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「仕掛け人」が明かす「ニコニコドキュメンタリー」の今

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吉川圭三さん(株式会社ドワンゴ 会長室 エグゼクティブ・プロデューサー)

ニコニコドキュメンタリーの元気がよい。最近では、中国の軍事パレード3時間に渡り同時通訳で放送。また中国版の紅白歌合戦ともいえる「中国中央電視台春節聯歓晩会」を日本初ネット生放送で放送したほか、日本ではたった一日で上映禁止となった映画「南京!南京!」など、地上波では絶対に放送できないようなドキュメントリーを次々と編成しオンライン放送している。このニコニコドキュメンタリーの「仕掛け人」の一人・吉川圭三(株式会社ドワンゴ 会長室 エグゼクティブ・プロデューサー)さんに、元日本テレビ記者・キャスターの加藤玲奈さんと共に話を伺った。

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片岡:現在、どのようなお仕事をされていますか。

吉川:株式会社ドワンゴは、2015年に株式会社KADOKAWAとの経営統合をしました。カドカワ株式会社代表取締役社長であり株式会社ドワンゴ代表取締役会長でもある川上さん(川上量生氏)が上司にあたります。

僕は「ニコニコドキュメンタリー」の責任者というポジションとして、中国中央電視台や中国の国務院関係者の方達と連絡を取り中国の映像配信を行う他、「何でも屋」みたいな感じで、あっち行けこっち行けみたいな、かっこよく言うと007とか、機動部隊みたいな役割です。(笑) 川上さんというのは一種の興行主みたいなところがあります。僕は興行主の意を汲んだり、あるいはこんなことやったらどうですか?と言っています。時に私が熟慮に熟慮を重ねて提案しても「それはだめじゃん」みたいな、一行のメールで返されたりとかで、いろいろありますが、川上さんに無理難題をふっかけてなんぼだと思っています。(笑)

この会社は変な会社で、仕事は上から降って来るものではなく、自分の仕事は自分で作らなきゃいけないんですよ。だから全面英国スタッフによるドキュメンタリー等も、僕がやらせてくれと言って、やることになって、そしたら川上さんが意外と入れ込んでくれて、じゃあ川上さんが「日韓問題」でやろうと言う事になって、今に至るというような感じなんです。7月で1年になりますが、今のところこの先も多分まだまだやりそうな感じではあります。

◆イギリス人の視点で日韓問題を撮影

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最近、「日本を褒める番組」がやたら増えていますよね。ある種日本の経済状態とか、若者の就職難だとか、日本人が自信を失っているだとかいうようなことがその背景にあるのかもしれないですけど、一方で日本のサブカルチャーが世界中で人気だと伝えられたり(ある意味本当であり、ある意味嘘なんですが)、日本の食や観光が見直されている等、やっぱり日本人としての自尊心を持ちたいんでしょうね。

でも今までのそういった「日本を褒める番組」は、全部日本人がやってるんですよね。そこで、イギリス人の一流のドキュメンタリーのスタッフに日本を撮らせる企画を提案しました。イギリス人が聞きに行って、イギリスのTVクル―だといって撮影するわけです。そこにはウソはありません。彼らは相当な訓練を受けた、「百戦錬磨の国際級のタダモノじゃない連中」がいっぱいいます。

新聞では取り上げないネトウヨ問題や、豊臣秀吉が朝鮮出兵で何十万人も殺して戦利品として耳とか鼻とかを持ってきて京都に「耳塚」を作ったとか。同じ従軍慰安婦に話を聞きに行く時でも、日本人が聞きに行く場合と韓国人が聞きに行く場合とでは言うことが違うんです。イギリス人が取材に行くと、「日本人には一日中何人も相手させられてひどい目にあったけども、実は韓国人ブローカーがいて、私はその人につかまって、こういうことになったんだ」みたいなことを言ったりするんですよ。だから、我々の意図はすごく発揮されちゃったんですね。

