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54年ぶり文民政権ついに成立! ミャンマー新政権徹底解説 入閣したアウンサンスーチーの戦略とは - 根本敬 (上智大学総合グローバル学部教授)

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昨年11月の総選挙でのNLD(国民民主連盟)圧勝から4カ月半、ミャンマー(ビルマ)では3月30日に新大統領(任期5年)の就任式が行われ、民主化推進の重責を担った新政権が課題山積の荒波へ向かって船出した。

新大統領選出の背景

 外国籍の家族を有する者が大統領に就任することを禁じる大統領資格制限条項が憲法にあるため、NLD党首アウンサンスーチー(70歳)の大統領就任は実現せず、腹心の党幹部ティンチョー(69歳)が就くことになった。NLDは当初、大統領選出にあたって奇策に打って出て、上下両院それぞれで6割近い議席を有する力を活用し、両院の過半数合意をもって憲法の資格制限条項を一時凍結して、彼女の大統領就任への道を切り開こうとした。

 憲法の規定では改憲の発議には両院各75%+1名以上の議員の賛同が必要で、あらかじめ25%の議席を割り当てられている軍の賛成が得られない限り、そのハードルを越えることは不可能である。そこで編み出されたのが、資格制限条項だけを対象とした条文の一時凍結を過半数合意で可決することだった。これが通れば、改憲を先延ばししたうえで彼女の大統領就任を実現させることができる。だが、大方の予想通り、軍はこの案に強く反対し、NLDはアウンサンスーチーの「代行」を選出することで妥協するに至った。

 国民詩人のミントゥーウン(故人)を父に持つティンチョー新大統領は、ヤンゴン大学を卒業後、経済官僚としてミャンマーで働き、1960年代末期に英国に留学、その後、1988年にミャンマーで全国規模の民主化運動が生じると、父と共にNLD(国民民主連盟)に参加した人物である。軍政下で弾圧を受け続けたNLDにあって、一貫してアウンサンスーチーを支え続け、2012年に彼女の母の名を冠したドー・キンチー財団(教育支援を目的とするNGO)が結成されると、その理事も務めている。

 新大統領はまた、海外に出ても遜色のない英語力を持ち、生粋の文民ではあるが軍との調整能力も期待されている。単にアウンサンスーチーに忠実な人物だから大統領「代行」に選ばれたのではなく、彼女が冷静にその能力と人柄を判断したうえで指名したことは間違いない。

 これに対し、NLDとアウンサンスーチーにアレルギーを持つ国軍は、現憲法で保障された様々な軍の権限を引き続き活用しながら、新政権が推し進めようとする改革を合法的に抑制する姿勢を見せている。そのことは、2人いる副大統領の一人に、強硬派で旧軍政議長タンシュエ氏(引退)の忠実な部下だったミンスウェ(前ヤンゴン管区首相)を送り込んだことからもわかる。これによって、今後のNLDと軍との関係には常に必要以上の緊張感が伴うことが予想される。

入閣したアウンサンスーチーの意図とは

 大統領選出と共に関心を集めたのが組閣作業である。そこではアウンサンスーチーが入閣するかどうかが一番の関心の的となった。ふたをあけてみると、彼女は4つの閣僚を兼任することが判明した。

 当初、彼女は入閣しないという推測が広がり、筆者もその見解に与(くみ)していた。なぜなら、現憲法では正副大統領や閣僚に就任して行政府に入った議員は、議席を自動的に失うだけでなく、所属する政党の活動(党務)に関わってはいけない決まりになっているからである。

 もしNLD党首としての活動が禁じられれば、アウンサンスーチーは自身と一心同体の党の運営から距離を置かざるを得ず、党首代行を立てるにしても、党内が混乱する可能性がある。また何よりも選挙運動に関われなくなるため、彼女の国民的人気に頼るNLD候補者にとって不利な状況になる恐れがある。このようなリスキーなトレードオフ(=価値交換)を彼女が敢えて選択するとは考えにくかった。アウンサンスーチーはしかし、最終的に入閣の道を選んだ。それはNLDそのものよりも、自身の国政への責任をより重視した判断によるものとみなすことができる。

 一方、彼女の入閣と4閣僚兼任は、昨年11月の総選挙直前から公言していた「(私は)大統領より上に立つ」という考え方の発露として解釈することもできる。この考えは、たとえ憲法の制約で自身が大統領に就任できなくても、「代行」を立てて自分がしっかりその人物をコントロールするという姿勢の表明である。そこには2つの意味がある。

 ひとつはNLDを支持する有権者の一部が、彼女が大統領になれないのであればNLDに投票する意味がないと消極的に考える傾向があったことに対し、安心感を与えるという意味である。

 もうひとつは、「制度外の制度」の存在を隠すことを彼女が拒否し、それをあらかじめ民主的に「公表」するという意味である。時代を問わず、世界には特定の力を持った政治家や集団が制度上の首相や大統領を陰でコントロールするという事例がいくつもあり、今でも見かける。そのような場合、コントロールする側もされる側も、その事実を公には認めないのが普通である。

 アウンサンスーチーの場合、そうした「制度外の制度」が存在する状態を「公然の秘密」扱いすることは民主的ではないと考え、「大統領ではないが、国民の意思を反映させるため、自分が大統領をコントロールする」と敢えて国民に明言し、堂々と外から大統領を「操縦」することを約束したのだといえる。そのことの具体的意味は、次に述べる彼女が兼務する4つの大臣ポストの選び方に見てとることができる。

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