- 2016年03月22日 13:00
岩盤規制をぶち壊す「農業×IT」の方程式
1/3これから農協制度が抜本的に変わる。2015年2月、政府・与党と全国農業協同組合中央会(JA全中)は、農協改革をめぐる協議で合意を果たした。全中の監査・指導権は廃止され、全中は2019年9月末までに一般社団法人に転換する予定だ。地域農協などから集めていた約300億円の「賦課金(上納金)」も、強制徴収はできなくなる。1954年以来、全中を頂点としてきた農協制度は約60年ぶりに見直される。 農協改革は「岩盤規制」の代表格だった。安倍晋三首相も施政方針演説で「農協改革を断行する」と成果を強調した。この改革案を取りまとめたのが、政府の「規制改革会議」で農業ワーキング・グループの座長を務めた金丸恭文氏だ。金丸氏はIT企業・フューチャーアーキテクトの創業者であり、現役の経営者。ITや経営の専門家が、なぜ農業の改革に取り組んだのか。そこには異分野ならではの着想があった――。
「聖域」分野の座長にいきなり指名された
【弘兼】金丸さんが農業改革に関わるようになったきっかけは何ですか。
画像を見るフューチャーアーキテクト会長 金丸恭文(かねまる・やすふみ)
1954年、大阪府生まれ。78年神戸大学工学部卒業。89年フューチャーシステムコンサルティング(現フューチャーアーキテクト)を創業。2004年度から09年度まで経済同友会副代表幹事を務め、14年度から再任。2013年1月から内閣府規制改革会議委員。
【金丸】きっかけは政府の規制改革会議です。2012年12月に第2次安倍内閣が発足して、翌年1月に規制改革会議が3年ぶりに復活しました。私はその委員に任命されたのですが、具体的にどの分野を受け持つのかはわからなかったのです。
【弘兼】規制改革会議には金丸さんの得意分野である「創業・IT等ワーキング・グループ」もありますね。
【金丸】はい。私が力を発揮できるとすれば、この分野だろうなと勝手に考えていました。ところが電話があって「農業分野の座長をお願いしたい。議長も、大臣も、金丸さんに引き受けてほしいといっています」と。
【弘兼】それでは断れませんね(笑)。農業は新設された分野ですが、これまでは対象にすらならない、いわば「聖域」だった印象があります。どんな覚悟で引き受けたのですか。
【金丸】第2次安倍内閣が発足してから半年が経ち、「第3の矢」としての具体的な成長戦略が求められるタイミングで、農業ははじめて打ち出されたテーマでした。安倍首相も本気なのだと思いました。日本の将来を考えるうえでも、絶対に改革が必要なテーマであることは明確です。
ただし、農業は規制改革会議の中で、先輩方が何十年と取り組んでこられても、一歩も前進していない分野であると聞いていました。「農林族」と呼ばれる議員の力が強く、歴代の首相も手を出せないようなアンタッチャブルな領域でした。
【弘兼】どこから手をつけたんですか。
【金丸】規制改革会議の役割とは、法律をいまの時代に合った形に変えることです。その対象になる主要な法律は農業委員会法、農地法、そして農協法の3つです。この3つの法律を研究するところから始めました。
ITで「武装」する小売、戦略すらないJA全中
【弘兼】かつて農家には「わたし、作る人」、農協には「わたし、売る人」という役割分担がありました。農家が農作物の生産に専念できるように、農協は農業資材や機械を提供し、収穫した農作物を販売ルートに乗せる仕組みです。ところが、次第にこの関係がおかしくなってしまった。
1960年に1175万人いた基幹的農業従事者は、2010年には8割減となる205万人にまで減っています。さらに現在では農協の組合員の過半数は、農業に従事していない准組合員です。農家の数は減っているのに、農協という組織は大きいままだといえます。
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JA全中を頂点とするピラミッド構造は変わる
【金丸】ビジネスの観点でとらえれば、農家と農協は、同じ「農業」に取り組むひとつのチームのはずです。本来、同じチームであれば、プロフィット(利益)、コスト(費用)、リスク(危険性)はシェアすべきです。
【弘兼】農家はリスクを負って農業に参画しているわけですね。
【金丸】そうです。しかし現在の仕組みでは、農協や全中は一切リスクを負っていません。悪天候で収穫が乏しくなれば、農家は手取りが減るわけですが、農協職員の給与は減りません。
たとえば農業全体で発生した利益が農業者も含むチームで分配されるのであれば、農協職員の給与も利益に応じて変動することとなり、農協は農家に代わって農作物を高い価格で販売できるような強い組織になる必然性が生じるはずです。
【弘兼】いまの農協は、農作物を買い取るリスクを負わず、販売の手数料収入を得るだけですから脆弱です。
【金丸】その際、農協が相対するのは、スーパーやコンビニといった流通小売業です。彼らは日々、熾烈な競争を繰り広げています。特に取り組みが進んでいるのがITを活用したデータ分析です。
80年代前半からITでの「武装」が始まっています。顧客の年代や性別、来店頻度、好まれる商品の組み合わせから価格帯まで、精緻なマーケティングを続けてきています。そうしたデータで「武装」した企業と交渉しなければいけないのです。農協が農家の利益代表であるなら、彼らを上回るような情報管理が必要です。しかしたとえば農協組織の頂点にあるJA全中は、そうしたIT戦略をまったく考えてこなかった。
【弘兼】金丸さんは「ビッグデータ」の第一人者ですね。フューチャーアーキテクトを創業される前には、セブン-イレブンの「POSシステム」の開発を手がけ、流通小売業のIT化を一気に進めました。
画像を見る弘兼「農業に挑む企業家に必要なことは」 金丸「やはり『つくることが好き』という人だと思います。また消費者から『おいしかった』『次はこうしてほしい』というフィードバックを得ることも重要でしょう」
【金丸】私のキャリアのスタートは、コンピュータの開発者です。システム会社で「16ビット」のノートパソコンを開発していたのですが、当時は用途が限定的で不満でした。ITはもっと事業にインパクトを与えられるはずだ。そう考えてパソコンをコンビニで使ってもらおうとセブン-イレブンに提案したんです。
【弘兼】反応はどうでしたか。
【金丸】最初はけんもほろろに断られました。1年半ほど、朝から夕方まで通い続けて、ようやく理解してもらえました。決断を下すと、行動は早かったですね。半年の開発期間を経て、全国にあった約2600店のすべてにシステムが導入されました。
【弘兼】コンビニはITでの「武装」が最も進んでいる業種ですね。
【金丸】前年比の売り上げが伸び続けている唯一の流通小売業です。売れ筋を数時間単位で分析して、商品をすぐに入れ替えていく。朝と夜では品揃えが異なる。そうした店づくりができるようになったのは、ITの貢献ではないかと思っています。
これが1985年の話です。今から30年前。農業界は私から見ると、それ以前の状態です。ネットワークには繋がっておらず、それぞれの農協の横の繋がりすらありません。情報を共有できていないのです。
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