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54年ぶり文民政権ついに成立! ミャンマー新政権徹底解説 入閣したアウンサンスーチーの戦略とは - 根本敬 (上智大学総合グローバル学部教授)

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外相ポストが第一に選ばれた理由

 旧テインセイン時代より閣僚ポストが半減されたなか(計18人)、彼女は外務大臣、大統領府大臣、教育大臣、電力・エネルギー大臣の4つのポストを兼任することになった。この4ポストを選んだ理由は何か。

 現憲法下では、警察権力を司る内務大臣、軍の代表である国防大臣、少数民族問題をはじめとする治安維持と密接に関連する国境担当大臣の3つの最重要ポストは、大統領ではなく国軍司令官に指名権がある。いくらNLD中心の内閣を大統領が組閣しても、この3人の大臣は軍から合法的に天下ってくる。この3ポストを通じて軍が内閣を「監視」することが可能となっているのである。そうなると、「大統領の上に立つ」と宣言したアウンサンスーチーとしては、これら3つのポストに次ぐ重要閣僚に就いて大統領をコントロールし、かつ軍との交渉を日常的におこなう必要性が生じる。

 そこで彼女は外相ポストを第一に選んだ。その理由としては、国際社会の表舞台に随時姿をあらわすことによって、ミャンマーのイメージアップを図れるのみならず、重要国との外交交渉を一貫性のもとに推し進めることができるということが考えられよう。しかし、それ以上に決定的に重要な理由がある。

 それは外相が国防治安評議会の数少ない文民メンバーの一員を担っているからということである。国防治安評議会は事実上「内閣の中の内閣」とみなされる重要な会議で、閣僚からこの評議会に入れるポストは、軍が指名する前述の3ポストを除けば外相しかいない。定数11のうち軍側が過半数の6を占めるこの評議会を、アウンサンスーチーは不利を承知で国軍側との憲法改正などをめぐる重要事項の交渉舞台として選び、そのために外相ポストを選択したのだとみなせる。

4つの大臣を兼務する目的と意味は

 大統領府大臣との兼務は、自らが制度的にティンチョー新大統領のそばにいることによって、日常的に彼と接触し、指示やアドヴァイスを与えやすいためだといえる。旧テインセイン政権では複数任命されていたポストであるが、それを1名に限定して自ら就任したのは、アウンサンスーチーだけが大統領の真横に位置することができるよう制度的に工夫したものだと考えられる。

 3つ目の兼務ポストとして教育相を選んだのは、「教育改革なくして自国の未来なし」と考える彼女らしい選択といえる。彼女にとって自国の長期的改革の原点は、停滞し遅れてしまっているミャンマーの教育の現状を大きく変えることにある。経済発展であれ、政治の民主化推進であれ、少数民族問題や宗教問題の解決であれ、この国が直面する中長期の難題は、すべて次世代の国民の能力育成にかかっており、教育が欠陥だらけなままであれば、中途半端な成果しか生み出せないと彼女は考える。だからこそ、自らが先頭に立って改革を推し進めるべく、このポストに就いたのだといえる。加えて、軍の教育への介入を極力抑えるためにも自らが教育大臣に就くのが最善だと判断した面も見落とせない。

 4つ目の兼任ポストである電力・エネルギー大臣の選択は、やや意外に映る。だが、これは中国の存在を考慮しての選択であると考えればわかりやすい。すなわち、最長の国境線を接する中国との関係において、最もセンシティヴなイシューである電力・エネルギーに関する事柄を、彼女が直接的に取り扱いたい意向があるということなのである。

 たとえば、環境破壊をもたらすとして前政権期にテインセイン大統領の独断で工事が中断されたカチン州にあるミッソン・ダムは、その後、中国側が工事再開をねばり強く働きかけている。これに対し、彼女は大統領による「つるの一声」式の非民主的なやり方ではなく、専門家から成る委員会による客観的な検証を加えた上で、最終判断を下したい意向を有している(2013年4月の来日時の発言から)。

 中国との関係で争点化する問題の中心が今後も資源やエネルギーの開発と輸出になることは避けがたく、そこに責任的に関わることの意思表示が、このポストの兼務にはうかがわれる。

