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- 2016年03月17日 16:35
「米国こそ日米同盟を必要としている」
米CSIS所長がトランプ発言批判
日米安全保障研究会の報告書発表会
11月の米大統領選に向けた共和党の指名争いで、当初、泡沫候補と見られたドナルド・トランプ氏の勢いが止まらない。論戦というより“ののしり合い”に近い経過を見ると、米国流民主主義の「負の側面」を垣間見る思いもするが、驚くのは、日米関係に関しても、安全保障や貿易面で日本への不満をあおるトランプ発言に共鳴する米国民が、日本人の想像以上に多いのではないかと見られる点だ。2月29日、東京都内のホテルで開催された「日米安全保障研究会」の最終報告書発表会。日本財団の姉妹団体である笹川平和財団(SPF)が米国の「戦略国際問題研究所」(CSIS)などと立ち上げた研究会の共同議長を務めるジョン・ハムレCSIS所長は、「日米同盟は「(米国にとって)アンフェア」とするトランプ発言をわざわざ取り上げ、「米国こそ、この同盟を必要としている」と強調し、発言の裏に、トランプ支持が危険な領域まで広がっている現実への危機感があるように感じた。
「メキシコ国境に壁を作って不法移民を締め出す」、「イスラム教徒の入国全面禁止」など暴言に近い一連のトランプ発言は、民主主義を掲げる米国民には馴染まないはずで、本来なら指名争いでも早々に脱落していたはずだ。予想外の展開の背景には、拡大する格差に対する白人低中所得者層の反発、かつての「強いアメリカ」への復帰願望、プロが主導するワシントン政治への不信など、さまざまな要因が指摘されているが、トランプ現象がここまで広がった以上、大統領選の結果がどうなろうと、今後の米国社会、ひいては日米関係にも大きな影響を与える。
日米安全保障研究会は2013年、アジア太平洋地域が直面する諸問題を踏まえ2030年までの日米同盟の展望を示す目的で設立された。メンバーは米国側がハムレ所長のほかハーバード大のジョセフ・ナイ教授、第一期オバマ政権で国家情報長官を務めたデニス・ブレアSPF・USA会長ら6人、日本側が加藤良三・元在米特命全権大使、折木良一・前統合幕僚長、羽生次郎・SPF会長ら7人。29日は過去6回の議論を踏まえ、日米両政府に対する提言などを盛り込んだ最終報告書を発表した。
日米同盟が「半世紀以上にわたり、アジア太平洋地域をはじめとする広範な国際社会の安全保障と繁栄に貢献してきた」とした上、軍事力を増強する中国に対応するため、日米両国が「ひとつに調整された対中戦略」を確立する必要性などを指摘、さらに同盟を持続し世論の支持を得る方策として「将来の日本における米軍基地は、日本の国旗を掲げた基地を借りるテナントとして自衛隊とともに駐留する形が望ましい」といった提案も盛り込んでいる。
米国側メンバーは時に「ジャパン・ハンドラーズ」などとも表現され、日本政治にも影響力を持ってきた。「日米同盟はアジア全体の平和と繁栄に欠かせない」として日米同盟の一層の強化を目指す立場からもトランプ発言は、無視できないことになる。
トランプ氏は「誰かが日本を攻撃したら、われわれは救援に駆けつけなければならない。しかし、われわれが攻撃を受けても日本は助けに来ない」と日米安全保障条約の“片務性”を取り上げた上で、「日本はわずかなリスクとコストで自国を防衛するためアメリカとの軍事同盟に付け込んでいる」と日本を非難。通商関係でも、中国、メキシコと並べて日本を名指しした上で「これらの国から雇用を取り戻す」と主張している。
安保で言えば基地提供など日本の負担も大きく、貿易面では日本が米国の不動産などを買いあさった高度成長期ならともかく、現在は共存関係にある。ハムレ所長は「おかしな大統領選になっているかもしれない」とこれまでとは違う指名争いの現状に苦言を投げ掛けた上、英フィナンシャル・タイムズ紙記者の会場からの質問に対しても「日米同盟は何よりもわが国の安全保障に重要」と重ねてトランプ発言を否定した。
トランプ現象には、様々な分析や意見があり、いちいち「なるほど」と思う面もあるが、無謀とも思えるトランプ発言が何故ここまで米国民を引き付けるのか、実感できない面がある。民主党の指名争いを有利に展開するヒラリー・クリントン氏に関しても、別の意味で疑問を持つ。
クリントン氏はオバマ政権を引き継ぐと言明しながら、オバマ大統領が主導したTPP(環太平洋連携協定)は支持しない立場を表明している。労働組合を含めた民主党支持者が「国内製造業が打撃を受ける」と反対しているのが大きな理由のようだが、これでは米国に対する信用、指導力はどうなるのか。
難民問題をきっかけにした欧州各国の保守主義、排外主義の台頭や中東の民族・宗教紛争、歴史問題を軸にした中国、韓国の日本批判とこれに対するわが国の反発・・。突き詰めればどの現象にも、排外主義とナショナリズムの高揚が共通しているように思われ、不安定な時代を迎えたと憂慮する。(了)



