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まるで文革時代!不気味すぎる 習近平ソングが大人気のワケ - 西本紫乃 (北海道大学公共政策大学院専任講師)

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3月16日に中国の政治のビックイベントである全人代が終わったが、今年の全人代はPM2.5でかすむ北京の空同様に、政治的閉塞感が漂う大会だと中国国外メディアは評している。

 全人代が終わり、中国では今こんな風刺言葉が流行っているそうだ。

 北京に来なければ、文革をまだやっているなんて知らなかった。

 南シナ海について語らなければ、中国にとっての友人がこんなに少ないなんて知らなかった。

 全人代を開かなければ、習近平と李克強の仲がこれほど悪いとは思わなかった。

 政治空間と言論空間の統制がますます強まり、この先どこまで党と政府の締め付けが強まるのか見通しが立たないなか、庶民はひねりの効いた風刺で世相を皮肉っている。

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『あなたを何とお呼びすべきか(不知該怎麼称呼你)』のMVでの習近平の姿 (出所:動画サイト芒果TV

文革時代に逆戻り? 今年の全人代

 実際に「文革をまだやっているなんて知らなかった」と思わず言いたくなるような、50年ほど時代を巻き戻したようなことが、最近の中国では増えている。

 先日閉幕した全人代ではチベットの人民代表18人がそろって国家指導者の顔写真がついたバッチを胸に付けて人民大会堂に現れた。彼ら自身の政治的な正しさを表わすためのパフォーマンスなのか、あるいは本気で、父親を慕うかのように国家指導者個人を敬慕する家族主義が色濃い地方の政治意識の後進性か、いずれにしても時代錯誤な感じは否めない。

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全人代に出席したチベット自治区代表者が身につけていた国家指導者バッジ(出所:Caixin Online

 今年の全人代では湖南省の代表団の政治工作報告では、湖南省の代表者から習近平主席に対し、省内の極貧地区の一つである十八洞村の村民の平均収入が、2年で倍以上になったことが報告された。中国の貧しい農村では嫁不足も深刻で、湖南省の代表者と国家主席とのあいだでは、こんなやりとりもあった。

 習近平「去年は何人が嫁を娶れたのか?」

 代表「7人です。中年男性7人が所帯持ちになれました」

 十八洞村は2013年11月に習近平主席が視察に訪れたことを契機に、農産品生産や観光開発など重点的に脱貧困に向けた取り組みが行われた村だ。習近平が視察に訪れたことで村の136戸の生活が劇的に変化した地区で、まさに「習近平さまさま」である。今年2月には村人の習近平に対するあふれんばかりの感謝の気持ちを表現する歌『あなたを何とお呼びすべきか』が湖南省の肝入りで制作されていて、この歌についても全人代で報告された。

 この『あなたを何とお呼びすべきか(不知該怎麼称呼你)』の歌詞には習近平の名前こそ入っていないが、ミュージックビデオ(MV)には習近平主席が十八洞村が訪れた際に村民たちに「貧困地区の支援には地道な取り組みが必要だ」と語りかける場面の映像も付いている。湖南省の地方幹部の習近平個人へのゴマすり感たっぷりのこの歌は、中国国内では概ね不評でネット上では「気味悪い」、「吐き気がする」といった率直な感想があふれている。

習近平個人崇拝ソングの登場

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『あなたを何とお呼びすべきか(不知該怎麼称呼你)』MVの豪華な演出(出所:動画サイト芒果TV

 習近平主席への権力集中、専制化が顕著になってくる中で、今年に入ってからバッジだとか歌だとか「まるで文革時代」な個人崇拝の傾向が取りざたされることが多くなった。しかし、習近平個人崇拝ソングは習近平政権一年目の2013年から既に作られている。『習近平のメッセージ(習主席寄語)』と題された曲は、

 「♪能力がある時は小さなことも喜んでやろう。お金に余裕があれば善いことをしよう/権力がある時は実務に尽力しよう。動ける時は少しでも多くのことをしよう」

 と道徳教育のような歌詞で、習近平自らの作詞だとされている。MVは200人の高校生を動員し中国中央電視台が撮影しており、かなりのハイクオリティに仕上がっている。いわば、党のお墨付きの歌だ。

 他にも、2014年1月に習近平主席が真冬の内蒙古の国境警備隊視察を歌った『主席が私の傍まで来られた』という歌がある。

 「♪白い衣に包まれた興安嶺で、銃を握りしめて辺境を守る、四方が見渡せる歩哨の拠点に、主席がやって来られた」

 と歌うこの歌も、内蒙古の権威のある音楽家が制作した歌で官制のプロパガンダ・ソングだ。

 こうした国家指導者個人を称賛する歌は鄧小平時代、江沢民時代、胡錦濤時代にも無くはなかった。しかし、何といっても思い起こされるのは毛沢東時代の『毛主席、あなたは私たちの心の真っ赤な太陽です(毛主席、您是我們心中的紅太陽)』とか、『偉大なリーダー毛沢東(偉大的領袖毛沢東)』などの毛沢東崇拝ソングだ。

 21世紀の今日、再び国家主席個人を賛美する歌が次々につくられていく風潮は、かつての毛沢東に習近平を重ねようとする意図がどことなく透けて見える感じがする。

民間ミュージシャンの便乗

 「『まるで毛沢東』のように習近平主席を称賛してOK」な世間の空気を、庶民も敏感に感じ取って、これに乗っかろうとする者も現われた。最も注目を集めたのは2014年11月にネット上で話題になった『習ターターは彭マーマを愛している(習大大愛着彭麻麻)』だ。

 河南省出身の4人組が作ったカントリーソング風の歌は、習近平主席と彭麗媛夫人のフラッシュアニメの動画が付いたものがネット上に広まった。民間に既に広まっていた「習ターター」という習近平主席の愛称を歌のタイトルに大胆につけたことが、人々の心をくすぐった。

 この歌のヒットは新華社や人民日報でも紹介され、国家に対する「草の根の人たちの信頼と理性」が感じられると評価されたことで、民間の「習ターター」ソングは市民権を得て、二匹目のドジョウを狙う全国の音楽のセミプロや素人によって似たような歌が作られていく。

 なかでも秀逸なのは、『習ターター、人々が称賛(習大大、人人誇)』だ。「♪彼はみんなの幸せのために働いてくれる/みんなが彼を愛している/正義心があって肝っ玉が大きくて、虎もハエもみな叩く」と習近平ベタ褒めな歌詞に加え、「♪習ターター、エィッ、習ターター」と高らかに歌い上げるサビの部分が印象的な歌で、中国のあちこちの街角で早朝や夕方によく見る、派手な扇子を持って踊るおばちゃんたちの集団ダンス「広場舞」にぴったりだ。

 この他にも『習ターターVSビクビクの腐敗役人(習大大VS貪怕怕)』、『全国国民のアイドル習ターター(全民偶像習大大)』など、習近平主席が国内で推し進める反腐敗運動や積極的な外交を称賛する歌など、「習ターター」をタイトルに掲げる数々の曲が登場した。

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『我々は習近平を支持する(擁護咱們的習近平)』のMV 赤い服のおじさん (出所:Youtube

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