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“ロングステイ観光”の必要性

“ロングステイ(長期滞在型)観光”とは、あまり聞きなれない言葉かも知れません。今日は、それについて触れます。

政府は、訪日外国人客数を2020年の東京五輪イヤーに2000万人にする目標を掲げています。13年に約1000万人だった観光客数は、円安やビザの発給要件の緩和などで一気に増加し、14年には約1341万人、15年には約1974万人と2000万人に迫りました。「観光立国」に向けて、客数は順調に伸びているように見えます。

実際、政府の目標は、前倒しで達成される見込みですが、「観光立国」に向けた課題はたくさんあります。
例えば、訪日外国人の急増による、宿泊施設の不足、通訳の不足、空港の容量の不足、食事場所やハラルメニュー(イスラム経の禁忌に対応したメニュー)の整備などです。
さらにいえば、いかに観光客にロングステイしてもらうか、地方へ誘導するかなども、課題です。

昨年11月、長期滞在型・ロングステイ観光学会が立ち上げられました。国内外のロングステイの普及促進に、産官学で取り組むことを目的とします。
今月18日、その設立記念の基調講演・シンポジウムなどが開催されました。
基調講演は、運輸省出身で、08年に初代国土交通省観光庁長官を務め、現在東京工業大学特任教授、首都大学東京特任教授の本保芳明さんが行いました。

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※講演する本保芳明さん

本保さんの講演は、「なぜ今、観光イノベーションが必要なのか」と題し、データを次々に紹介するなどすこぶる興味深いものでした。

例えば、国内の旅行消費額の推移です。近年ではもっとも多かった06年に約30兆円だった旅行消費額は、震災のあった11年には8兆円減少し、約22兆円にまで下がりました。
「国内で8兆円の産業というと、農業とほぼ同じです。ですから、日本から農業がなくなるくらいの減少が、観光で起きたということになるわけです」と、本保さんは話しました。

旅行消費額が下がっている原因は、日本人の観光旅行が減っていることなんですね。
現在、外国人観光客は増加傾向ですが、国内旅行者や消費額は減少しています。
昨年の正確な数字はまだ発表されていませんが、一昨年は、国内の旅行消費額が約18.5兆円、訪日外国人客の旅行消費額が約2兆円で、単純に合算すると約20.5兆円に過ぎません。
訪日外国人客数の増加ばかりに目がいきがちですが、観光産業全体を見ると、市場規模は縮小傾向です。これでは、「観光立国」は成り立ちません。

国内旅行者の減少については、本保さんは、教育費の負担の増加、老老介護などで老後の旅行にいきにくい、ケータイゲームなど、旅行に競合する娯楽が増えたことなどに加え、この20数年間に日本人の可処分所得はほぼ横ばいで、日本人が豊かになっていない、すなわち旅行の原資が増えていないことを理由としてあげました。

だとすれば、根は深い。これを回復させるのは、容易ではありませんわね。

外国人観光客の呼び込みはもちろん、国内旅行の需要も喚起する必要があります。
そのなかで、ロングステイ型観光が普及すれば、国内外の旅行者の旅行消費額の増加、さらには旅行客の地方への誘導につながると考えられるというわけです。

長期滞在型・ロングステイ観光学会によれば、ロングステイの普及に向けて、医療・介護・教育・安全・滞在施設・保険・資金・語学・地域コミュニティとの共生・雇用機会・休暇制度など、産官学で条件整備に取り組むという話です。

本保さんは、ロングステイ観光を普及させた成功例として、北海道ニセコ町、長野県白馬村などの例をあげました。
私は、昨年3月から1年間、月刊『潮』で「地域資本主義」と題して連載を行い、日本各地の地方のさまざまな取り組みを取材しました。連載は観光に限ったものではありませんでしたが、岐阜県高山市をはじめ、観光に力を入れ、独自の戦略で成功させている地域はたくさんあると実感しました。

ロングステイを普及させ、また、地方に観光客を誘導するためには、それぞれの地域が独自色を出すことが大切なのは当然です。しかし、同時に、リーダーシップや、地域との共生、住民の自主性、官民の連携など、取り組みに共通するキーワードも多くあげられます。
それらを互いに学び合い、地域が連携、切磋琢磨して観光を盛り上げていくことが、「観光立国」に向けた第一歩になるのではないでしょうかね。

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