記事

【読書感想】モンスターマザー:長野・丸子実業「いじめ自殺事件」教師たちの闘い

2/3

 教員たちはみな、裕太君の不登校に頭を抱えていた。学校と県教委にとっては、再び登校してもらうことが最優先事項だった。そこで、高山(さおり)さんを刺激することは控えよう、何か言えば裕太君に影響が及ぶから我慢しようということになり、バレー部の保護者も部員たちも、さおりの言動にひたすら耐えてきたのだ。

 それなのに、裕太君が亡くなった途端、バレー部が加害者にされてしまった。


 僕がこの自殺した生徒の母親の話を読んでいて痛感したのは「ああ、こんなふうに、周囲を巻き込んで誰か、何かを責めずにはいられない人」って、どこにでもいるよなあ、ということでした。

 その人には、どこかに向けないとやりきれないような、巨大な悪意のエネルギーみたいなものが常にあって、そのターゲットにされてしまったら、もう逃げられない。

 しかも、そういう人って、「誰に対してもおかしい」わけではなくて、「自分の味方と敵をキチンと分けて、自分の味方に対しては、「ちゃんとした人」のようにふるまい、「この人にそんなに言わせるなんて、それはやっぱり、あなたが悪いんじゃない?」と感じさせる術に長けているのです。

 周囲は、ターゲットになっている人を謝罪させたり、排除すれば、この責め苦から逃れられるのではないか、と考えるようになってしまうこともあるのです。

 

参考リンク:【読書感想】他人を攻撃せずにはいられない人(琥珀色の戯言)


 ああ、でもこの自殺した生徒の母親の場合は、まだ全方位的に悪意を振りまいていて、周囲の人々もそれを知っており、ある意味「狡猾さが足りない」ところもあり、そのおかげで裁判でも学校側が勝訴したわけですが、世の中には、もっと上手く「自分の攻撃性をコントロールできる人」がいて、そういう人の被害者は、罪を着せられて泣き寝入りしているのではないか、という気もするんですよね。

 これは「氷山の一角」でしかない。


「誠意を持って接すれば、わかってもらえる」

「うまく関係を築けないのは、あなたの側に問題があるのではないか」

「私に対しては、いつも礼儀正しく挨拶してくれるけどねえ」


 それで安心していたら、次にその「攻撃」が向かってくるのは、あなたかもしれないのです。

 いやほんと、世の中には、「なんでそんなことをするのかわからないのだけれど、常に他人に悪意を振りかざしていないと生きられない人」というのがいるんですよ。

 しかも、仲が良かった(ようにみえる)人とか、何かをしてあげようとした人に、その刃が向かってくることが多いのです。

 それはもう、理由や理屈じゃなくて、「そういう人」が存在するということを知っておくべきです。

 関わらないのが最良の方法なのだけれど、それが難しければ、とにかくみんなで情報を共有し、事実を積み重ねて、闘っていくしかない。

 この丸子実業の事例では、学校側・バレー部の保護者たち・弁護人たち・行政側が、最後まで力を合わせて闘ったのが大きかったのだと思います。

 もし、このモンスターマザーや社会の圧力に押されて、自分だけでもラクになりたい、と誰かが切り崩されてしまえば、「やっぱり、いじめはあったんだ」という結論になっていた可能性もあります。

 

 この本を最後まで読んでみて思うのは、こういうモンスターに遭遇し、ターゲットにされてしまうと、たとえ裁判に勝ったとしても、失うものばかりだよなあ、という無力感なんですよね。

 「いじめ自殺」としての最初の報道と、裁判の結果、いじめの事実はなく、むしろ学校側のほうが「モンスターマザー」による被害者だったという事実認定が伝えられたときの扱われ方は、明らかに前者のほうがセンセーショナルで大きなものでした。

 マスメディアが、自分たちの誤りを大声でアナウンスすることはない。

(これは、マスメディアだけではなくて、SNSなどの個人メディアでもそうです。僕もそうかもしれない)

 しかも、裁判というのは、はじまってから終わるまで、何年もかかるのです。

 その間、「いじめがあった学校」として周囲から白眼視されつづけ、判決が出たあとでさえ、その「風評」に怯える人々もいるのです。

 モンスターマザーも「人権派弁護士」も、賠償金を払わないし、判決で指示されている謝罪広告も出さない。

 彼らに強制的にそれをやらせるシステムは、存在しないのです。

 ささやかな賠償金を払わせるより、もうそんな人には関わりたくない、というのも人情だと思う。

 「無罪」になっても、「勝訴」しても、失った時間や信頼のほうが、はるかに大きい。

 「やられ損」なのです。

 

 もちろん、世の中の「いじめ自殺」が、すべてこのような事例ではないことは百も承知です。

 学校側、いじめた側が「隠している」「軽く考えていた」場合のほうが、多いのだろうとは思います。

 でも、この本に描かれているような「他人を攻撃せずにはいられない人」は社会に少なからず存在していて、それに苦しめられている人がいるということをなるべく多くの人に知っていてもらいたい。

 他人事のように言っているけれど、人って、自分が正しいと思っているときこそ「暴走」しやすいんですよね。誰かを徹底的に責めたり、正しさを押し付けたりしてしまう。

 僕にだって、その傾向はある。

あわせて読みたい

「書評」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    全国フェミニスト議員連盟の釈明は、明らかに虚偽を含み極めて不誠実である

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    09月20日 16:58

  2. 2

    河野太郎は自民総裁選で勝てるか? 父と祖父があと一歩で届かなかった首相の座

    田原総一朗

    09月21日 08:02

  3. 3

    「テレビ報道が自民党一色になっていることへの懸念はあった」立民・安住淳議員に呆れ

    鈴木宗男

    09月20日 15:48

  4. 4

    引きずり下ろされた菅首相の逆襲が始まる「河野内閣」で官房長官で復活説も

    NEWSポストセブン

    09月21日 08:42

  5. 5

    <オダギリジョー脚本・演出・編集>連続ドラマ『オリバーな犬』に危惧

    メディアゴン

    09月20日 10:32

  6. 6

    「感染ゼロではなく、重症化ゼロを目指す。医療と経済は両立できる」現場医師の提案

    中村ゆきつぐ

    09月21日 08:28

  7. 7

    「論文ランク1位は中国」ノーベル賞常連の日本が貧乏研究者ばかりになってしまった根本原因

    PRESIDENT Online

    09月20日 14:10

  8. 8

    医療逼迫招いたのは日本医師会か 医師不足に触れず「病床増やそう」は欺瞞

    NEWSポストセブン

    09月20日 17:06

  9. 9

    警察庁長官、警視総監だけじゃない 総裁選の裏で安倍前首相の“懐刀”が続々出世の怪

    NEWSポストセブン

    09月20日 14:41

  10. 10

    コロナ第五波の新規感染者数が減少 原因を医学博士が推察

    先見創意の会

    09月21日 09:24

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。