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犯罪恐れる米の高齢者、射撃訓練場に殺到

アメリカン・インドア・シューティング・レンジで射撃の説明を聞く人たち(14日、オハイオ州ノースジャクソン)
アメリカン・インドア・シューティング・レンジで射撃の説明を聞く人たち(14日、オハイオ州ノースジャクソン)
Photo: Maddie McGarvey for The Wall


 【オースティンタウン(米オハイオ州)】オースティンタウン・シニアセンターでは最近のある月曜、絵を描いたりビンゴゲームをしたりといった活動と並んで射撃教室が開催された。

 60代と70代の約10人が午前9時45分頃、車で近くの射撃練習場に向かった。間もなく、軽量コンクリートブロックの壁に囲まれた薄暗くじめじめした部屋で、つるされた紙の標的を狙う射撃が始まった。

 元体育教師で最近退職したフィリス・エングラーさん(63)は「肩が関節炎なので(銃を)構えるのは大変だったが、練習すれば大丈夫だと思う」と話した。彼女は拳銃を購入し、他人に見えない形で銃を携帯する「コンシールド・キャリー(隠し持ち)」の許可を申請する予定だという。

 全米ライフル協会(NRA)によると、2015年にNRA公認インストラクターによる銃器の基礎訓練コースを受けた65歳超の受講生は2万2739人と、5年前の4倍に達した。NRAの広報担当者は、この年齢層の増加率は全体を大きく上回っていると述べた。

 全米の銃ディーラーが、犯罪やテロを恐れて射撃訓練を受ける高齢者が増えていると話している。

 ダンカンズ・アウトドアショップ(ミシガン州ベイシティー)のオーナー、グレン・ダンカン氏は、自分の生徒のうち高齢者の割合は3分の1以上であり、5年前の10%から上昇したと述べた。全米射撃協会(NSSF)の推定によれば、拳銃のターゲット射撃に参加した人の平均年齢は14年時点で42.4歳と、09年の39.1歳から上昇している。

 多くのディーラーや高齢者が、身の安全が優先だと話した。ブラックウイング射撃センター(オハイオ州デラウエア)のオーナーは、銃の撃ち方を知っていれば高齢者は「安心感を得られる」と述べた。このセンターは95歳の生徒を受け入れたこともある。

 オクラホマシティーで印刷ショップを営むスティーブン・アイラーさん(71)は、見知らぬ他人の脅威を感じた2つの出来事の後に拳銃購入を検討し始めた。夫妻は、「毎日のようにニュースになる」と夫が話す無差別銃撃、精神に問題を抱えた人々、「過激派」について心配している。

 アイラーさんはインターネットで銃のリサーチをした後、3月上旬にオクラホマシティーのH&Hシューティング・スポーツで半自動ピストル「グロック」を2丁購入した。1丁は自分用、もう1丁の小さいモデルは妻用だ。同店での講習に申し込みを済ませており、車のグローブボックスに入れて運ぶため、コンシールド・キャリーの許可を申請する計画だ。

拳銃のターゲット射撃に参加する人の平均年齢は上昇(左)、銃購入時にFBIが行った犯罪歴調査の件数(右、単位は百万件)は15年に1424万件となった
拳銃のターゲット射撃に参加する人の平均年齢は上昇(左)、銃購入時にFBIが行った犯罪歴調査の件数(右、単位は百万件)は15年に1424万件となった

 こうした購入客が誤った方向に向かっているかもしれないとの声もある。ハーバード大学のデービッド・ヘメンウェイ教授(公衆衛生学)は、銃の所持が「自分を助けてくれないことを示す証拠はかなり有力だ」と述べた。自宅に銃があると、自殺や発砲事故のリスクは高まるが、侵入者を撃つのは難しい。「狂ったように心臓が高鳴り始める」うえ、「相手が走って向かって来たら、0.5秒ほどしか余裕はない」ためだ。

 では、不安な高齢者はどうすればいいのか。ヘメンウェイ教授は「犬を飼う、上等な鍵を手に入れる、いい隣人を得る、携帯電話を入手する」などを行うべきだと述べた。

 高齢者の需要を一因として米国の銃市場は活況を呈している。NSSFによると、12~2月には、銃購入に関係した犯罪歴調査が前年同期を29%上回った。ディーラーによれば、犯罪やテロへの懸念のほか、銃の保有がいずれ規制されるとの不安も需要を押し上げている。米有数の銃器メーカー、スミス・アンド・ウエッソン(S&W)は、11-1月期の売上高が62%増加し、株価が過去1年で2倍以上に上昇している。

射撃後にターゲットを眺めるオースティンタウン・シニアセンターの射撃教室参加者(14日、オハイオ州ノースジャクソン)
射撃後にターゲットを眺めるオースティンタウン・シニアセンターの射撃教室参加者(14日、オハイオ州ノースジャクソン)
Photo: Maddie McGarvey for The Wall Street Journal


 ダンカン氏は、高齢者による需要の拡大について、「生活が変化したことを示す。捜査機関が全員を守ることはできない」と述べた。また、ターゲット射撃はゴルフやテニスほど動かなくていいため、趣味を求めてやってくる高齢者もいるという。

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