- 2016年03月18日 12:00
社内騒然! ホンダは「“お友達”役員人事」で復活できるのか? - 八郷隆弘・ホンダ社長「2年目の試練」
八郷社長が気心の知れた人材を登用した!?
最大事業である四輪車部門の利益率が赤字すれすれの2%台で推移するなど、日本の自動車業界の中で一人負けの様相を呈しているホンダは2月23日、大規模な役員人事を発表した。昨年6月に伊東孝紳氏からバトンタッチされ、八郷隆弘氏が8代目社長に就任。それから1年での大幅な“内閣改造”となった。
画像を見るホンダ社長 八郷隆弘氏
今回の人事の特徴で目立つ第1のポイントは、年齢的な若返りだ。若返りについては日本自動車工業会会長を務める池史彦会長、伊東政権時代から決算発表のスポークスマン役を担ってきた副社長の岩村哲夫氏、本田技術研究所社長の福尾幸一氏、国内営業を束ねてきた専務執行役員の峯川尚氏、社外取締役の畔柳信雄・元三菱東京UFJ銀行頭取など、60歳超のボードメンバーの大半が退任した。ホンダはかつて“若さのホンダ”を売りにしていたことがあったが、企業規模が大きくなるにしたがって高齢化が進んでいた。今回の人事である程度若返りを果たすことができたと言える。
もう1点はアジア閥の人材登用だろう。岩村氏に代わって副社長に就任する倉石誠司氏、ホンダ生え抜き人材としては初の女性執行役員となる鈴木麻子氏は中国、鈴木氏と同じく新任執行役員となる井上勝史氏はアジア畑。また、アメリカの束ね役となる神子柴寿昭氏も中国だ。
若返りとアジアシフトということで一見、芯が通っているように思える今回の人事。果たしてホンダは新体制で難局を乗り越えることができるのだろうか。
ホンダにとって今後、中国・アジアが今まで以上に重要なセクターになることは事実だ。八郷社長は新体制発表の会見で、伊東前社長が敷いた世界六極体制をさらに推進すると語ったが、その一角になるはずであった欧州ビジネスは今や、マツダ、スズキ、三菱自動車に負けるという有り様。従来はサブ的な扱いであった中近東・アフリカとくっつけて何とか六極と言い張っているものの、実質的には五極体制だ。欧州ビジネスでの決定的敗北を取り戻すには、中国とアジア大洋州での伸びが必要不可欠なのだ。
それ以上に重要なのは、ハイブリッドシステムやタカタ製エアバッグのリコールをはじめとする品質問題、ヒット車種の不在で意気消沈する社内を鼓舞するのに、新体制がどれだけ良い役割を果たせるか、だ。
「今回の役員人事について、ホンダのアジアシフトと評する向きもありますが、本当にそういう覚悟で行ったものとは思えない。今回の中国、アジア閥人事は、そこを重要視するというのではなく、執行役員として中国事業に関わってきた八郷さんが、気心の知れた人材を周りに置いただけなのでは」
ホンダ幹部のひとりはこう語る。
「本当に過去のホンダと決別し、改革を断行するのであれば、ホンダを窮地に追い込んだ伊東さんを取締役から外してただの相談役にするくらいのことをやって、その決意を内外に示してもいいくらいでしたが、それはやらない。登用されたのは八郷さんとの絡みが深い人物ばかり。むしろしがらみを断つような改革は望めないということをハッキリさせてしまったようなもの」
権限委譲は意志決定の迅速化と業務の効率化
社長就任以来、チームホンダを合言葉に社内の結束を呼びかけた八郷氏。しかし、その思いとは裏腹に、社内の厭戦気分は悪化するばかりである。役員人事発表と前後して、ホンダ社内に、社員を対象とするクルマの特別販売のチラシが回った。ステーションワゴンの「ジェイド」が33%引き、軽自動車の「N BOXスラッシュ」が30%引きという大盤振る舞いの数字が踊っていたという。
「ジェイドは安全装備が充実したトップグレードで292万円ですが。33%引きだと200万円を切る値段で買える。N BOXスラッシュの3割引きもすごい。軽自動車は利幅が薄く、従販(社員販売)でも普通は1割引きです。それだけ値引きしているのに、タイトルは“ご協力のお願い”。こんなの初めて見ましたよ」(ホンダ関係者)
