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【読書感想】モンスターマザー:長野・丸子実業「いじめ自殺事件」教師たちの闘い

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内容紹介

第22回 編集者が選ぶ 雑誌ジャーナリズム賞作品賞 受賞!


たった一人の母親が学校を崩壊させた。

不登校の高一男子が、久々の登校を目前に自殺した。

かねてから学校の責任を追及していた母親は、校長を殺人罪で刑事告訴する。

人権派弁護士、県会議員、マスコミも加勢しての執拗な追及に崩壊寸前まで追い込まれる高校。

だが教師たちは真実を求め、ついに反撃に転じた――。

果たしてほんとうの加害者は誰だったのか?

どの学校にも起こり得る悪夢を描ききった戦慄のノンフィクション。


 とはいえ、この母親は、自分の息子が自殺してしまったショックで「異常」になってしまったのではないか……

 僕は半信半疑で、このノンフィクションを読みはじめました。

 長野県の丸子実業のバレー部に所属していたひとりの男子生徒の生徒の自殺。

 これは、部内でのいじめによるものだという報道がなされ、僕も「ひどい学校だな」と当時は思っていた記憶があります。

 判決では、いじめがあったとは認定されず、「まあ、証拠不充分、という感じだったんだろうな、高校生くらいのときって、自ら死を選ぶ理由にも、いろいろあるのかもしれないし」と。


 しかしながら、この本を読んでみると、僕が新聞やテレビのニュースで、わかったようなつもりになっていた「事実」は、この学校の関係者たちが味わった地獄のような日々とは、大きくかけ離れたものであったことがわかります。

 著者は「本当の被害者側」である、学校側やバレー部の生徒、自殺した高校生に肩入れしているようにも思えるけれど、裁判でのやりとりや証拠とされているものからみても、この「モンスターマザー」は常軌を逸していて、さまざまな既往もあったのです。

 

 僕は病院で働いていて、いわゆる「モンスターペーシェント」と呼ばれるような人たちと接したこともあります。

 この本を読んできて、そういう「思い出したくない記憶」が蘇ってきて、本当に「うんざり」したり、何度も読むのを中断したりしました。

 学校の生徒や保護者、病院の患者というのは、基本的には「弱い立場にある人」だし、多少の問題行動については、致し方ない面もあると思います。

 癌の告知をされた人が、「なんだと!」とレントゲンをぶちまけて担当医を責めるシーンが、『命』という柳美里さん原作の映画にあったのですが、ああいうのは、現場にいたら、正直つらいな、と思うけれども、本人が置かれた状況を考えると、一時的な反応としてなら、受け入れなければならないものではあるでしょう。それも給料に含まれているのです、たぶん。


 でも、なかには「自分は弱者である」ということを振りかざし、モンスタークレーマーとなって、「訴えてやる!」「賠償しろ!」と迫ってくる人がいる。

 こちらに落ち度があるわけではないのに、教師や医者という「強者」とされる人を責めることによって、自分の立場を強くしようという人がいる。

 そして、そういう「弱者」の言い分を「正義」「弱者の味方」の名のもとに、手放しでサポートしようとする「マスメディア」や「人権派弁護士」もいる。

 僕は基本的にメディアが「権力の味方」をするよりは、「弱者の言い分に寄り添う」べきだとは思っているのです。

 しかしながら、「弱者とされる人々が主張することは、なんでも正しい」のならば、その人は、本当に「弱者」だと言えるのだろうか?

 埋もれやすい弱者の声を拾い、世の中に問うことは正しいのかもしれない。

 ただ、それを盲信して検証もせず、正しい自分に酔って、モンスタークレーマーの片棒を担ぐようなことは、許されないはずです。


 自殺をしてしまった高校生の母親(さおり(仮名))は、息子の家出をきっかけに「息子がいじめられている」「自殺したら学校のせいだ」と、執拗に担任や校長、バレー部の部員やその親たちを攻撃していきます。

 9月も半ばを過ぎると、さおりのターゲットは立花担任からバレー部へと明確に変わる。バレー部員、保護者、顧問らに的を絞り、電話やメール、ファックスを使って誹謗中傷といやがらせとしか思えないような行為を繰り返すようになったのだ。

 いじめの首謀者とされた山崎君の自宅には、連日のようにさおりから電話がかかってくるようになった。

「よくバレー続けてられるね。あなたの子供がいじめたから、うちの子は好きなバレーもできず、学校も行かれない。自殺も考えている」

「監督もぐるになって隠すんですね」

「あなたたちのことを訴えますからね。裁判であなたが負けるから。あなたの子供一人のために学校も運営していかれなくなる。あ~あ、みながかわいそう」

 ヒステリーじみた甲高い声で怒鳴り、「人殺し!」と何度も叫ぶ。こんな人間が世の中にいるのか。山崎君の母親は、受話器を取るたびに脅えてぽろぽろと泣いてしまった。言い返すとその百倍くらい返ってくるので、堪えるしかなかった。

