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映画産業の天国と地獄

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まず少し個人的なことを書く。1980年代に大学を卒業した私は、自主制作で映画制作の魔術的な面白さに惹かれ、将来は絶対映画業界に行こうと目論んでいた。

英会話を必死で学び、米国の映画大学への進学を望んでいた。生意気にも、あわよくばハリウッドで働くという野望すら持って居た。しかし大学4年の時、父に留学の相談すると無碍もなく「留学資金が無い。」と言われた。「米国でアルバイトでもして」等と迷っていると数日後、父がたまたま映画監督の大島渚さんと偶然あるパーティで会い、初対面で息子のことを相談したのである。父は大島さんにキッチリ諭された。「映画は今とても難しいのです。とくに日本では。映画業界を目指すのをやめて、面白い仕事をするためなら目指すべきは今絶対テレビです。」と言った。

確かに当時、映画会社の中で日活だけは助監督を募集していたが、「ロマンポルノ」の時代で、まずは前バリ(女優の局部を隠すために貼るテープ)処理作業が助監督の最初の仕事であるのはよく知っていた。その後、日活は錚々たる名監督を輩出するのだが、黒澤明・溝口健二・成瀬巳喜男・小津安二郎・川島雄三・内田吐夢などが群雄割拠して活躍していた頃の映画界に比べると、その頃の日本映画界が「何か肌に合わないな。」と思っていた私は、転向し、当時キラキラと輝いている様に見えるテレビ界を目指すことにしたのである。結果的には黄金期のテレビ界で私はかなりの範囲で面白い仕事が出来た。私は故・大島監督の直言に今も感謝するばかりである。

前回「フジテレビはなぜ凋落しなのか。」(新潮新書)についての書評を書いた。現在ベストセラーのこの本は元フジテレビ勤務23年の大学教授によって冷静に執筆された。
実は同じ日、私は神保町の東京堂書店で「映画を知るための教科書・1912~1979」(斉藤守彦氏著・洋泉社)という本を購入した。第一章と第二章の冒頭は映画の基本とも言える「制作・製作・配給・興業・営業・宣伝」についてのまさに映画の教科書のごとく真面目な記述が続くが、第二章の途中からその様相が変わり、ページをめくる手が止まらなくなるほど面白くなる。

著者は映画ジャーナリスト。石原裕次郎主演映画や宮崎アニメ、またスピルバーグ・ヒッチコックまで語り、映画ビジネスの仕組みと変遷まで深く分析できる論客である。

内容はまさに日本映画産業の誕生から興隆、戦争からの復活、テレビの出現、1960年代の映画斜陽化の始まり、もがきにもがく日本映画。テレビ局が映画ビジネスに参入する直前まで丁寧に書かれている。
最後に「アメリカ映画産業はテレビ出現による環境変化にも生き残ったが、日本映画は何故壊滅的打撃を避けられなかったのか?」という謎解きまでが分かりやすく解説されている。一つの国民的映像コンテンツ産業の浮沈物語と取ると誠に意味深いものがあるし、今にも通用する多くの教訓が含まれていると感じた。

日本では「インターネットの興隆でテレビはダメになる。」というシンプルすぎる論調が当たり前の様に流布されているが、この「映画を知るための教科書」を読むと現在のテレビを取り囲む状況との驚くべき類似性を感じると共に「テレビが滅びる?そんなに簡単に滅びるというのは単純すぎないか?滅びるとしたらどうやって滅びるのか?」と言う疑問が湧きだして来る。過去、映画産業が衰退した歴史とダブる部分もあり、ダブらない部分もあるが、この本はメディアの浮沈に関する様々なインスピレーションを与えてくれる。

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