている。13世紀のモンゴルによる中近東と欧州への進攻もその一例である。

 異民族を見たら敵だ、という発想なのであり、その考え方は21世紀の企業行動においてもユーラシアの人びとのDNAに植え付けられ、基本的には変わっていないことを認識すべきである。

人間平等主義VS奴隷制

 江戸時代以前より、近江(いまの滋賀県あたり)商人のあいだで「売り手よし、買い手よし、世間よし」という三方よしの商売哲学があった。今風の言葉でいえば、商取引にあたってすべてのステークホルダーが得するのが商売の大原則という考え方であった。

 この考えは江戸時代に入って石田梅岩が心学として体系化し、「先も立ち、我も立つ」という共存共栄の利を共にする精神を日本中の商人に広めたのである。現在でも日本の伝統的な企業で、社是として取引先と従業員との共存共栄を原則としている企業はいくらでもある。

 共存共栄の精神の基には、徹底した人間平等主義がある。日本ではこの世の人びとは皆平等である、と考えるゆえに富を分かち合うという精神が芽生えたのである。

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