記事

民主主義の危機と次世代リーダーに求められるスキル

年度末という時期は、学校にしても企業にしても私がいた霞が関(官庁)にしても、何かと慌ただしいものではあるが、今年は特に、政局が騒がしい。2月に吹いた春一番に続き、東京では、衆院の解散風が強く吹き荒れている。桜の訪れと共に。

私の所にも、少し前から、連日、知人の政治家たちから、選挙に備えての派閥や個人の資金集めパーティの案内が、それこそ山のように送られて来ている。今年は、任期満了に伴う参院選挙が7月に予定されている。一年近く前から「衆院も解散して、衆参のダブル選挙になると思う」と言っていた私の予想が当たるかどうかはわからない。仮に予定していても、北海道の補選の結果等によっては衆院選をずらすかも知れない。

ただ、最も反対すると思われていた連立相手の公明党の山口代表の発言(解散は総理の専権事項なので、とやかく言わない。総理が決断すれば対応する、との趣旨)が昨日報道され、かなり解散ムードが高まっているのは事実だ。
____

偉そうに「1年近く前から衆参ダブル選挙を予想していた」と書いたが、もちろん、そう言っていたのは私だけではない。ある意味で、メディアをはじめ、政治の周辺にいる人たちは、ほぼ全員「想定の範囲内」に入れていたオプションだと言えよう。「頭の片隅にもない」(総理発言)と安倍さんが頑張ってしらを切っても、それは無駄だ。

こうした「選挙に向けた長い胎動」も背景にあってか、売れ行き至上主義を隠そうともしない、いわゆる「センテンス・スプリング」をはじめとする各種雑誌も、連日、政治家のスキャンダルを暴こうと必死である。年明け早々の甘利大臣(当時)の一件はメガトン級の衝撃をもたらしたが、その後も、短期の育休のはずが辞職でしばらく(永遠に?)政治活動休止になってしまった宮崎議員をはじめ、各誌で、連日、自民党の議員や立候補予定者が叩かれている。

ここ数年の流れの中では、特に、「とにかく、長期安定政権を作ることが、最も日本の国益に適う」と痛切に感じる私の立場からは、「話題になって売れさえすれば良いとばかりに、とにかく血眼になって政権のスキャンダルを探し、罪を増幅し、世論に火をつけて地面を揺らす」という最近の週刊誌の極端な傾向には眉をひそめざるを得ない。

ただ、こうしたスキャンダルによる自民党叩きや、「保育所落ちた日本死ね」ブログに代表される、大衆のルサンチマン(怨恨感情)を煽っての政権叩きを見ていると、特にネットやSNS上で顕著な印象があるが、現象面の奥に、社会の大きな分裂が見えてくる気がする。政権叩きは、先述のように好ましいとは思っていないが、更に言えば、もっと大きな民主主義の危機があるような気がしている。

すなわち、「安保法制を変え、増税先送りをする安倍政権はとにかく滅ぶべし」と、スキャンダルを針小棒大にあげつらって叩く勢力と、逆に、「近年まれに見る各種改革を進めている安倍政権を守らなければならない」と、絶対的に擁護する勢力との間で、全く会話が成立しないような、相容れない対立が、かつてないほどに先鋭化しているように見えるのだ。

民主主義とは、本来は多数決ではなく、議論しながら衆知を結集して結論を導き出すところに本質があると思うのだが、むしろ、大分裂型の多数決合戦、より正確に言えば、相手を貶めて、相対的に勝とうとする分裂政治に陥っている印象だ。
____

このことは、よく色々な局面で日本の数年後を映し出していると言われる米国社会を見るとより典型的であると思う。

Polarization(対立/分裂)という語が、最近よく使われ出しているが、例えば、今話題の米国大統領選では、左派のサンダーズ(民主党)がヒラリー・クリントンを相手に善戦していて、同時に、右派のトランプ(共和党)が同党で指名を獲得する勢いだ。まさに、国民間の「両極」(polar)への分裂傾向を端的に示している。

先日、米国のグーグルが開発している人工知能が囲碁の勝負で世界トップレベルの韓国人棋士を全く寄せ付けなかった(4勝1敗)ことが大きな話題となったが、人工知能(ディープラーニング)、ビッグデータ、IoT、、、、と、IT社会の劇的な進化を示す用語が、最近、米国を中心に、各地で話題になっている。既に、個人の嗜好に合わせて、SNS上などで、望ましい広告だけを提示させる動きが顕在化しているが、近い将来、人工知能や膨大な個人データを活用して、各人が見たい言説・記事だけを配信するアプリなどが主流になる日も近くないと思われる。