彼ら英国人のやり方に、基本的に口出しはしませんでした。冗長なところはカットさせましたが、従軍慰安婦、強制労働問題、ネトウヨの問題、在日韓国人の問題等を2時間にまとめて放送しました。結果、NHKも朝日新聞の外報部も放送を見終わったあと騒然となったと漏れ聞きました。

◆スケールが半端ない中国の紅白歌合戦

この間も中国の紅白歌合戦「中国中央電視台春節聯歓晩会」を放送しました。これは毎年春節に放送され、中国13億人の人口のうち、7億人が見るというお化け番組で、制作費が40億です。それを放送権利をかなり安くして、全部同時通訳を入れて歌のところにはスーパーを入れて放送しました。そしたら10万アクセス、コメントも10万きました。これは一つの画期的な出来事でしたね。

また、「南京!南京!」という映画を放送しました。これは南京事件について中国の若手の一流監督が撮った映像派の映画で、日本では一日で上映禁止されたものです。ネットはそういう意味では総務省にも監督されていないので、一応良識をもって放送していますけど、まあよくあれを放送したなと思います。内容は、元日本兵とかあるいは南京の人の話を聞いて作った映画でフィクションです。

そのあとに討論会という形で解説番組を放送しました。南京の犠牲者というのは3万人からもっと下まで、あるいはまったくいなかったという人まで日本国内では色々見解があります。それはなぜなのかとか、他にも色々な話をして、それで中立を保つというわけではなくバランスを保つということでやったら、中国の人民日報や新華社通信に大きく「日本のニコニコが『南京!南京!」をやった」という感じで取り上げられました

中国の軍事パレード3時間も中国中央テレビ(CCTV)との協力で放送が実現しました。これは日本の放送局がやろうなんて思いませんよね。でも我々は完全な日本語同時通訳つきで全部やりました。そしたら、それもとんでもないアクセス数でした。これはすごいですよ。どの要人が出席したというのも全部わかるし。あとは兵器の種類と数もすべて映って、軍事オタクにはたまらない内容です。中国中央電視台の映像は120台のカメラで撮っていて、寸分たがわぬ台本でジェット機のキューも出すわで、とにかくすごいんですよ。レディーガガがスーパーボールで国家を歌った時にジェット機がファーっと入ってくる、あれの連続みたいな感じです。いやーすごいなと思って、やっぱり見ている人に考えてほしいなと思うんですね。ネトウヨとかは「中国なんかミサイル打ち込んじゃえ」みたいなこと言っているけど、「こんな国と戦争したら負けるよ」というのが一目瞭然でわかるわけですよ。だからそんな簡単に戦争とか言っちゃいけないんだよということもわかるだろうし、軍事オタクは「この戦車スゲー」みたいに言っているやつらもいるし、いろんなレベルの映像が含まれていて、色んな事を考える。いろんなメッセージが、情報がそこに込められているんじゃないかなと思います。

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あとやっぱりある種の中国共産党の力なんでしょうか、行進に関しても横の人と足が1センチも違わないみたいな、日本ではあり得ないじゃないですか。そういうのを目の当たりにすると、この国って何なんだろうと思います。春節歌合戦番組でも内モンゴルから中継があり、少数民族に気を使っているのだと感じます。

あるいは古い京劇とか川劇(中国四川省の伝統芸能)を見せたり、あるいは中国共産党や人民解放軍のコーナーがあったり。これは日本の紅白歌合戦に自民党や自衛隊のコーナーがあるようなものなんですよ。これを見ると価値観が変わります。また一流の歌手しか出せないですよね。可愛いだけのアイドルでは絶対出られないですよ。本当に全員が全員、歌と実力がある人たちです。制作費40億ですから、後ろのLEDも数十日かけて撮ったんだみたいな映像を映したりするんです。

見ているユーザーは「度肝を抜かれた」とか、もちろん中国共産党のコーナーのところでは「胡散臭いわー」とかそういうの出てきますけど、全然そういうのも構わず、画面に弾幕出しました。まあ地上波に比べればちっちゃい範囲の放送ですけども、我々はこういうところで勝負していくしかないと思います。

◆見ている人にさざ波が立つような放送をしたい

加藤:そもそもなぜドキュメンタリーを選んだんですか?