伊東政権時代、ホンダは世界販売を5年で2倍に引き上げるという強気な拡大戦略を打ち出していた。ホンダの開発力にその計画はあまりにも過大で、新商品不足を補うために売れる見込みの薄いモデルを日本に逐次投入。その結果、販売台数は伸びなかったばかりでなく、不人気モデルを抱えてイメージ的にもコスト的にも四苦八苦するという事態を招いた。ホンダ車を普通に買っている顧客が聞いたら激怒しそうな3割引きの社内販売をせざるを得なくなったのは、そのなれの果てと言える。
その沈滞ムードを変える最大の特効薬は、商品の売れ行きが劇的に向上して勢いを取り戻すことなのだが、クルマのように開発期間が長くかかる商品の場合、すぐに結果を出すことは困難だ。業績が上向かない中で社内のモチベーションを上げていくには、企業統治の悪いところを直し、雰囲気を明るくしていくしかない。
今回の役員人事で役員の平均年齢は下がり、形のうえでは若さへと向かっていると言える。ホンダにとって大きな課題となっているのは、役員クラスの人材の能力もさることながら、その下のレイヤー、すなわち部課長クラスに大きな権限が与えられすぎており、それゆえに“人治主義”がはびこっているためだという声が社内から少なからず漏れ聞こえてきている。
「ホンダは経営危機に陥ったり、その後急に発展したりということを繰り返しながらここまでやってきた。その結果、社員の年齢分布がきわめてアンバランスで、管理職を務めるような年次の人材が余ってしまった。本田技術研究所など、研究所だけでそれを吸収できず、余った管理職人材を他部門に配置転換したことがあるのですが、まったく門外漢の部署にやられてもいい仕事ができるわけがない。にもかかわらず、管理職意識は非常に強いですから、自分の思い込みであれこれと余計なことをする。その結果、パワハラで士気が落ちたりといったことがあちこちで起こっているんです」(別のホンダ関係者)
もともとホンダや本田技術研究所で中間管理職の権限が拡大されたのは、意思決定の迅速化や業務の効率化のためだった。今ではその弊害のほうが強く出ているケースが増えている。国内営業部門ではクルマが売れない責任を部下になすりつけたりするケースすら散見されるようだ。
薄利多売地獄だが販売台数は減っていない
チームホンダをスローガンとする八郷社長だが、そのような実情が解消されないまま結束を呼びかけても効果が上がりにくいことは想像に難くない。
人事に関する社長会見の場でも、メディアからは近年では珍しいくらい厳しい質問が飛んだ。
「人件費を増やさないまま定年を65歳まで引き上げるということは、働き方を根本的に変えるということではないのか」
「本田技術研究所について、技術者が自由にモノづくり、技術開発ができるような場にするということだが、研究開発部門を別会社にしたのはもともとそれが目的だったのではないのか」
「(2018年に北米シビックを日本に導入するという計画について)シビックは日本市場に合わなくなったから販売をやめた。それを再導入するということは、市場環境に何か変化があったのか、それともとりあえず手元にモデルがあるから売ってみようということか」
「チームホンダを強調しているが、それは危機感があるからか」
質疑は役員人事よりもホンダの現状をどう考え、どう変えていくつもりなのかということに集中した。社長以下、新体制の取締役や執行役員に求められるのは、自分をごまかさずに現実を直視し、経営陣の保身やしがらみにとらわれることなく必要な対策を強力に推進していくことだ。それができなければ、新体制の若さも何の役にも立たないし、どんな人材をボードメンバーにあてようがホンダは変わらない。
ホンダにとって救いなのは、薄利多売地獄に陥っているとはいえ、グローバルでみれば販売台数そのものは減っておらず、売上が立っていることだ。安いものを作ることこそがホンダの伝統という思い込みを捨て、先進国企業らしいクルマづくりを推進して付加価値を上げることができさえすれば、いつでも復活できるのだ。幾多の困難が伴うであろうその道を歩むことができるかどうか、わずか1年で大掛かりな人事に踏み切った第2次八郷政権の真価が問われる。- PRESIDENT Online
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