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国際金融経済分析会合と消費税増税—スティグリッツ教授の意図するところ

 今月に入って開催されている「国際金融経済分析会合」、消費税増税延期との関連で注目さている。多くの報道では、安倍総理が消費税率の10%への引上げの延期を判断するに当たっての判断材料を得るためとされていることが多いようであるが、その開催の趣旨は、「「国際金融経済分析会合」の開催について(平成28年3月1日内閣官房)」によれば次のとおりとされている。

「本年5月に開催される G7サミットの議長国として、現下の世界的な経済状況に適切に 対応するため、世界の経済・金融情勢について、内外の有識者から順次見解を聴取し、意 見交換を行う「国際金融経済分析会合」(以下「会合」という。)を開催する。」

 要するに5月の伊勢志摩サミットに向けた準備を内外の専門家(金融、経済、エネルギー)の意見を聞きつつ行うということ。したがって、建前上は消費税増税の延期の判断材用集めではないとうことなのだが、消費税と解散総選挙の絡みでどうもそちらに関心がいってしまっているようだ。

 実際、これまでに、開催された会合では、消費税の増税の可否や当否に焦点を当てた専門家からの説明は、公表されている資料を見る限り行われていない。

 そうした中で、3月16日の第1回会合で行われた、米国コロンビア大学のジェセフ・スティグリッツ教授の説明に注目が集まっている。スティグリッツ教授といえば、情報の非対称性の理論への貢献によりノーベル経済学賞を受賞している。情報の非対称性や不完全情報の経済学が同教授の関心の中心であるが、我が国では、それよりも『世界の99%を貧困にする経済』や『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』といった著作でご存知の方が多いのではないだろうか。著作名からも分かるように、グローバリズムの批判者であり、ウォール街占拠運動を支持、実際に運動に参加している。

 そのスティグリッツ教授、報道によると平成29年4月の消費税率の10%への引上げを延期するよう提言したとされている。同会合は非公開であり、実際の発言内容を直接的に知ることは困難であるが、同教授が会合での説明において用いた資料を読むと、消費税増税延期に直接的に触れた記述は見られない。

 スティグリッツ教授の説明資料には、緊縮財政(歳出削減と増税)をやめるべきこと、サプライサイドに対して取られてきた措置は失敗であり、金融分野の規制緩和、法人税率の引下げ、行き過ぎた民営化等はやめるべきあること、TPPは悪い貿易協定(bad trade agreement)であり米国議会においても批准はされないであろうこと、サプライサイドへの措置は失業を増やし、成長には寄与しないといったことが記載されている。つまり、端的に言えば、安倍政権の主要政策への警鐘、否定である。

 その一方で、例えば、教育や若者の健康といった分野への歳出、すなわち人への投資(investment in people)、そして、インフラや科学技術への投資を増やすべきといったことを提言し、政策の転換を促している。

 スティグリッツ教授は、精力的に開発途上国を中心に世界を飛び回り、政府に対して助言等を行っており、フライング・エコノミストとも呼ばれているようだ。今回の会合への出席及び説明もその文脈で考えれば、あからさまな否定というより、全体としてはあくまでも進言ということであるが、世界経済の実情に基づき、公式の場で、ここまで体系的かつ真正面から安倍政権の主要政策に警鐘を鳴らし、採るべき施策の方向性を示すというのは初めてのことではないのだろうか?(野党議員諸氏よ、いかがだろうか?)

 その上で、消費税増税延期の話は、スティグリッツ教授の説明から導き出される解の一つであると考えることはできるが、世界経済の潮流や各国での経済政策の失敗といったことを踏まえ、現政権の政策の大幅な見直しという大きなコンテクストで考える必要があるのであって、小手先の増税延期だけを切り離することができるものでもなければ、まして衆議院の解散総選挙と結びつけて政局的に論じられるものでもない。

 今後の国会論戦の中で、消費税問題に矮小化されない経済政策の転換に関する議論が当然行われる必要があるが、さて、与党は状況の変換に柔軟に対応した政策転換の議論、野党は単なる批判のための批判や足を引っ張ることが目的の議論ではなく、建設的な提案型の議論、そうした議論をそれぞれ真摯に行うことができるだろうか?解散総選挙、衆参ダブル選を念頭に置くまでもなく、与野党ともにその信念や能力が試される正念場ということであろう。

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