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吉川:日テレではバラエティ、知的エンターテインメントを手掛けてきました。「世界まる見え!テレビ特捜部」、「恋のから騒ぎ」、「踊る!さんま御殿!! 」、「1億人の大質問!?笑ってコラえて!」、「特命リサーチ200X」等です。僕はあまりジャーナリズムとバラエティの境目がわからないし、わざとわからないでやってきた人間なんですよ。例えば世界まる見えで極秘入手した北朝鮮の国営放送のテレビを日本で初めて流して、朝鮮総連にスタッフが3日間幽閉されたりですね。

片岡:そういう番組でしたもんね。いろんな面白い映像がありました。

吉川:これまで私はドラマ以外は何でもやってきたみたいな感じだったんですけど、何でもやりますよって川上さんに挨拶したら、「これからは報道とドラマをやってください」と言われました。ニコ動におけるドラマというのはまだちょっと社外機密だったりしますが、ただ僕はやっぱりドキュメンタリーを作りたくて、その流れでニコニコドキュメンタリーという枠を作っちゃえばいいじゃないかということで、その責任者になったというのがいきさつです。

ドキュメンタリーって言ってもいろんな種類がありますよね。例えば動物ドキュメンタリー、秘境ドキュメンタリー、あるいは、がん患者に密着取材して亡くなる日までとか、科学ドキュメンタリー等諸々あるんですけど、ニコニコドキュメンタリーの場合は、「ジャーナリズムに絵を付けた」みたいな感じのことをやろうと。だから食品の安全についての裏側を描いた「フード・インク」もやるし、「アウトフォックス」という、ブッシュ大統領に協力してイラクに参戦するということを日々宣伝した強烈な戦意高揚チャンネル・メディア王マードックの経営するFOXテレビ、こういったものを放送しようとしたり、あるいは子供たちがキリスト教原理主義者になるために入り洗脳されてゆく「ジーザスキャンプ」を取材したもの等です。

他にも、3.11に関して言えばNHKが結構ドキュメンタリー作りますよね。福島に行って、白い服と被災地というのが主な映像です。

一方うちでは、全く違う視点のドキュメンタリーを2本放送します。アメリカで作られた、「原発がないと人類は地球温暖化で滅びる」というドキュメンタリーなんですけど、反原発作品でアカデミー賞もらった人がいろんな環境学者等に話を聞いていると、このまま化石燃料を使い続けると地球温暖化でダメになるから、原子力ないと大変だぞというものです。ちょっと色々物議をかもしそうな内容なんですけど、わざとそれを放送してそれについて討論会やるんですよね。「原発は必要か必要じゃないか」というのをやったりとか。あと北欧・ノルウエーにある「オンカロ」という核廃棄物を貯蔵する巨大な迷路みたいな施設があるんですけど、これの取材をした見事なドキュメンタリーがあります。原発は核廃棄物を必ず排出すると言うのが恐ろしいビジュアルでわかります。小泉純一郎元首相が「反原発派」になるキッカケを作った問題作です。

要するに「3.11だから福島やるべきだ」というのじゃない方向で、ちょっとひねくれ者的なものを選んで放送しようということなんですね。あとこれからは地上波では到底放送できない爆弾的な企画を、あるいはWOWOWとかネットフリックスとかでもビビるようなものをちょっとしかけていこうかなと思っています。実際そういう映画が海外では公開されて、日本では公開されないというところもあったりするので、我々はそれを狙っていこうかなと思っています。

