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産経新聞【正論】震災から5年「民の力」活用して復興に活路を

新聞【正論】
2016年3月10日

 東日本大震災の被災地復興をお手伝いしながら阪神・淡路大震災(1995年)当時に比べ、現場に大きな変化が出てきているのを実感する。

 専門知識を備えたNPO(民間非営利団体)と行政の連携が進み、CSR(企業の社会的責任)から一歩踏み出し、CSV(社会との共有価値創造)の考えに立って復興支援を企業戦略に積極的に取り込む企業が増えてきた点だ。

 ≪行政主導には限界がある≫

 大都市に被害が集中した阪神・淡路大震災と違い、被害が広域に拡散した東日本大震災で、行政が復興を主導するのは限界がある。少子高齢化に伴う過疎や国、自治体の財政も悪化している。

 「民」の協力を抜きにした被災地復興はあり得ない。NPOや企業など民の力と行政をつなぎ、新たな活力を生み出す試みを全国に広げていくことが、日本の社会づくり、地方創生に活路を開くことになる。

 全国有数のサンマの水揚げで知られる宮城県女川町で新しい動きを見てみたい。大震災当時、人口約1万人の女川町は大津波で根こそぎ破壊され、人口比最大の8%、827人が犠牲となった。

 カタールから寄せられた支援金20億円を基に2012年秋、3階建ての多機能水産加工施設が完成、一昨年の水揚げ高は震災前を上回り、復興の兆しも見える。しかし人口は昨年10月時点で約6300人まで減り、被災地最大の37%の減少率を記録している。

 こうした中、町の若手事業者が「復幸まちづくり女川合同会社」(合同会社)を立ち上げ、町や民間団体、被災地で大規模な復興プロジェクトを展開するキリングループが連携して支援した。

 特産の水産加工品のブランド力を高め売れ行きを伸ばし、町の過半を占める水産関係者の収入と観光客増を図ることで人口流出に歯止めをかける、というのが合同会社の狙い。会社の形態を取っているが活動実態はNPOに近い。

 地元の方言をもじった「あがいん(AGAIN)女川」のブランド名も決まり、既に31商品を登録、加工・販売の一本化にも取り組んでいる。とかく一匹オオカミになりがちな漁師たちの連帯感も高まっているという。

 ≪積極的な企業のCSV≫

 キリングループは被災地のホップを使ったビールも製造、国内ではいち早くCSV本部を立ち上げ、被災地の人々を応援しながら企業としての収益・経済的価値を追う積極的な企業戦略を持つ。
 
 大手化粧品会社など数社が、こうした企業戦略を打ち出し、NPOや行政と連携することで復興の一翼を担っている。力を増したNPOの存在は阪神・淡路大震災の「ボランティア元年」に代わって「NPO元年」の到来さえ感じさせる。

 東北の被災地の現状に対し「復興遅れ」を指摘する声もある。しかし被災地はもともと深刻な過疎が進んでいた地域であり、大津波に襲われた土地のかさ上げといった特殊な事情もある。被災地が広い分、課題も多く時間もかかる。

 加えてインフラなど基幹施設の整備だけでなく、より難しい心の問題もある。大津波対策を徹底させた高台移転や巨大な防潮堤建設がいまひとつ不評な背景には、長年、この地で暮らしてきた人々の海に対する熱い思いがある。

 日本財団が取り組んだ地域伝統芸能復興事業でも、同様の印象を強く受けた。事業では大津波で流失した神社の社殿や神輿(みこし)、太鼓などを寄贈、各地の祭りの復活に一役買った。

 「祭りこそ他地域に避難した人々が帰るきっかけになる」「祭りがあるから地元に残る」といった若者の声に、地域との絆や帰属意識がいかに大切か、あらためて思い知らされた。

 ≪地方創生とテーマは同一だ≫

 復興の鍵のひとつは、住民の流出をいかに防ぐかにある。東日本大震災では現在も17万人が避難先で暮らし、総務省がさきに発表した国勢調査の速報値では、岩手、宮城、福島3県の人口は8年前に比べ30万人も減少している。

 自然減だけでなく、地域の将来像が見えないまま故郷に別れを告げる人が相当数に上っていると思う。どのようなコミュニティーを作っていくのか。人口が減少する縮小社会を迎え「解」を見つけるのは簡単ではない。

 「みんなが支え合う社会づくり」を目指す鳥取県と日本財団の共同プロジェクトが今月からスタートする。同県の人口は全国の都道府県で最も少ない58万人、中山間地の過疎も進んでいる。

 復興は地方創生と同一のテーマであり、東日本大震災の被災地の経験を生かし多角的な取り組みに挑戦したいと思う。専門家の知恵も取り込み、NPOや企業、行政のさまざまな組み合わせ、連携を模索する中から、被災地の復興、地方創生の新たなモデルが見えてくるのではないか。そんな思いを強くしている。
(ささかわ ようへい)

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