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米軍も諦めた研究を実用化! 人工クモの糸で産業革命【2】 -対談:スパイバー社長 関山和秀×田原総一朗 - 田原総一朗の「次代への遺言」

山形・鶴岡に、米軍もNASAも断念した「夢の繊維」をつくった男がいる。関山和秀、32歳。鋼鉄より強いというクモの糸の人工合成に世界で初めて成功。自動車や飛行機への応用も目指すという。

将来はクモ糸が金属の代わりに

【田原】いまはどれくらいできるようになったのですか。

【関山】全方位的に改善していって、いまは生産性が当初の4500倍になりました。

【田原】すごいですね。

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ゴールドウィンと開発したクモ糸製ジャケット

【関山】私たちはラッキーでした。日本には発酵や繊維の分野で世界トップレベルの会社がたくさんあります。たとえば発酵分野でいえば、お酒やお醤油の会社が高度な発酵技術を持っています。私たちは、そうした会社をリタイアしたエンジニアの方々に声をかけて、いろいろとご指導をしていただいた。これは本当に大きかったですね。

【田原】生産性が飛躍的に向上したきっかけはあったんですか。

【関山】ブレークスルーがあればおもしろいのですが、残念ながらそういう話は全然ないんです。研究は細かい工夫の積み重ね。地道に改善を重ねて、数ミリが数十ミリに、数十ミリが数百ミリに、そしてグラムになるというように、段階的に生産性を高めてきたというのが正直なところですね。

【田原】2013年には、つくった糸を「QMONOS」という名前で発表しました。

【関山】その糸で青いドレスをつくり、六本木ヒルズで発表しました。海外でも大きく取り上げられ、それなりに注目していただけました。さらに15年10月にスポーツ用品のゴールドウィンさんと共同開発したパーカを発表しました。これは16年に商品化を予定しています。

【田原】実用化が着実に進んでいますね。商品としては、やっぱり衣料品が中心ですか。

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【関山】現在、ほかにも自動車部品の小島プレスさんと提携して自動車に使えないかと研究しています。

【田原】なるほど。いま自動車メーカーは炭素繊維を車体に使おうとしていますね。クモの糸は、その代わりになりうる?

【関山】少し違います。クモの糸は炭素繊維と補完関係にあります。炭素繊維はとても硬いので自動車のシャーシに向いています。ただ、硬い素材は衝撃を吸収しにくいので、事故があってぶつかったときにもろい面があります。一方、クモの糸は衝撃を吸収する性能が高い。両方を組み合わせれば、硬くて衝撃にも強い樹脂ができます。ですから、クモの糸の実用化が進めば炭素繊維の普及も加速するという関係ですね。競合するとしたら、むしろ金属でしょう。自動車や飛行機などの輸送機器は、安全性を高めるとともに、軽量化して燃費効率を高めることも求められています。鉄の比重は7.8ですが、クモの糸は1.3くらい。将来は金属の代わりに使われる機会が増えていくはずです。

【田原】将来に期待大ですね。いま競合といえる会社はあるのですか。

【関山】サンフランシスコに同じようなことをやっているベンチャーがあります。でも、私たちのほうが1.5歩か2歩くらい先を行っています。

地方の鶴岡だからできること

【田原】関山さんは、24歳のときにスパイバーを設立しました。会社をつくったのはどうしてですか。

【関山】理由はいろいろありますが、一番大きな理由は資金調達です。当時私は博士課程でしたが、博士課程の学生が使える研究費って、せいぜい年間に数百万円です。クモの糸の実用化には億単位の研究費が必要でしたから、会社にして投資家に投資していただいたほうがいいと判断しました。

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【田原】そこが関山さんのおもしろいところだ。研究者は企業化してお金を集めようとはなかなか考えない。

【関山】どうでしょう。私はもともと研究一筋というより、事業サイドの視点のほうが強いタイプ。起業するという選択肢にとくに違和感はありませんでした。

【田原】お金はどれくらい集まったのですか。

【関山】はじめはまったく集まりませんでした。最初の2年間くらいは無給。アルバイトしながら何とか研究を続けていました。お金が集まり始めたのは、数十メートルの糸をつくれるようになった09年ごろですね。「バイオビジネスコンペJAPAN」で最優秀賞をいただいたことで少し注目していただけるようになり、その年にベンチャーキャピタルから総額3億円を調達できました。

【田原】そこで聞きたい。資金調達も含めてほかの会社といろいろやりとりするのに、鶴岡は不便じゃないですか。研究施設はともかく、本社機能を東京に移したほうがいいと思うんだけど。

【関山】鶴岡は若干不便なところもありますが、総合的に見ると、とってもいい場所。移転するつもりはないです。

【田原】鶴岡に会社を置くメリットは何でしょう?

【関山】まず、入社したい人のスクリーニングになります。おかげさまで海外からも入社志望の方が来るのですが、おそらく海外の人にとって鶴岡は名前すら聞いたことがない町。それでも働きたいというモチベーションが高い人だけが入社してくれるのは、大きなメリットです。

【田原】いま社員は何人ですか。

【関山】約100人です。その10分の1くらいが外国人で、インド、中国、アメリカ、ドイツ、サウジアラビア、エクアドル、イタリア、台湾などいろんな国から来てくれています。これからさらに増えていくと思います。

【田原】わかりました。将来は山形だけでなく、日本を代表する大きな企業になるかもしれませんね。楽しみにしています。

田原氏への質問:事業で社会貢献をしたい。きれいごとですか?

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【田原】エネルギー問題をバイオで解決したいという関山さんの志は立派です。実際、クモの糸が石油由来の繊維の代替になれば、社会に大きく貢献する企業になるでしょう。

ただ、志を遂げるためには、まず目の前の人を喜ばせることが肝心。近江商人の言葉に「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」があります。僕は滋賀出身だから知っていますが、これは順番が違っていて、本当は「買い手、世間、売り手」。つまりまずお客に信頼され、それによって社会にも評価され、最終的に自分も潤うのです。目線は高く持ちつつも、まず買い手を満足させることに全力を尽くす。それが結果的に社会貢献につながるのです。

遺言:社会貢献の前に「お客さん」あり

田原総一朗
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。若手起業家との対談を収録した『起業のリアル』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

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