話題作とか賞をとったもの以外でも絶対面白いものがあるはずです。アカデミー賞をとったやつばっかり集めてやってたらお金もかかるし、それらは特別な視点で選んでいる場合があるので、僕らは「議論になる番組」、「コントラバーシャルなドキュメンタリー」をやっていこうと思います。その作品を出したことによって、見ている人にさざ波がたってそれでそれを討論していく、あるいは解説番組を作っていくということである意味バランスをとっていこうというのが狙いです。

今のメディアの状況でいうと、新聞も、放送もアンタッチャブルなことが多すぎます。僕らはそういう意味でいうと、総務省管轄ではないので、ある程度自由が保証されている。一方この間、東海テレビが「ヤクザと憲法」という映画を作りましたけど、あれは地上波としては大いなる勇気だと思いますよね。上の人から下の人まで覚悟を決めていないとできないのと、あと交渉がむちゃくちゃ大変だったと思うんですよ。編集室にやくざを入れないとか、収録してあるテープをやくざに見せないとか、最初にドカンと出てくるんですけど、これすごいなうちでも放送したいなと思いました。色々交渉して叶わなかったんですけど、そういうアンタッチャブルなところ、タブーとかあるいは矛盾とか、そういうもので議論が巻き起こるようなことをやっていこうということですね。

加藤:最近NHKでもツイッターでの意見を生放送中に読まれたりしますが、あれとは本質的に違うんですか。

吉川:できるだけ生の意見をそこにぶつけています。例えば日韓問題にしても「もうニコ動なんか見ねーぞー」とかいうのがくるわけです。

片岡:NHKだと「もうNHKなんか見ないぞー」とか「受信料払わねーぞー」というのは出てこないですからね。(笑)

吉川:うちはさすがに差別用語は削除していますけど、基本そのまま出します。川上さんは「そういうことが面白いんだ」って言っているんですよ。「ニコ動なんか見ないぞ」って言っているのを見てる人がそれをまたメッセージとして受け取ることが面白いじゃないですか。

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<吉川 圭三さんプロフィール>

ドワンゴ会長室・エグゼクティブ・プロデューサー

東京都生まれ。小学校の頃からミステリー小説・SF小説・ハリウッド映画に深く耽溺する。早稲田大学理工学部を経て、1982年に日本テレビ入社。ドラマ部門に配属される事を強く切望していたが、初めて配属されたのは公開・演芸班の『日本民謡大賞』。以降バラエティ番組・音楽番組・クイズ番組・ドキュメンタリー番組など様々なレギュラー・スペシャル番組を担当。『世界まる見え!テレビ特捜部』『特命リサーチ200X』『1億人の大質問!?笑ってコラえて』『恋のから騒ぎ』などでディレクター・プロデューサー・チーフプロデューサーを務める。明石家さんまや所ジョージなどからの信頼が厚い。2007年より、編成局コンテンツプロモーションセンター長・宣伝部長。編成局総務・編成戦略センター長、バラエティー局エグゼクティブプロデューサー企画担当等を経て、2013年6月より現職。

<加藤玲奈さんプロフィール>

元日本テレビ記者・キャスター

国際NGO AAR Japan【難民を助ける会】広報・支援者担当

1970年東京生まれ。 慶應義塾大学卒業後、日本テレビ入社。報道局で記者として、社会部で警視庁を、政治部では首相官邸や外務省を担当。ニュース番組のディレクターとして2001年の同時多発テロ発生直後、米国やパキスタンで取材。英国ダラム大学大学院で国際関係学修士号を取得後、外報部デスクとして勤務する傍ら、朝の情報番組でニュースコーナー担当キャスターを務める。日本テレビを退職後、パリとロンドンに合計約4年間滞在し、2014年帰国。 かつて取材で訪れた難民キャンプの光景が忘れられず、また英国でボランティアをした経験から国際協力に関わる仕事がしたいと思い立ち、現在は日本生まれの国際NGO、AAR Japan【難民を助ける会】で広報・支援者担当。

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