- 2016年03月18日 09:56
暴力沙汰でますます過熱! “トランプ教”はもう止められない - 土方細秩子(ジャーナリスト)
「外人恐怖症のファシスト」とドナルド・トランプ氏(69)を名付けたのは、ハリウッド俳優ジョージ・クルーニー。米国内ではトランプ氏をヒトラーに例える批判が噴出しており、共和党首脳部も「ストップ・ザ・トランプ」と銘打った作戦を展開中だ。
しかし、トランプ氏の勢いを止めることはもはや不可能だ。3月15日、米大統領予備選は「第二のスーパーチューズデー」を迎えた。そこでなんと、対立候補のマルコ・ルビオ氏の地元、フロリダ州でトランプ氏がルビオ氏を破った。ここでルビオ氏は戦線離脱。ついに一時期14人もいた共和党候補は、トランプ、テッド・クルーズ、オハイオ州知事ジョン・ケーシックの3人に絞り込まれた。ケーシック氏はかろうじて地元オハイオで勝利、しかしこれまでトランプ氏を2位の立場で追ってきたクルーズ氏は全敗の結果だった。
ルビオ氏は選挙前の演説で「フロリダを制する者が共和党の指名を勝ち取る」と、地元での勝利を確信していた。しかし思わぬ敗退に、トランプ氏のツイッター「サンキュー、マルコ。その通りだ」が追い打ちをかけた。
ラテン系移民からも支持
フロリダでの勝利は、トランプ氏にとって大きな意味を持つ。メキシコ移民に対する差別的発言などで、ラテン系から嫌われている、と思われていたトランプ氏。ところがラテン系移民の割合が多いフロリダでも支持を得た、つまりトランプ氏には周囲が考えていたよりも弱点が少ない。
さらに重要なのは、トランプ氏がイリノイ州でも勝利を収めたことだ。3月11日、トランプ氏はシカゴのイリノイ州立大学で集会を開こうとしていた。そこへトランプ氏に抗議するデモ隊が押しかけ、支持者との間で暴力騒ぎとなり、集会は「危険すぎる」とキャンセルされた。
この事件についてトランプ氏は「私の言論の自由が奪われた」などと発言。各界から「デモ隊にはトランプ氏に抗議する言論の自由はないのか」などの反発が起きている。さらにデモ隊を殴った支持者に対し「訴訟費用などは私が持とうと思う」とまで発言。暴力を煽っているのはトランプ氏自身、との批判がある。
そのイリノイですら勝利を収めたトランプ氏。普通の候補者ならば、自らの集会で暴力事件が起きれば「遺憾に思う」ものだし、暴力をふるった支持者に対し「理性的な対応を」と呼びかけるはずだ。ところがトランプ氏は「古き良き時代ならば、この程度では済まなかった。集会の邪魔をした人間は今回のことで次はもっとひどい目にあわされると学んだだろう」と言い抜ける。トランプ氏の厚顔無恥さを「テフロン・ドン」と揶揄する声があるが、まさにどんな批判も跳ね返すテフロン加工っぷりだ。
暴力沙汰でヒートアップするトランプ熱
イリノイでの騒ぎはあわや乱闘、というところまで発展したため世界中でニュースとなったが、トランプ集会での暴力沙汰はこれまでにも何度も起きている。サウス・カロライナではトランプ氏を「白人至上主義」と非難した黒人男性が支持者から殴られ流血沙汰になった。
しかしこうした騒ぎがますます支持者をヒートアップさせ、熱狂的な「トランプ教」が広まっているようにすら感じられる。
実はトランプ・キャンペーンのボランティアに参加する人は、ある誓約書に署名させられるのだという。その誓約書には「生涯にわたりトランプ個人、トランプの家族などを決して悪く言わない」と明記されている。つまりボランティアと言えど「絶対服従」が強いられる。まさにファシストだ。
15日の結果、ルビオ氏が脱落したことは、ストップ・ザ・トランプ運動に大きな打撃を与えるものとなった。現在運動の急先鋒である、元共和党候補ミット・ロムニー氏は、現在の候補者を最後まで競わせることで票を分け、トランプ氏が指名獲得に必要な過半数を取れなくする、という作戦を練っていた。ところが対立候補が2人となったことで、作戦は危機に陥っている。
共和党にとって「最後の希望」だったのは、元ニューヨーク市長、マイケル・ブルームバーグ氏の参戦だった。トランプ氏以上の億万長者で政治経験も豊富、人望もあるブルームバーグ氏ならばトランプ氏を破れる、との期待があったが、当のブルームバーグ氏は「立候補せず」の決断。理由は「出馬しようと思ったのは、両極端であるトランプとサンダースを止めたかったため。民主党候補がヒラリー・クリントンに決まりそうな以上、自分の出番はない」というものだった。つまりヒラリー氏がトランプ氏に勝つ、という希望的観測なのだが、現在のトランプ氏の勢いを見るとそれも黄信号が灯る。
共和党支持者のトランプ支持率は50%超えに
脱落した共和党候補の中でも、ニュージャージー州知事クリス・クリスティ氏、元脳外科医のベン・カーソン氏は「トランプ支持」を表明した。「勝ち馬に乗りたい」という意識が、今後さらに広がる可能性がある。実際、15日時点で初めて共和党支持者の中でのトランプ支持が50%を超えた。
次々と問題発言を繰り返しながら、聴衆を熱狂させ人気を上げていくトランプ氏。「現代のヒトラー」の例えは決して大袈裟ではなくなった。既存の政治に愛想をつかしている、社会、政治に怒りを感じている、とはいえまさに理性を失った感のある米国人のトランプ熱。今年の大統領選挙は色々な意味で歴史に残るものになりそうだ。- WEDGE Infinity
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