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地下に潜るカネ 米政府の監視強化は逆効果

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閉ざされたドア

 1990年代に米当局はソマリア最大の送金業者アルバラカートが、国際テロ組織アルカイダおよびその指導者ウサマ・ビンラディン容疑者とつながりがあるとの情報を得た。2001年の9・11同時多発テロ後、当局はアルバラカートがビンラディン容疑者の金融ネットワークの一角を占めていると述べた。

 9・11テロの調査委員会の報告によると、捜査当局はアルバラカートの金融取引に関する数千枚におよぶ書類を精査した結果、テロ行為とのつながりはないと結論づけた。

 米規制当局はそれでも、送金業者は全般にリスクがあるとの考えを文字にし続けた。米当局は2005年に、送金業者は「特にマネーロンダリングの手段として利用されやすい」との通告を出した。

 2011年には銀行の規制当局が送金業者をエスコートサービス業者やオンライン賭博業者と同様に扱うよう通告した。

 ワーサミ氏の会社が事業を始めた1998年はソマリアへの送金事業が急速に伸びていた頃だった。90年代初めにソマリア政府が崩壊したことで、米国へ移住するソマリア人が10倍以上に膨らみ、ソマリアへの送金需要が急増した。

 米連邦法は送金業者にマネーロンダリングやテロ関連の動きを探知できるような業務手順を設けるよう義務づけている。ワーサミ氏の会社を例にとると、同社は顧客に身元確認のための書類を求め、政府の要注意人物リストと照合し、規制当局による調査も行われる。ワーサミ氏自身や会社が当局から告発されたことは一度もない。

 だが2008年から、銀行が次から次へと同社の口座を閉鎖し始めた。2010年に同社はカリフォルニア州のマーチャンツ・バンクを主要取引銀行にしたが、2014年半ばに通貨監督庁(OCC)は、ソマリアで事業を展開する複数の送金業者と取引しているマーチャンツ・バンクに圧力を加え始めた。

 OCCは送金業者を酒屋や質屋、宝石ディーラ-、洗車業者、医療用のマリフアナ薬局などと同じカテゴリーに分類したうえで、マーチャンツ・バンクに対して「資金の出所や使途の合法性が担保されない限り」これらの業者との取引を中止するよう命じた。

 マーチャンツ・バンクはワーサミ氏の会社に、アフリカ以外の55カ国に送金先を制限しない限り、同社の口座を閉鎖すると通知した。OCCの報道官はワーサミ氏の会社のケースについてはコメントできないとしながらも、「OCCが銀行に対し、特定口座の閉鎖を命じるために公権力を行使することはありうる」と述べた。マーチャンツ・バンクはコメントを避けた。

 口座の閉鎖によってワーサミ氏の会社の事業は、高いリスクを伴う現金運び業になった。ワーサミ氏は「あとどれくらい続けられるか分からない」と話す。

ハルゲイサの市場の両替商
ハルゲイサの市場の両替商 Photo: Rob Barry/The Wall Street Journal

ドバイから流れる資金

 ドバイの空港に到着すると、ワーサミ氏が神経質になった。空港職員の一人がエックス線検査装置を通るワーサミ氏の手荷物を見ている。そして職員はバッグをつかむと尋ねた。「出発地はどこですか?」

 ワーサミ氏は米国のパスポートを職員に渡した。バッグとパスポートを持った職員が裏の部屋に入っていき、ワーサミ氏も職員の後に続いた。その部屋で複数の職員はワーサミ氏が所持していた米財務省宛ての書類の写しを確認、記載されている金額とバッグの中身を照合した。この書類は出発空港で作成したものだ。 

 検査が済み、ワーサミ氏は迎えのSUV(多目的スポーツ車)にバッグを積み込んだ。現金はオフィスビルに運ばれ人目もはばからず下ろされた。誰も心配していないようだった。ドライバーはこうジョークを飛ばした。ドバイでは盗みをはたらくと手を切り落とされてしまうからね、と。

 このカネの大半はドバイから地下経済のパイプを通って融資や外貨両替、交易に使われる。何世代にもわたってアフリカ東部や中東ではこうして現金が流れてきた。

ハルゲイザの市場に積まれたソマリランド・シリングの札束
ハルゲイザの市場に積まれたソマリランド・シリングの札束 Photo: Rob Barry/The Wall Street Journal

 ソマリアの首都ハルゲイサにある送金業者の事務所。ひっきりなしに人が出入りしている。カウンターの後ろにある扉のない金庫はドルの札束でいっぱいだ。パソコンの前に座っている従業員たちが、顧客の身元を確認する書類――有権者登録証、運転免許証、学校発行の書類――を調べたうえで、現金を渡していた。

 ハルゲイサはソマリアからの分離独立を宣言した同国北西部の「ソマリランド」の首都だ。ソマリランドは国際社会からは独立国家としては認められていない。ここは世界経済からはるかに隔離されているが、必死につながろうとしている。

 米国に住む多くのソマリア移民と同様に、ワーサミ氏も祖国に送金している。97歳の父親に毎月300ドル程度を送っているのだ。ワーサミ氏はいつ送金できなくなるかと心配していると話す。戦争で荒廃したソマリアの経済は、その4分の1程度が外国からの送金で成り立っている。

 地元政府の職員、サード・アリシャイア氏は「テロリストや犯罪者の手に資金が渡ることを恐れてカネの流れを遮断すれば、正体不明の個人や組織の利用を余儀なくされる。ますます透明性は失われてしまう」

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