- 2016年03月22日 13:00
岩盤規制をぶち壊す「農業×IT」の方程式
2/3「農家の息子」では合コンにも出られない
【弘兼】日本の農業の競争力を高めるためには、もっと民間企業の力を活用するべきではないでしょうか。農協が決して強いとはいえない営業、宣伝、ブランディングといった分野について、民間企業には様々なノウハウの蓄積があります。ところが、そうした民間企業の農業進出には、「岩盤規制」の壁がありました。
【金丸】たとえば農地法の問題がありますね。これまで農業生産法人には、企業は4分の1を超える出資ができませんでした。今回の改革では、出資比率を2分の1未満まで高められるようにしました。
【弘兼】過半数まであと少しですね。
【金丸】新規参入をするなら、2%ぐらいの人を説得するぐらいの努力はすべきです。ただ、この枠組みも見直せる時期が来るかもしれません。
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農業従事者は50年前に比べて8割減
【弘兼】現在、農業従事者の平均年齢は66歳。高齢化の原因は新規の就農が難しいからだと思います。いきなり農地を取得して、自営で農業に参入するのは難しい。一方で、正社員を募集している農業生産法人は少ない。企業の農業参入が活発化し、大規模な生産法人が増えれば、ネクタイをしないサラリーマンのような形で、農業に携われる環境が整うでしょう。収入の安定した職場がつくれれば、新規の就農者が増えて、平均年齢も下がるはずです。
【金丸】若い就農者が家族経営の農家の仕事を手伝っているようなケースでは、たとえば「合コン」に参加したとき、女性から「お仕事は何をされているのですか」と聞かれても、○○家の手伝いだと普通の会社員のように名刺も渡せません。これから農家は法人化、大規模化を進めていく必要があります。そうすれば、たとえば「○○農業法人の生産部長です」と名刺を渡せます。
【弘兼】そのためには農地を集約しやすい仕組みに整える必要がありますね。いまは農地の売買が難しいため、耕作放棄地も少なくありません。
【金丸】ようやく国が「農地中間管理機構」という仕組みをつくりました。いわゆる「農地バンク」です。耕作放棄地などを借り受け、担い手にまとまりのある形で農地を貸し付けます。ただ、具体的な業務は地方自治体に任されているので、地域によって濃淡があります。ぜひとも機能するように取り組んでもらいたいです。
「やりたい若者」に対し「やめとけ」という現状
【弘兼】農家には「先祖代々の土地」という思い入れもあり、なかなか借り受けが進まないとも聞きます。
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すでに組合員の過半数は農家ではない
【金丸】私が農業ワーキング・グループの座長になるということで、社内に知恵を求めようと実家で農業を営んでいる社員に話を聞きました。結構いるんです。「農業を継いでくれとはいわれなかったのか」と聞くと、「親には『農業は自分の代でいい』といわれた」と。JAバンクの教育ローンでいい大学に通い、ITコンサルタントになる。そのほうが収入は安定しているわけです。
【弘兼】家族のなかにすら後継者がいないのであれば、ほかの地域から来ることは望めませんね。
【金丸】規制改革会議に若手の就農者を招いたところ、こんな話を聞きました。市役所や農協に相談しに行ったところ、「農地がないからやめたほうがいい」「有機栽培は前例がないから無理です」と冷たくあしらわれたそうです。やる気のある就農者や有機栽培も旧態依然とした閉鎖的なこの扱いでは弾かれてしまう。
【弘兼】わざわざ「やりたい」といっているのに、冷たいわけですね。
【金丸】ほかの業界では志望者は手厚く扱われます。たとえば私の会社に「ITスキルはないけれど、やってみたい」という人が来れば、「やる気があれば大丈夫」という話になる。
【弘兼】どんな業種でも、新人教育のプログラムがあります。しかし、若者やヨソ者を受け入れる発想が乏しいわけですね。
【金丸】規制改革会議での議論に参加して、農業関係者の多くが過去にこだわり未来を見ていないことに危機感を持ちました。グラフを見れば右肩下がりのダウントレンドは一目瞭然です。飛行機であれば、ここで操縦桿をグッと上げなければ地面にぶつかってしまう。過去の話、いまの利権にこだわっている限り、未来は描けません。未来の若者に未来の農業を託すために、いま何をすべきか。未来の視点を議論の軸にしなければいけません。
【弘兼】これからの農協の役割はどのようなものになりますか。私が見るところ、地域の農業の活性化に役立っている農協もあるようです。
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「農協」の数は大幅に減少している
【金丸】そうですね。全国に約700ある地域農協には、営業やマーケティングに優れた組織もあります。規制改革会議にも先進的な農協をいくつかお招きしました。
【弘兼】JA全中のような全国組織と地域農協は分けて考えなければいけませんね。
【金丸】地域農協に頼らないで、販路を独自に開拓するという農家も出てきています。商品に競争力があれば、インターネットを使って全国に販売することもできますから。
【弘兼】株式会社の農業参入も少しずつですが増えつつあります。今後はリスクを取って攻めを担う大規模法人と、独自の魅力を高めていく個人農家が、未来の農業を牽引していきそうですね。
【金丸】農業に限らず、個人でビジネスをするというのは、限られた匠だけができる贅沢なビジネスモデルです。弘兼先生が漫画家として大活躍されているように、卓越したブランドや特別なスキルを磨く必要があるでしょうね。
【弘兼】かつて日本の製造業は徹底した品質管理で国際競争力を得ました。農業でもIT技術を使えば、生産性や品質を高めることができます。農業とITの組み合わせには、近年、注目が集まっていますね。
【金丸】そうですね。私のような理系の人間にとっては、農業は興味深い分野です。企業経営は四則演算ですから、数学的にはそれほど魅力的ではありません。一方、農業で必要になるのは高等数学です。温度、湿度、風速、日照時間などを組み合わせながら、日々の変化に対応する。非線形の分析になりますから、ハイテク屋としては非常に面白い対象です。
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