 そこで、なるべく電話機のコードを抜いておいたが、山崎家は自営業のため、ずっとそのままにしておくわけにもいかない。再びコードを差し込むととたんに電話が鳴った。さおりだ。山崎君の母親は心労のあまり、多発性円形脱毛症になってしまった。

 山崎君は自身も気が滅入っていたが、母親が泣いているのを見て「おれのせいだ」とショックを受ける。

「ほんとうにいじめなんかやってない。でも、おれがいじめたことになってしまっている」

 山崎君は母親にそう言っていたが、そのうち、

「おれひとりが退部して今まで通りみんなが部活できるなら、バレー部のせいにならないならおれ、バレー部やめようかな」

 そんな弱音を吐くようになっていた。

 

 読んでいるだけで、胸が苦しくなります。

 この本に書かれている山崎君をはじめとする周囲の人々への取材では、山崎君は亡くなった高山裕太君といちばん仲が良い先輩で、一緒にふざけてみんなを笑わせていただけなのに。

 長男の裕太君に家事の多くを押しつけて疲れさせ、自分の不安定な感情をぶつけ、「学校を責めたい自分の都合のいいシナリオ」通りに動かそうとした母親と、子供の頃からのネグレクトで、母親の言いなりになるしかなかった裕太君。

 裕太君の口から、交流のある先輩として名前が挙がったばかりに、山崎君は「ターゲット」にされてしまったのです。

 「自分は悪くない。自分は被害者だ。悪いのは学校とバレー部だ」

 でも、裁判で明らかにされたさまざまな資料からは、学校や部活の友人たちが、一方的に母親から責められているにもかかわらず、母親に逆らうことができず、その攻撃の手伝いをさせられているという、板挟みになって苦しんでいる裕太君の姿が浮かんでくるのです。

 裕太君は学校に行きたがっていたのに、母親はそれを許されなかった。

 裕太君が、自らの意志で、一時的に母親から離れて暮らそうとしていたことも示されています。

 実は、県教委こども支援課や佐久児童相談所を中心に、関係各機関の緊密な連携のもと、数か月も前からある計画が進行していたのである。それは、児童福祉の観点から、裕太君を母親のさおりから話して保護する母子分離の計画だ。2006年9月29日に行われた関係者連絡会議の席上、すでに、このことが話し合われていたのである。

 教師も県教委も、さおりと裕太君の母子関係に危ういものを感じとっていた。

 裕太君と親しかったバレー部の1年生たちも、裕太君が母親から半ば養育を放棄されていることを知っていた。通学距離が長いのにもかかわらず、「おかあさんが(駅まで車で)送ってくれない」「お母さんが弁当を作ってくれない」「お母さん、やだ」裕太君がそうつぶやくのを部員たちは聞いていたのである。そのうえさおりは、裕太君に家事全般を押しつけていたのだ。

 こういうのは、男子高校生であれば、ありがちな親への反発、だと受け取られるのかもしれませんが、この事件での母親の行動をみると、息子のため、というよりは、自分が被害者であることをアピールするために、息子にプレッシャーをかけ、追い詰めていったようにみえるのです。

 こうした苦心の末、同年11月半ば頃から、さおりと裕太君は佐久児童相談所を訪れるようになり、時には単独で訪れる裕太君の本音を相談員は聞き取っていった。

 11月24日、丸山とバレー部部長の黒岩、生徒指導主事の尾野が佐久児童相談所を訪問した。その際、裕太君を担当している相談員は、裕太君から丸山に聞いてほしいこととして、以下のように伝えた。

「一時保護の期間を学校への出席扱いにできないか。母親にわからないように、上野監督と立花担任に連絡を取る方法はないか。手紙や電話、メールだと母親に知られてしまう」

 児童相談所は、裕太君の相談内容については守秘義務がある。しかし、漏れ伝わるこうした言葉などから、さおりの厳しい監視の下、裕太君が外部と自由に連絡を取る手段を奪われており、その母親から逃れるため、一時保護に前向きになっていったことが窺える。

 これらが事実であれば、もし学校や児童相談所側に反省すべき余地があるとすれば、もっと早く、この母子を一時的にでも引き離すことを決断すべきだったのではないか、とは思います。

 実の親子を引き離すというのはそんなに簡単なことではないし、後付けで責めるのが酷な話なのは間違いないのですけど。

 もし、それができていれば、こんな悲劇は起こらなかったかもしれません。

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