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ETV特集「忘れられた人々の肖像」のすごい迫力

昨夜のETV特集「忘れられた人々の肖像~画家・諏訪敦が描く”満洲難民”の真実」の迫力は、圧倒的だった(8日(金)深夜0時から再放送がある)。諏訪敦という画家は知らなかったのだが、写実を徹底的に極めたその画法は、写真では表現不可能と思われる「真実の探求とその表現」を実現して見せるのだった。たとえば夭折した娘の両親に依頼された肖像画では、残されたすべての写真や両親の骨相までも調べ尽くして一枚の絵に描き上げる。一目見た両親は、娘の名を呼んでその場に立ちつくすのだ。

 その諏訪敦が、執念で祖母の死を描いた。父親が最後に残した手記に書かれていた無念と怒りの言葉で、その母親つまり敦の知らなかった祖母の真実を描こうと決意したのだ。祖母は31歳の若さで満洲で死んでいる。開拓民としてかの地に渡り、関東軍に見捨てられた難民収容所で、飢えた末に寒さとチブスに侵されて死んだのだった。昭和20年の4月、敗色濃厚な中でも政府は満洲への植民政策を継続していた。

 敦が親族や近隣の開拓団の生存者を訪ねて歩くにつれて、当時の状況がわかってきた。送り込まれた満洲では、白米の飯が食べられてアメリカ軍の空襲もなかった。内地より暮らし良いと喜んだ短い間に、関東軍はソ連が参戦した場合は直ちに南へ撤退する計画を決め、それを開拓団には知らせないことにした。敦は開拓団の跡地にも立ち、祖母の終焉の地となった収容所に使われた建物も探し当てた。

 その上で敦は祖母の裸像をカンバスに描き始めた。白一色の荒野の中に、薄い白布を敷いた上に若い女が横たわっている。まだ若い美しさだが、それをこれから飢えとチブスで殺すのだという。その言葉の通りに容赦なく絵筆は加えられ、肢体は変って行く。発疹チブス患者の皮膚はどのようになるのか、医師を訪ねてそれも確かめた。当時の若い女たちは、ソ連兵の暴行を恐れ、女らしくないように例外なく髪を切っていた。だから惜しいけれど髪の毛も塗りつぶさなければならない。豊かな腹部は痩せて骨が浮き出してくる。

 こうして一枚の絵が描き上がった。忘れられた人々の姿が、一人の画家の手によって忘れられない情景として残された。文明とは、このような努力によって築かれるのではないだろうか。時たまにでもNHKがこのような番組を作れている間は、NHKは文化の一端を担っていると言えるのかもしれない。

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