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安田さんの救出に全力を尽くせ 解放交渉に苦慮する安倍政権 - 佐々木伸  

佐々木伸 (星槎大学客員教授)

内戦の取材でシリア入りし安否が心配されていたフリー・ジャーナリスト安田純平さん(42)と思われる人物が家族や日本へのメッセージを英語で読み上げる動画がフェイスブック上で公開された。安田さんを拘束しているのは国際テロ組織アルカイダ系の「ヌスラ戦線」と見られ、日本政府に身代金を要求しているという。

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内戦が続くシリア・ダマスカスで物乞いをする親子。この国のどこかに安田さんは捕えられているのだろうか

米国への配慮は無用だ

 さまざまな情報を総合すると、フェイスブックで安田さんの姿を公開したのは、シリア人の反体制派の活動家。「ヌスラ戦線」の代理人から3月16日に動画を受け取ったとされ、同組織が身代金を要求して日本政府と交渉しようとしているが、日本政府は応じていないという。実際に身代金交渉が行われているかどうかは全く不明。

 この点について、菅官房長官は17日の記者会見で、さまざまな情報があることに言及しながら「事案の性質上、答えるのは差し控えたい」と否定も確認もしない慎重な姿勢を示した。安倍首相は情報収集や映像の分析をするよう指示したが、外務省を中心に現地に対策本部を立ち上げるなど対応を急いでいると見られている。

 しかし政府は、昨年1月から2月の過激派組織「イスラム国」(IS)による後藤健二さんらの日本人人質事件でも繰り返したように、「テロリストの要求には屈しない」ことを基本方針として公約しており、映像が公開されて安田さんの拘束が国際的に認知された現状では、身代金を支払っての解放交渉に踏み切るのは極めて困難だろう。

米国は犯人側との交渉容認に

 身代金交渉に応じることは、新たな人質を生むだけという国際的な論理だが、この方針を声高に主張していたオバマ米政権は昨年6月、人質政策の大転換を発表。家族が人質解放のために身代金を支払うことを初めて容認し、政府としても家族支援とともに、犯人側と接触、交渉することを承認した。

 オバマ大統領は、テロリストと「交渉する」ことは「譲歩する」ことを意味しないとし、政府が犯人側と直接交渉することもあり得ることを明らかにしている。日本政府は後藤さんらの事件では、米国からISの要求に応じないよう圧力を受けた経緯がある。

 しかし米国が自ら、人質政策を転換した現状の中で、日本政府が米国にことのほか配慮する必要はない。さまざまなルートを使って安田さんの救出に全力を尽くすべきだ。1999年の中央アジア・キリギスの日本人人質事件の際には、3億円の身代金を払って人質を解放させた歴史もある。

錯そうする情報

 日本政府内部に「自己責任論」が根強くあることは承知しているが、安田さんのようなジャーナリストが現地に入って伝えてくる情報には価値がある。自ら進んで危険地帯に入ったという「自己責任論」を展開する前に、政府には邦人の安全を守る責任がある。

 安田さんは昨年6月、取材のためトルコ南部からシリア北西部に越境し、帰国を予定していた7月中旬を過ぎても戻らず、行方不明となっていた。米紙ニューヨーク・タイムズは安田さんやスペイン人ジャーナリストらが「ヌスラ戦線」ないしは他の過激派組織に拘束、誘拐されたと伝えていた。

 昨年12月にはパリに本部を置くジャーナリスト組織「国境なき記者団」は安田さんがシリアで拘束され、身代金を要求されていることをホームページで発表した。しかし後日になって情報源が信頼をおけず、誤りだったと発表を否定する騒ぎになっていた。

ISでないことに一筋の光明

 今回、安田さんを拘束しているのが、後藤さんらが人質に取られたISではなく「ヌスラ戦線」であることにまだ希望がある。「ヌスラ戦線」はレバノン人らを誘拐するなどしているが、ISのように人質を無残に殺害するようなことはこれまで伝えられていない。ここに一筋の光明がある。

 「ヌスラ戦線」とはどんな組織なのか。2012年に設立されたアルカイダのシリア分派組織だ。当初はISの関連組織という位置付けだったが、ISが吸収しようとしたことから対立。アルカイダの指導者アイマン・ザワヒリが2014年、ISを破門したのを機会にISとは完全に袂を分かち、それ以降、両組織は抗争状態にある。

 現在の指導者はファテフ・ムハンマド・ゴラニ。勢力は6000人から1万人。シリア内戦では、アサド政権と敵対する反体制派の連合組織「アラブ遠征軍」の一翼として加わり、昨年から続く北部アレッポの激戦では、反体制勢力の最強の組織として力を発揮した。内戦に軍事介入したロシア軍の標的の1つとなってきた。

 しかし「ヌスラ戦線」は米国に対して憎悪を燃やしており、米国肝いりのシリア人部隊がシリアに投入された昨年の9月、同部隊を攻撃して壊滅状態に追い込んだ。この攻撃もあって米国の5億ドルもつぎ込んだシリア人部隊創設計画は破綻することになった。

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