例えば、トランプを支持している人たちは、サンダースの心の叫びを聞こうともしなければ、その背景にある社会問題・ニュースに触れる機会も今以上になくなりかねない。もちろん、逆もまた真である。ある人がこれまで積極的に見てきたニュースサイトや論調を正確に人工知能が分析し、最も喜ぶニュースを積極的に配信して読ませるアプリが完全に普及したら、それはそれで皆が心地良いことであろう。紙面を開けば、嫌でも、嫌悪感を覚える色々なニュースが目に入ってくるアナログな新聞とはわけが違う。ただ、それは、社会の亀裂を一層深めかねず、健全な民主主義政治を産み出す道具になるかどうかは疑問だ。

____

これは何も、政治の世界に限った話ではない、社内政治や、地域コミュニティにおける意思決定プロセスなど、広義の「政治」の世界で顕著に表れていく傾向だと思われる。よほどの意思の力をもった真のエリート以外は、技術の進化で、心地よい情報にしか触れなくなり、嗜好に合わせた分裂が、社会の各層・各局面でより顕在化する。

こうした「分裂社会」において、特に「広義の政治」を担う人たち、つまり、その規模が大きかろうと小さかろうと「ある一定の社会・コミュニティ」で、何かを実現しようとするリーダーたちにとって、「俺はこう思う」「これをやるんだ」と自己主張すること以上に重要になるのは、別々の集団の「温度を調節し」「橋をかける」調整力だ。

別の言葉でいえば、リーダーシップの「シップ」(意思・態度・想い)を前面に出すことより、分裂する社会・コミュニティを、少なくともある程度は束ねて何かを実現していく、リーダーシップの「スキル」(技術)が大切になると言うことだ。

そのためには、リーダーは、社会・コミュニティの構成員たちに、自分たちの視点とは違う現実、他者の意見や見解にうまく触れさせる努力をしないと始まらない。それがまず必要な「リーダーシップ・スキル」ではないかと思う。「あいつらは違う。けしからん。叩け!」と構成員に呼びかけて対立を先鋭化させるのは、気が楽だし、ある意味で楽しいし、何より簡単だ。ただ、それはやはり「本当のリーダーが取るべき態度ではない」と、主宰するリーダー塾の6期生募集に当たって、つらつら考える昨今である。

ただ、しかし、どうも、人類は時を経てもなかなか進歩がないようでもある。リーダー塾でも毎年取り上げているが、今から2060年前の3月に暗殺された古代ローマの英雄ユリウス・カエサルはこう喝破している。「人間は、見たい現実しか見ない。」

私もまた、分裂し、混乱していく社会を前に、これらをまとめ上げていく「真のリーダー」がいるはずだという、「見たい現実」しか見ようとしない凡百の理想主義者の一人にすぎないのかも知れない。それでもある信念を意識的に持つことが、人工知能が栄える未来にあって、人類に残された最後のフロンティアなのではないか、とも思う。

あわせて読みたい

「民主主義」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    ホロコースト揶揄を報告した防衛副大臣に呆れ 政府のガバナンスは完全崩壊か

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    07月23日 10:46

  2. 2

    不祥事続く東京五輪 大会理念を理解せず、市民の生活を軽視した組織委員会

    森山たつを / もりぞお

    07月23日 10:25

  3. 3

    累計8700億円「日本一レコードを売った男」酒井政利氏の〝武勇伝〟

    渡邉裕二

    07月23日 13:02

  4. 4

    将来的に車検で印紙払いが廃止 キャッシュレス払いによる一括払いにも対応

    河野太郎

    07月23日 21:36

  5. 5

    「BTSって誰?」今さら知らないとは言えないので、初心者が通ぶれる小ネタ集めてみた

    放送作家の徹夜は2日まで

    07月23日 08:07

  6. 6

    感染爆発は起こらないことが閣議決定されました

    LM-7

    07月23日 22:45

  7. 7

    橋本会長、「選手のプレイブック違反」証拠をお見せします 出場資格を取り消せますか

    田中龍作

    07月23日 08:33

  8. 8

    東京2020オリンピック競技大会の開幕にあたって

    上田令子(東京都議会議員江戸川区選出)

    07月23日 17:52

  9. 9

    五輪の失敗 誘致直後から「復興」の大義名分が迷走していたからか

    片岡 英彦

    07月23日 10:09

  10. 10

    電通・博報堂の価値観のままで、オリパラを乗り切れるか

    篠田 英朗

    07月22日 12:16

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。