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- 2016年04月05日 10:50
目取真俊の芥川賞受賞作「水滴」を読んでみた
辺野古で逮捕されて話題になった目取真(めどるま)俊氏の芥川賞受賞作「水滴」を読んでみました。目取真氏は1960年生れで、芥川賞を受賞したのは1997年、36歳のときでした。受賞作「水滴」は、戦争体験を持つ沖縄県民を主人公にしていますが、目取真氏には直接の戦争体験はありません。しかし県民として周辺には多くの戦争体験者がいたことでしょう。この作品は影書房から出ている「目取真俊短編小説選集」の第2巻「赤い椰子の葉」に採録されていて、思ったより短い短編でした。
「徳正(とくしょう)の右足が突然膨れ出したのは、六月の半ば、空梅雨の暑い日差しを避けて、裏座敷の簡易ベッドで昼寝をしていた時だった。」と物語は始まります。目を覚ましても体の自由がきかず、声も出せません。ずっとそのままの状態で十日あまりの異常な体験をすることになります。足は冬瓜(すぶい)のように成長して生っ白い緑色になったというのですが、冬瓜とは何か、私にはわかりませんでした。今になって調べたら冬瓜(とうがん)のことで、沖縄での呼び方だそうですが、そんなことはどうでもいいのです。
やがて腫れた右足の親指の先端が破れ、透明な水のようなものが滴り始めました。この水が曲者でした。やがて沖縄戦で死んだ戦友たちが壁の中から順番に現れ、足から出る水を吸って行くのです。戦友たちを壕の中に残して自分だけ生き延びたことを徳正は思い出します。兵隊たちは水を吸うと徳正に敬礼してから消えて行くのでした。この現象は他の人のいない間ですから、妻も医者も親戚の看護人も気がつきません。
しかしやがて、看護人は、足から出る水の不思議な効用に気がつきます。禿げていた頭につければ毛が生えるし、飲むとたちまち精力がつく回春剤になるのです。そこで水を集めて瓶詰にし、魔法の水として売り出すと、これが大当りして人々は先を争って高価でも買い求めるようになりました。このあたりから、沖縄らしいというか、深刻ながらも滑稽なドタバタ劇に近い意表を突く展開になります。
しかしハッピーエンドにはなりません。足の水は出なくなり、腫れも引いて本人が正気を取り戻すとともに、魔法の水を使った人たちは、一様に醜い老化した姿をさらすことになります。その騒ぎをよそに、徳正は冬瓜の黄色い花を眺め、目を潤ませるのでした。
さて、この小説の受賞を決めた審査員の評決資料というものをネット上で見ることができました。丸谷才一、石原慎太郎など9人の審査員の中で、河野多恵子と池澤夏樹が高い評価をしていることがわかりました。この二人に共通しているのは、50年前の戦争を、非リアリズムの手法で現代に結んでいるという視点でした。受賞当時は50年前でしたが、70年後の今も、目取真氏は、あの戦争を現代に結ぼうとしたのでしょう。
「徳正(とくしょう)の右足が突然膨れ出したのは、六月の半ば、空梅雨の暑い日差しを避けて、裏座敷の簡易ベッドで昼寝をしていた時だった。」と物語は始まります。目を覚ましても体の自由がきかず、声も出せません。ずっとそのままの状態で十日あまりの異常な体験をすることになります。足は冬瓜(すぶい)のように成長して生っ白い緑色になったというのですが、冬瓜とは何か、私にはわかりませんでした。今になって調べたら冬瓜(とうがん)のことで、沖縄での呼び方だそうですが、そんなことはどうでもいいのです。
やがて腫れた右足の親指の先端が破れ、透明な水のようなものが滴り始めました。この水が曲者でした。やがて沖縄戦で死んだ戦友たちが壁の中から順番に現れ、足から出る水を吸って行くのです。戦友たちを壕の中に残して自分だけ生き延びたことを徳正は思い出します。兵隊たちは水を吸うと徳正に敬礼してから消えて行くのでした。この現象は他の人のいない間ですから、妻も医者も親戚の看護人も気がつきません。
しかしやがて、看護人は、足から出る水の不思議な効用に気がつきます。禿げていた頭につければ毛が生えるし、飲むとたちまち精力がつく回春剤になるのです。そこで水を集めて瓶詰にし、魔法の水として売り出すと、これが大当りして人々は先を争って高価でも買い求めるようになりました。このあたりから、沖縄らしいというか、深刻ながらも滑稽なドタバタ劇に近い意表を突く展開になります。
しかしハッピーエンドにはなりません。足の水は出なくなり、腫れも引いて本人が正気を取り戻すとともに、魔法の水を使った人たちは、一様に醜い老化した姿をさらすことになります。その騒ぎをよそに、徳正は冬瓜の黄色い花を眺め、目を潤ませるのでした。
さて、この小説の受賞を決めた審査員の評決資料というものをネット上で見ることができました。丸谷才一、石原慎太郎など9人の審査員の中で、河野多恵子と池澤夏樹が高い評価をしていることがわかりました。この二人に共通しているのは、50年前の戦争を、非リアリズムの手法で現代に結んでいるという視点でした。受賞当時は50年前でしたが、70年後の今も、目取真氏は、あの戦争を現代に結ぼうとしたのでしょう。