 ちなみに、新内閣への与党NLDからの入閣は、アウンサンスーチーを含め6人にとどまり、ほかは民間の専門家や旧与党USDP(連邦団結発展党)関係者が入って、挙国一致内閣の様相を見せている。この方針は昨年11月の総選挙勝利後からアウンサンスーチーが公言してきたことである。彼女は当選したNLD議員に「大臣になれる」などとは考えるなという主旨のスピーチを重ね、能力本位でNLD外からも積極的に閣僚を任命することを明らかにしてきた。その「公約」が実現されたものが今回の閣僚の布陣なのである。

“規律ある民主主義”をめぐり

 ところで、軍は2011年の民政移管以来、「規律ある民主主義」の重要性を強調している。それは党利党略に走りやすい議会制民主主義を、国益からそれることのないよう、軍が制度的に監視するという考え方である。そこには国軍の政治に対する強い使命感がうかがわれ、国軍の名誉の維持と、政治へ介入する権限の確保、そして軍政期につくりあげた経済利権の継続の意思表明が見て取れる。軍政期に15年かけてつくられた現憲法は、そうした軍の思いが結晶したものであり、だからこそ改憲に応ずる気配をいっさい見せないのである。

 「規律ある民主主義」はしかし、国軍の特許とはいいきれない。「規律」という言葉に着目すれば、それはアウンサンスーチーも好む言葉だからだ。彼女は1988年に民主化運動へ参加した当初から、「民主主義を実現するためには国民が規律を持つ必要がある」ことを強調し、当時の日本や西ドイツを事例に出しながら、「規律と民主主義」「規律と経済発展」との有機的連関を党員に説いていた。いわば、規律なき国民は民主主義を担うことはできないという考え方である。

 彼女のその考え方は、あるときは自分の演説会場で靴を脱ぎ散らしたまま入場した者への批判となり、あるときは暗記中心の教育がもたらす弊害の指摘となり、またあるときは権力者の命令に恐怖心から無批判に従う姿勢への批判として語られた。抽象的にまとめれば、一人一人の国民が「問いかける心」を持ち、理不尽な命令には従わない自己決定の勇気を持つべきだとする考え方だといえる。

 一方、軍が「規律ある民主主義」をいうとき、それは軍による議会制民主主義の監視であるだけに、軍人の行動様式に似た「指導者や政府に忠実な人間」と同義化した民主主義に響く。アウンサンスーチーが理想とする「自分で考え、自分で責任をとる」ことのできる「自律した国民による民主主義」としての理解とはベクトルが異なる。

権威主義的手法用いるアウンサンスーチーに違和感

 アウンサンスーチーはしかし、昨年11月の総選挙での圧勝後、当選したNLD議員たちによるマスコミへの発言を厳しく抑制し、大統領資格制限条項をめぐる軍との交渉過程についても非公表を貫いた。これには違和感を有した人も多いだろう。「問いかける心」や「自分で考え、自分で責任をとる」ことを訴えてきた人物が、なぜこのような権威主義的なやり方をとるのかという疑念がそこには生じる。

 国民(特にNLD支持者)はそうした彼女の姿勢に現段階ではきわめて従順である。その理由は、アウンサンスーチーの権威に対するへつらいというよりも、彼女に対する絶大な信頼と期待によるものとみなせる。しかし、新政権が発足したいま、NLD議員の議会外での発言や、マスコミの取材などは、たとえ段階を踏むにしても自由化されるべきであり、そうでないと民主化は単なる「アウンサンスーチー支配」にとどまることになりかねない。いかなる不一致や不統一がNLDや新政府の中で生じても、それを隠すのではなく、それらをどのように民主的に克服するのかを議論し、建設的に取り組む姿勢を見せる必要がある。国民との蜜月が永遠には続かない以上、この点を避けて通るわけにはいかない。

 同時に、今後も軍とのあいだで「規律ある民主主義」の意味と方向性をめぐって相克が生じ、それがいっそう深まることが予想される。このことが、新政権がぶつかる最大かつ長期にわたる荒波になる可能性は誰も否定できない。

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